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コンテンツ化される”ヨコ”の世界線

「会社という組織で働くぼくら男性は、ヨコの関係が希薄になり続け、組織内でのタテの関係だけが強化され続ける

昨日の記事でこんなことを書きましたが、同期や地元の友達のようになんでも言い合える”横の関係”って、大人になるととても貴重ですよね。

というか、ぼくのようにほとんどない人も多いと思うんです。

だからなのか、”ヨコ”の関係ってコンテンツとして人気があるなって最近感じてます。

これって、執筆や音声配信や他のサービスでも、なんらかのコンテンツを作る人にとっては、ヒントになるものがものすごくあると思うんです。

例えば、日本でもっとも人気のあるポッドキャストであるコテンラジオ。再生回数は2,300万回、リスナー数は16万人を超えています。

出演者はみんな九州大学の人間で、番組内のやりとりも男子校のようなノリがあるんですね。しょっちゅう大笑いしてるし。

歴史が学べるから聴くんじゃなくて、彼らのわちゃわちゃしたやりとりが聴きたいという人も多いと思うんです。というかぼくがそうです。

コテンラジオ登場までは、トッキンマッシュというポッドキャストがすごく人気がありました。

2022年のジャパンポッドキャストアワードでベストパーソナリティ賞を受賞するなど、今でもかなり人気があります。

コテンラジオ出演者の樋口さんもトッキンマッシュが好きだと言ってましたので、影響を受けられてるんじゃないのかな。

トッキンマッシュは、確か小中学校が同じメンバーなんですよね。完全に幼馴染ですよね。

なんでも言い合える幼馴染の男たちが好き勝手しゃべっているだけの番組なんですが、このゆるい空気感がクセになって、気がついたらお風呂に入りながら聴いてしまうくらいぼくはハマってしまいました。

「中学校のとき、おまえはこんなことした」だとか「あとの子は俺のこと好きだったはず」だとか、しょうもない話が多いんですが、そのしょうもない話を聴きたいんですよね。

なんだか癒されるんです。

それから、20代女性ふたりがひたすらおしゃべりするだけの「ゆとりっ娘たちのたわごと」というポッドキャストもかなり人気があって、リスナー数は35万人を超えています。

スタバの端っこで繰り広げられるような、ゆるいOLの会話を盗み聴きできるポッドキャスト。

子どもから大人まで、くすくす笑えてちょっと深まる「大人版ちびまる子ちゃん」的世界観でお送りしております。

「ゆとりっ娘たちのたわごと」のコンセプト

もう、普通の女子のおしゃべりなんですけど、彼女たちの相性が良すぎて”普通のおしゃべり”が完全にコンテンツになってるんですね。

おふたりは”バイブス”を大事にしていると言っており、収録直前までおしゃべりをしてお互いの気持ちを高め、ふたりの息が合ったタイミングで収録をスタートさせるそうです。

そのせいか、このポッドキャストはどこを切り取ってもふたりの息がピッタリなんですよね。

このポッドキャストも、”ヨコの関係”をうまくコンテンツに落とし込んでいますよね。

飽きられないような編集もめちゃめちゃ上手で、すごく作り込まれてます。

ポッドキャストの裏側をYouTubeでも語っているので、これを見るとわかりやすいかなと思います。

ぼくが”ヨコの関係”コンテンツに惹かれるようになったのはコロナ禍からなんですが、人とのコミュニケーションが減ったからこそ、こういったコンテンツに触れたくなったのかもしれないなって思うんです。

