マネジャーが成果を出すために身につけたい「3つの能力」
先月の記事では、私が所属するウイングアーク1stで、どのようにRevOps(Revenue Operations)の体制を構築してきたかを振り返りました。
営業やマーケティングなどの部署単位ではなく、売上に関わる全部門が全社横断でデータを共有し、オンタイムにマネジメントをしていくRevOpsの取り組みは、収益性の拡大と顧客への提供価値の向上だけでなく、部門間やライン内の会話がスムーズになるなど意思決定の迅速化にもつながります。まだお読みではない方は、ぜひご参照ください。
今回は、主にマネジャーの視点に立ち、成果を出すために私が必要だと感じている点について解説していきたいと思います。
忘れてはならない、日本企業ならではの事情
マネジメントを考える際、日本企業特有ともいえる事情について認識しておく必要があるでしょう。
具体的には、欧米などの企業では事業環境の変化に対して人的資本の入れ替えがしやすい一方、日本企業ではなかなか簡単にできない傾向があります。より直接的な表現をすると、米国と比較した場合、日本企業では雇用した人材を解雇することは容易ではありません。そのため事業環境に合わせたダイナミックな人的資本の入れ替えをするのではなく、いかに人材を事業環境の変化に合わせて育成していくかという長期での観点が重要になると考えています。
極論になりますが、米国であれば人間の10倍の生産力を持つ機織機が発明された場合、人間10名と機織機1台を入れ替えることは容易です。
日本においては、一部の企業を除き、そう簡単に判断できる内容ではありません。
そのため、よりテクノロジーの変化や事業環境の変化に対して注意を向け、将来予測に基づき組織体制の変更や人員の育成計画を立てていく必要があります。
新規事業を立ち上げる際や、新しい部門を立ち上げる際など、将来計画なく人員を増やしてしまった場合、事業環境が大きく変化した際に組織を縮小したり、あるいは撤退する必要に直面した際に、とても難易度の高いミッションに取り組まなければなりません。そういったケースが避けられないこともあると思いますが、なるべくならそういった状態は避けたいと考えています。
私自身も新しい組織を立ち上げする際、組織導入成果の検証を少数のチームで行い、将来得られる事業成果と必要投資、事業環境リスクなどを考慮し、投資計画を進めるようにしています。インサイドセールス部門を立ち上げた際も、最終的に数年かけて数十名規模の組織をつくり、そのうち7割ほどの人員はBPOの形式で補う計画を立てて実行しました。
各国にも諸事象があると思いますが、日本ならではの条件下で最適な手法を考えていく視点も必要であると考えています。また外部ベンダーを活用する場合、BPOベンダーが持つノウハウを活用することができる点はメリットとなります。一方で社内組織をマネジメントする事とは異なる相応のベンダーマネジメント能力が必要となります。
最近では「BPaaS(Business Process as a Service)」として、クラウド上でBPOを提供するサービスも出てきており、こういったサービスを検討することも良いと思います。
組織で何かを行う際に、自組織だけで実行するのか、外部へ委託するのか、という点は常にマネジメントの視点では重要な要素となります。外部委託する方が、より速く、確実に目標に到達できて、投資の許容範囲に収まっているのであれば検討の余地は大いにあると思います。
必要なのは「言葉にする力」
先ほどの話の続きにもなりますがBPOの形で人的リソースを確保することは、外部ベンダーとのコミュニケーションが必要不可欠となります。マネジャーは、メンバーへの情報共有や業務指示を出す際、さらに外部ベンダーへ発注する際など、数多くの場面で要件を明確にする技術が求められます。
外部ベンダーとのコミュニケーションでは、適切な要件定義ができないと手戻りや損失の発生につながってしまいます。適切なベンダーコントロールができず、苦労している背景には、常日頃から社内メンバーに囲まれ、ある意味で阿吽の呼吸で業務を遂行していることが影響しているのかもしれません。
阿吽の呼吸は互いのプロセスが最適化されている状態であると思いますが、そこに行きつくまでには相応の時間が必要となります。労働人口の減少や人材の流動性が高まっている背景を考えると、阿吽の呼吸に頼り切った組織運営は危ういと考えています。
自らの組織の果たしたい目的や、なぜその目的を果たす必要があるのか、目的達成のためのプロセスや手段、組織体制や仕組みが適切である設計を行い、それらの実行可能性があることを明らかにすること。
組織がどこに、いつまでに、どのように進むのか、何故そこへ向かうのか。
具体と抽象を行き来しながら組織全員が共通理解できる目的地までの「旅のしおり」が必要です。
「旅のしおり」があれば、新しいメンバーが加わっても、旧来のメンバーが道に迷ったとしても常に向かうべき方向性を提示してくれるはずです。
明文化するということは厳密に言葉を選び、自分達の行き先を明確に定めることです。
「北に行くということは、南には行かないということ」
何も指示がなければ、メンバーはそれぞれ違う方向へ動いています。
指示が曖昧であれば、メンバーはやはり微妙に違う方向へ動いていきます。
