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人格が増えた

10ヶ月ぶりに日本に帰国した。


帰国直前。久しぶりに友人や彼女と会える。楽しみで仕方がない。


だが、そんな私に1つの懸念があった。


わたし、めちゃめちゃなまいきになってないかな





モロッコ人。

空気を読んでくれるなんてことは、ない。


やってほしいことは、ちゃんと言わなければならない。嫌なことは、はっきりとNoと言わなければならない。

腹が立つことをされたら、怒りを表現しなければならない。


日本では暗黙の了解のようなことになっていることも、しっかりと意思を表示しないと、かれらには何も伝わらないどころか、利用されることもある。


この生活を経て、わたしにはある実感があった。


わたし、図々しくなったな





そんなことを考えながら、舞台は日本行の機内のなか。


フランス経由だったのだが、フランス → 日本の飛行機にはすでに多くの日本人がいた。

わたしの隣も日本人で、わたしが席に向かったときにはすでに座っていた。



わたしはその日本人をみて、目をうたがった。



その日本人、イスの、両方のひじ置きに、どっしりとその両方のひじを置いている!!

さらにあろうことか、その肘がわたしのイスの範囲に侵略している!!!!


無礼者め!!!絶対に、ゆるせない!!!!!!



….



わたしは、ちょっとわたしのイスの範囲に侵略している肘に対して、ぶつからないように、身をきゅっと細めながら座った。


なにも言わずに。じぶんの思いとは裏腹に。



日本に帰ってから、たくさんの友人と会った。

その友人たちから、「変わったね」や「なんか堂々としたね」と言われることは、一切なかった。


わたしは、図々しくなっていなかった。

わたしは、あのときとなにも変わらず、気が小さいままだった。





わたしは、わたし自身が図々しくなったわけではなかった。


わたしの中に、「vs 外国人への人格」が新たに形成されて、それが図々しかったのだ。

新たな人格は、わたしにすでに備わっていた「vs 日本人への人格」には、一切影響を及ぼしていなかった。



えてして、そういうものなのかもしれない。

こうして、わたしの懸念は無事思い過ごしのまま終わった。

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