リアルでのコミュニケーションが減ったからこそ、リアルでは得られない心の充足を求めて聴いてしまうのかもしれないです。

一種のヒーリングミュージックみたいなもんですね。

一度聴き始めるとクセになるんですよね。久しぶりに友達に会いたいと思う気持ちに似てるのかもしれない。

もしかしたら、こういったコンテンツを自分の”疑似的な友人”として消費しているのかもしれないですね。

きっかけはコロナ禍でしたが、コロナが収まってもたぶん聴き続けると思うんですよね。というか、今でもよく聴いているんです。

ということは、リアルでの人とのコミュニケーション不足が問題だったんじゃなくて、そもそも根っこの部分でこういったコンテンツを求めていたってことだと思うんです。

なぜなら、現実世界ではこんな”ヨコの関係”ってないんですよね。

なくても生きていけますが、こういったコンテンツに触れてしまうと(やっぱり、ヨコの関係っていいな)って思っちゃうんですよね。

ないとちょっと寂しいなって。

リアルの世界では、なんでも言い合える関係ってほとんどないじゃないですか?これはぼくだけじゃないと思うんですよ。

子どもが生まれると余計に社会がせばまってくるんで、さらになくなるんですよね。

そんな心の隙をうまく突いていると思うんです。”ヨコの関係”コンテンツって。

ないからこそ憧れるんですよね。

コテンラジオはコテンラジオ好きな人が集まったコミュニティを作っていますが、それもコテンラジオを軸にした”ヨコの関係”だと思うんです。

地元の友だちみたいに好き勝手言い合えるわけじゃないと思うんですが、自分と似たような人が集まって、普段はわかり合える仲間が身近にいなくて肩身が狭い思いをしている人たちが、その場所なら気持ちが解放されることってあると思うんです。

彼らにはしか共有できない文脈ってあると思うんです。

ぼくがお世話になった(今でもお世話になっている)野本響子さんの執筆サークルも同じで、”書くことが好き”という軸で集まった人たちが、ある種の”ヨコの関係”を築いているんですね。

そのサークルに入ってぼくが一番嬉しかったことは、”書くこと(執筆)でつながり合える関係”が作れたことなんですね。

活発に参加していた当時は、本当に毎日が楽しくて、こんなに楽しいことがあるのかと思えたくらいでした。

ただ、こういったコミュニティというのは、やはり一定の礼儀の上で成り立つ"ヨコの関係"なんですよね。

それですら希少でありがたいものなのですが、地元の友達のようになんでも言い合える、密度の濃い"ヨコの関係"とはちょっと違うわけです。

たぶん、多くの人はぼくが体験したような趣味サークルを使った"ヨコの関係"は作れると思うんです。

実際、ぼく自身も"夫婦関係"を軸にしたコミュニティを作ってますし。

ネットでもリアルでもこういったものを作ったり、参加することは誰にでもできると思うんです。

だけど、遠慮なくなんでも言い合えるような、驚くほど心理的安全性が高いコミュニティはなかなか作るのが難しいと思うんですね。

今から地元の幼なじみを作ることなんてできないじゃないですか?

それに、30代になって子どもが生まれてるのに、地元の友だちとわちゃわちゃおしゃべりするだけの生活なんてできないですよね?

郊外のマイルドヤンキーは土日に地元の友だちと河原でバーベキューをしていて、そんな人たちが本当は幸せなんだみたいな話がありますよね?

でも、「そんな生活、現実的じゃないよ」と言う人は、たくさんいると思うんですよ。

だからこそ、"ヨコの関係"コンテンツは人気があるんだと思うんです。

深すぎるその関係性に嫉妬を覚えるほど憧れるから。

どんなに憧れても手に入れることができないものだから。

誰もが本当は心の底から"深いつながり"を求めているから。

"誰かにぼくのことを、わたしのことを、わかって欲しい"

そんなあまりに深すぎる人間の根源的な欲求を、誰もが抱いているから。

叶えることが困難なそんな願望を、多くの人は胸の中にしまっていると思うんです。自分ではなかなか気づけないけど。

羨望のまなざしで求めてしまうけど、決して手に入らない切なさも感じてしまうもの。

すぐそこにあるような親近感を覚えつつも、実は自分の周りには存在しない異世界の話。

それが"ヨコの関係"コンテンツだと思うんです。

濃く深い”ヨコの関係”は、作り手の工夫で感じてもらうことができるんじゃないかなと思うんです。難しいとは思うけど。

"この人ならぼくのことを、わたしのことを、わかってくれる"

その感覚が"生きることを楽にしてくれる"と思うんです。

毎日が楽しいな、幸せだなって思えるヒントは、きっとそこにあるんだと思う。

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