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95歳がワガママいう理由(わけ)

週に1回は母の老人ホームを訪ねる。

寝たきりの母は、有料老人ホームに入って4年が経とうとしている。
95歳の誕生日を迎えた。

私が面会するのは駐車場横の緑地だ。

狭い空間ではあるが、大きな桜の木がある。
その周りに背の低い木が植えられ、さらに花が植えられている。

歩けない母にとって
駐車場での30分程度が、外気と触れる唯一の機会だ。

ずっとエアコンの効いた室内にいるので、外が清々しい空気に触れて欲しくて。

夏の暑い間は、空にむくむくと沸き上がる入道雲を見せたくて。
雲の白さが目にしみるように。


今日は秋の風に触れて欲しくて。
空がだんだん高くなっているよ。
暑い夏がようやく去っていこうとしているから。


が、その面会も今日はけんか別れだった。

せっかくと面会時間なのに、ケンカをしてしまうことがよくある。

ーーー

今日のそもそものきっかけは
「歯医者の治療」だ。

母は心臓が悪いので、
歯をきれいにしておかないと、
ばい菌が心臓のほうにまで行ってしまう
(そのようにドクターからは説明されている)


訪問歯科を毎週お願いしていた。

それを部屋の中に入ってきて欲しくないとか、
歯医者さんのやり方が気に入らないとか、
なんだかんだ、理由をつけて断ってしまう。


おかげで、歯に縦縞のように
黒い線ができている。
口臭もある。

ーーー

夏休みに、孫のたっくんがお見舞いに来てくれた。

たっくんは今年の夏で5歳になった。
95歳と5歳のご対面。

実に90年の時の流れが2人の間にある。

たっくん「ひぃばぁば、お口が黒いのね」

歯が汚いことを言っていたのだ。

ひ孫に言われて、一瞬は歯をきちんと磨いたのだが、すぐに元に戻ってしまった。

そして歯医者拒否。

ーーー

ケアマネさんは
「無理強いしても仕方がないので、
気分の良い時を待ちましょう」
と言ってくれる。

私は娘なので、
ちゃんと歯をきれいにしてほしいと思ってしまう。

部屋にまで訪問歯科が来てくれてるのに、なんでわがままを言っているのか。
情けない。

ーーー

先週訪問歯科から手紙が来ていた。
前歯の後ろが欠けているので、治療の必要があると。

手紙だけでは、
どのように治療するのか、
再発はしないのか、
どのくらい費用がかかるのかがよくわからない。

そこで、老人ホームの看護師さんに会って、理由を話した。
結局、歯医者の助手さんから電話をもらうことにした。

ーーー

今日、桜の木のそばの日陰で。

長袖のシャツとカーディガンと、長ズボンをしっかりと着込んだ母(筋肉がほとんどないので寒い)

母は「これ持っていって」
とメモと箱を差し出す。

箱は、先週敬老の日のお祝いに渡したヨックモックのシガールだ。

ヨックモックのホームページより

これなら、年寄りにも良いと思ったんだけど。

実は母は食べ物や洋服の好みがうるさい。
それは寝たきりになる前からそう。
気に入らなければ即座に返してくる。

ーーー

メモの方を見ると書かれていたのは2点。

歯にものがよく詰まるので、ようじを持ってきて欲しい。

1人で部屋にいる時、何もないと寂しいので、お菓子を持ってきて欲しい。

治療をしないから、歯に物が詰まりやすいのだろう。

そこで、歯医者から手紙が来たことを話してみる。

「なんで歯医者は勝手に娘に手紙を出すのか」
と怒り出した。

治療なんか必要ない、の一点張り。

治療はちゃんと受けるべきだと言っても話は平行線。

言い合いになった。

ーーー

あつこ「先週、ちゃんと考えたつもりのお菓子を、次の週に即座に返してくるようでは。
お菓子なんて選べない」

年寄りが好きなお菓子は、常識でわかるだろう、という母。

この「常識でわかる」も、母レベルの話なので難しい。

治療を受けない。
お菓子の好みもうるさい。

すっかり私は気分を悪くして。
すると、母も帰ると言い出す。
誰か施設の人が通らないかと、周りをキョロキョロと見回す母。

実に強い。
私が車椅子だったら、こうはいかない。

あつこ「もう来週は来ないから」

ーーー
こうしてけんか別れ。

自転車をこぎながら、、
少しずつ冷静になって考えてみる。

家に帰れない母。
もう最後の時まで、あの施設の
あの部屋にいるしか無い母。

寂しいんだろうなぁ。
辛いだろうなぁ。

寝たきりになりたくてなったわけではない。

昔から思っていたこだわりが、さらに強く出るようになって。

せっかくの歯医者さんを断ったり
娘のわたしを怒らせたりすることで
自分が生きているんだ、という証(あかし)を得ているのではないか。

いやいや、多分無意識のうちに
周りの人に手間をかけさせることで
自分の心の平安を保っているのではないか。  

なんか、もう。
同じ土俵に立つのではなくて。
柳に風と受け流すだけの心の広さを持ちたいが。。

ああ、修行不足です。

結局、こうして、来週も会いに行くことになるのだろうなぁ。
これ、お嫁さんだったらまず無理でしょ。

実の娘だからやってるんだよね。

私の心の自問自答が続く。

生きている証がわがままでは。
それはそれで悲しいような気も。
歳をとるって、ほんといろいろ難しい。

(まとまらないノートになってしまいました。)

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