何か1つの目的のために強く組織を動かしていくためにも、そしてメンバー一人ひとりのポテンシャルを最大限引き出すためにも、マネージャーが判断に至らず躊躇する状態や、全方位に進むような無謀な計画を立案することや、曖昧な行き先を指さすことは避けたいところです。
「収益性の考慮」
例えば米企業は、これまで人手で行っていた作業の生産性を1とした場合に、生産性が5倍となる機械やシステムが新たに登場すれば、一時的な設備導入や運用にコストが発生するとしても、人員を削減した際や運用などを考慮し採算が合うのであれば合理的な投資として導入を判断します。
翻って我々はどうでしょうか。企業の方と意見交換する機会も多いですが、導入に伴って発生する一時的なコストを過大視して見送ってしまうパターンが多いという印象です。上述したように、日本企業は米国企業と比較して人的資本の入れ替えの難易度が高く、より効率的なシステムを導入したからといって、その分の人員を解雇することは現実的ではありません。
ただ、投資により圧縮できた人材については、別の部署に配置して再投資を
行えば組織全体の収益性の向上を見込むことができます。一過性のコストを呑み込み、より長期的な組織の在り方を考え、収益性を向上させる観点もマネジャーには必要だと考えています。
それを実現するためには組織の次の成長可能性がどこにあるのか常に考えておく必要があるでしょう。
また投資は積極的に行ったものの、導入自体が目的になってしまっているケースや、導入計画自体が現実性を欠いていたため本来の投資効果が得られていないケースもあります。数億円をかけてSFAを導入したものの営業日報にしか使われていないケースや、BIツールを数億円かけて導入したが年に数回分析に使う程度、分析結果も社内での利用は限定的で投資効果は得られていないなど、そういった事例は枚挙にいとまがありません。
あくまでテクノロジーは、達成すべき目的や解決すべき課題が先行して存在しており、その課題を解決するための「手段」でしかありません。明確な目的がないままに起こした組織変革やシステム導入は、組織に負担と負債を残すだけの遺産(レガシー)となることもあります。また新たな計画も宣言するときは堂々と声高らかに号令されていても、やったらやりっぱなしで、成功や失敗の学びが組織や経営へフィードバックされていないケースもあり、貴重な組織体験をムダにしてしまうこともあります。
顧客提供価値を最大化すること、収益性を担保すること、企業価値を向上させること、これらをすべて繋がっています。収益性がなければ顧客へ十分なサービスや製品を提供することは出来ません。顧客への提供価値と収益性を最大化することが企業価値向上に繋がります。
マネジャーは組織の収益性を考慮した判断力が求められます。
マネジャーの大きな仕事「決断」 そのために必要な「ピン留め能力」
では、組織の目的や、進むべき道筋をどう考えれば良いのか。ここで求められるのが、マネジャーの「ピン留め」能力です。正解のない世界で組織の目指すべき方向性を定める決定を下すことです。
自組織の現状や外的環境を考慮し、どの程度のギャップ(成長)であれば乗り越えられそうか。また、どちらの方向に進むべきかを考え抜き、その目的地にピンを留める能力が求められます。正解がある訳ではないのでとても難しい決断ですが、決断しなければ組織が進むべき方向が曖昧になります。
ピンを留める能力はとても重要なのですが、これまでの「累積思考」、つまりいかに考え抜いた経験があるかに大きく左右されるものでもあります。日本企業はプレイングマネジャーが多いとされており、目先の業務に追われていることもあるでしょう。つまり、自身もワーカーとして手を動かさざるを得ない状況に追い込まれ、考え抜く時間もないという人は多いのではないでしょうか。
マネジャーとは組織の向くべき方向を決断し、メンバーに示す必要がある、責任重大なポジションです。組織の状態や、競争環境の変化など、常に多くの重要をインプットしながら最適な決定を下せる準備をしていなければなりません。
しかし、だからといって周囲の手を借りてはいけないわけではありません。むしろ積極的に周囲に力を借りて良いと考えています。自身が手を動かすのではなくメンバーを頼り、自身は意思決定のための思考するための時間に集中するということも重要です。
また類似する課題に取り組んでいるビジネスパーソンや、豊富な知見や経験を有する有識者へ相談することも良いと思います。私も交流会などでは積極的に活動して、他社の方と継続して情報交換を行っていますが、とても貴重な機会です。
米国では一時雇用のCXOが増加しているというデータもあります。そういった専門人材は貴重ですので、多くの会社で知見をシェアしているというわけですね。
「豊富な知見や経験を有する有識者へ相談する」というのは、身近なところですと書籍がありますよね。
日本のビジネスパーソンの読書は先進国の中でも特段に低いというデータがありますが、僅か数千円で他者の経験を拝借できるのであれば、活用しない手はありません。
今月もここまでお付き合いいただきありがとうございました。マネージャーに必要な能力はもっと沢山ありますが、今回は社内の対話で取り上げた3点について記載いたしました。
次回は、私が感銘を受けた書籍の紹介を交えながらお話ができればと思います。
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