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妻からインスタをブロックされ、思いがけない自分の本音を知った話

(あれ?妻のインスタグラムが見れない…?これはブロックってやつ!?)

そう気がついたのは、沖縄への社員旅行の二日目のことでした。

子どもたち(双子)がまだ1歳か2歳くらいの頃だったと思います。ぼくはその会社に転職したばかりで、社員旅行をものすごく楽しみにしていたんですね。

今まで社員旅行なんて行ったことがなく、その会社に転職してから他の社員から社員旅行が楽しかったという話をよく聞いていたので、ワクワクしてその日を待っていたんです。

でも、妻にとっては違ったんですよね。目をキラキラさせて「社員旅行に行ってもいい?」と聞くぼくを妻はこころよく送り出してくれましたが、ぼくは家にいる妻が何を考えているのか、実際は何もわかっていなかったんです。

初めて見た沖縄の海と空はめちゃめちゃ綺麗で、ぼくは仲のいい同僚たちとダイビングやシュノーケリングを二日間楽しみました。10月の沖縄は台風もなくて、ちょっと薄寒くなってきた本土から来た人間にとってはかなり過ごしやすい季節でした。

その会社は社員同士の仲が良くて、一緒に遊んでいても変に変に気を遣うこともなく、ぼくも気が合う人が多かったので心からその旅を楽しんでいたんです。

でも、あまりに楽しみすぎて妻への連絡はおざなりになっていたんです。

ぼくから妻にLINEすることはほとんどなく、妻から来るLINEに対しても返事は遅く、そっけない返事しかしていませんでした。

社員旅行は3泊4日だったんですが、初日の昼間はそこそこ妻に連絡はしていたんですね。(そっちはどう?)(今、〇〇してる)とか連絡を送っていたんですが、初日の夜から2日目の夜にかけて、ぼくはすっかり妻に連絡をするのを忘れてしまったんです。

出張中などぼくが家にいない間、子どもたちの様子を知りたくて妻のインスタをよくチェックしているんですが、社員旅行2日目の夜、妻のインスタを見ようとしても見れないんですね。

(あれ?アカウントを検索しても出てこない?アカウント削除するわけないし……、これは、もしかしてブロックされている……?)

そう。妻はぼくが子どもたちの写真を妻のインスタでチェックするのを知っていたので、それができないようにぼくのアカウントをブロックしていたんです。

(これはかなり怒っているに違いない……!)

そう思ったぼくは大慌てで妻に電話しました。あんなに焦ったのは初めて付き合った女の子にフラれた時以来だったと思います。

電話の呼び出し音がいつもより長く聞こえ、不安はどんどん募っていきました。

やっと電話に出てくれた妻にぼくは連絡をしなかったことを平謝りしましたが、妻はこう言ったんです。

「あたしがどう思っているかわかってないでしょ?」

ぼくは妻は(怒っている)と思っていたんです。(自分だけ楽しんで、大変な思いをしているあたしに連絡しないってどういうこと!)と。

でも、全然違ったんです。ぼくはなにもわかってなかったんです。

その時妻は電話口ではなにを思っているのかを話してくれませんでしたが、妻への抱えきれないほどのお土産を買って帰ったぼくに、妻はこう言ったんです。

「あたしは寂しかったの。まるでこの子たちと自分だけが社会に取り残されたような気がしていたの」

「あたしと子どもたちだけの世界に閉じ込められてしまったような気がしていたの」

1歳の双子を育てている妻にとって、社会とのつながりはぼくだけだったんです。唯一の社会とのつながりであり、唯一わかり合えるはずの存在であるぼくの態度が冷たい。

それは、妻にとって社会との断絶を意味していたんです。

その当時、ぼくはそのことに気がついていませんでした。その意味を本当の意味で理解できたのが、三男が生まれてからの怒涛の育休生活中のことでした。

当時を振り返って思うんですが、ぼくは逃げ出したかったんだと思うんです。

双子と妻を養うために朝早くから働き、夕方は残業せずに帰ってくる。

朝(深夜?)の3時から5時頃まで双子の面倒を見て、ちゃんと寝かせてから会社に行く。

1時間電車に揺られて会社に行き、猛スピードで仕事をこなして、お昼休みに仮眠を取り、17時きっかりに会社を出る。

自分の時間なんて一瞬もなく、気を抜けば気絶しそうな毎日の中で、もちろん妻の方が大変だったと思いますが、ぼくも限界だったんだと思うんです。

そんなぼくにとって、仲のいい会社の人たちとの「社員旅行」はそこから逃げ出すことができるいい口実だったんです。

社員旅行中に妻への連絡がおざなりになった原因は、ぼくが家庭から逃げ出したかったからなんです。

過酷過ぎる多胎児育児からぼくは逃げ出したかったんです。

「逃げ出したい」という自分の思いに気がついていなかった当時のぼくは、”逃げることのできない妻”を置き去りにしてしまったことにまったく気がついていませんでした。

今ならわかるんです。自分の「逃げ出したい」という気持ちが。その気持ちを素直に認めることもできるんです。でも、当時は自分の気持ちに気がつくこともできなかった。

これは言い訳に聞こえるかもしれませんが、多胎児育児は夫婦2人ではどうにもならないと思うんです。

誰かの助けがないと回らないし、身体的にも精神的にもとてもじゃないけど2人ではやりきれない部分がある。限界があると思うんです。

自分で言うのもなんですが、ぼくは上の子たち(双子)の育児に関してはガッツリ関わっていた方だと思うんです。それでもこんなことが起こるんです。

ファミサポなどの育児支援の認知を広げることも大切ですが、何よりも「育児は誰かに助けてもらってもいいんだ」「そもそも夫婦2人で育児をすることがムリなんだ」ということを、当事者が認識しやすくするような社会作りが必要なんじゃないかって思うんです。

ぼくらは自分たちの力で育てないといけないと思い込んでいたと思うんです。そうじゃないんだと気がつけたのも、三男が生まれてからでした。

今では時短家電を使いまくり、シルバー人材センターさんに平日夕方の家事をお願いしたり(今はもうやめましたが、三男のイヤイヤ期にはものすごく助かりました)、たまに妻の実家に上の子たちをお泊まりさせたり、思いつく限りのサポートを使っています。

もう、ぼくが家庭から逃げ出すことはないと思いますが、あのままの状態が続いていて、妻がインスタをブロックすることもなく、本音を言ってくれなかったら、ぼくはどうなっていたらか分からないなって思うんです。

仕事や出張や社員旅行。

そういった”妻が責めにくい男性の逃避先”に、ぼくは逃げ込んでいたんじゃないのかなって思うんです。

ぼくら夫婦にとって”インスタブロック事件”は今では笑い話になりましたが、ぼくにとっては自分が”家庭から逃げ出したかった”ことに気づけた貴重な出来事になったのでした。

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