経営管理のデジタルシフトColumn 第2回:目的の明確化/事業体系を再定義する
今や事業領域だけではなく経営管理の領域でもデジタルシフトの必要性が叫ばれています。従来からの数値集計や分析は、クラウドやビジネスアナリティクスといったテクノロジーを導入することにより、その正確性やスピードが革新的に高まっていきます。
・そんな今、経営管理を高度化していくうえでの重要なポイントは何か?
・何をゴールとし、どのように進めればよいのか?
・その結果、何が変わりどんな良いことがあるのか?
このコラムでは、これらを具体例も交えながらお伝えしていきます。
第2回は、「目的の明確化」の事例について触れていきます。
(前回の記事は、こちらからどうぞ。)
自社起点からマーケット起点へ
これまでの事業設計では、製品を基軸に事業を体系化し、その事業体系に基づいて組織を構築することが一般的でした。
さらに近年では、製品という「自社視点」だけでなく、「マーケット(市場や用途)を起点とした視点」を取り入れることが求められています。製品の競争力を強化するだけでなく、グローバル市場のニーズをタイムリーに把握し、そこから新たな市場拡大を目指すことが重要となっています。
また、「マーケット起点」の視点を持つことで、新しい用途を開発し、潜在的な需要を創出することが可能となり、それが結果として新製品開発にもつながることが期待されます。
さらに、この「マーケット起点」の視点により、グローバル市場の変化が自社の業績に与える影響を迅速に察知し、戦略の再構築に向けた適切な経営判断ができる体制を整えることが、今後の企業競争力を左右する重要な要素となってきています。
事業体系の再定義
グローバルな視点で事業体系を再定義する際には、
「誰が」「どの数値を見て」「どのような判断をするのか」
という目的を明確にしておくことが、不可欠です。
この目的を明確化しておくことで、必要なデータの粒度(細かさ)や精度・算出基準を、現実的なレベル感で定義できるようになります。
逆に、目的が不明確なまま進めたことで、事業を過度に細分化してしまい、グループ各社や本社がデータの作成や収集に追われ、最終的には、苦労して作成したそのデータが活用されずに終わることもよくあります。
データは、活用されなければ意味がありません。データが適切に活用されることで、全社的に数値への意識が高まり、データ品質も向上していきます。
そのため、経営管理改革を進めるうえでも、「目的の明確化」は極めて重要となります。
また、事業体系を再定義する際には、「製品×市場」の単純なマトリックスにすべてを当てはめるのではなく、マトリックスで捉えるべき製品を見極め、まずは試行的に進めていくことが大切です。
このような試行による成功体験を積み重ねていくことで、事業体系を柔軟に変更できる仕組みを構築することができます。
事業体系の変更に柔軟に対応できる仕組みとするには、その仕組みづくりの進め方や、実現するための仕掛け(システム等)も柔軟であるべきなのです。
グローバルでの可視化/ROIC経営
再定義された事業体系のもと、グローバル連結損益の算定やコスト構造の可視化を実現し、事業や拠点ごとでのベスト・ワースト分析を通じて、実際の改善活動につなげていきます。
こうしたグローバル全体でのP/L(損益計算書)の可視化に加え、近年では投資の収益性を評価するために、「事業別のROIC(投下資本利益率)」を算定し、ROICツリーを展開したKPIマネジメントに取り組む企業が増えています。
しかしながら、事業別ROICを単純に教科書通りの計算式で作成しても、それが実際のデータ活用や改善活動に結びつかないことが多々あります。
特に、B/S(貸借対照表)の項目については、各事業や各組織に機械的に配賦したとしても、誰が改善に責任を持つのかが曖昧になりやすく、実際の改善活動に繋がらない事態に陥りがちです。
数値の改善に対する責任の所在を明確にするためには、特定の事業が保有するB/S項目(工場や設備など)をその事業に帰属させ、他の事業に対しては使用率に応じて金利負担させる、などといったルールを適用する方が、管理も容易になります。
また、ROICツリーにもとづくKPIマネジメントにおいては、全てのB/S項目を考慮する必要がない場合もあります。
例えば、目的がM&A(企業買収・合併)検討時のシミュレーションであるなら、毎月算定する必要はなく、必要な時に随時算定すれば良いのです。また、M&Aの判断に必要な単位であるSBU(戦略事業単位)ごとに算定することも有効です。
このように、「目的に即した現実的な解決策」を見つけることが、経営管理高度化のプロジェクト成功の鍵となります。
柔軟かつ効果的な経営戦略を実現するには、事業体系を再定義し、「マーケット起点」での経営判断を可能とすることが必要です。
グローバル市場での競争力を維持し、成長を続けるためには、これらの視点を取り入れた体制整備が不可欠です。
次回は、この「柔軟かつ効果的な経営戦略のための体制整備」を実現するための「具体的な進め方」について触れていきたいと思います。
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アットストリームコンサルティング株式会社
経営管理・管理会計サービス
投稿者:
アットストリームコンサルティング株式会社
執行役員・マネージングディレクター 西村 直
アビームコンサルティングを経て現職。グローバル経営管理制度設計ならびにシステム化構想、クラウドシステム導入、分析手法の定着化支援など多数の経営管理プロジェクトを企画・推進。経営管理サービスの責任者。
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マネージャー 甲本景子
TIS(株)を経て現職。会計関連システム構築、内部統制構築支援、IFRS導入支援など様々なプロジェクトを経験後、経営管理システム導入プロジェクトを多数推進。経営管理サービスを担当。
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