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DX Column 第二回:”DX”のカオス化から抜け出すには?【前編】~カオスは当たり前~


カオス化するDX

“DX”という言葉は、日本では2018年に経済産業省から発信された「DXレポート」をきっかけに一気に広まった感があり、当記事を書いている時点で既に5年以上が経過しています。

当初は“DX”の実行イメージが不明確であったこともあり、実行フェーズに入る企業は限られていました。しかし、時間の経過と共に「デジタイゼーション/デジタライゼーション/デジタルトランスフォーメーション」「攻めのDX/守りのDX」「バックオフィスDX/フロントオフィスDX」など、“DX”の分類整理が進んだことで実行イメージが明確になり、各社において “DX”を冠した施策やプロジェクトが次々と実行されています。

“DX“に限らず、ITの分野ではCRM、SCM、SFA、ERP、クラウド・・・など、様々な言葉が流行しては“混乱期”を迎え、次第に実態が見えてきて収束することを繰り返してきました。

“DX”も、分類整理され実行フェーズに入ったからには、そろそろ混乱が収束しても良さそうです。ところが、各社の実態を見るとむしろ“実行するほど混乱している”、“カオス化が進んでいる”ようにすら見えます。それはなぜでしょうか?

カオス化するのが当たり前?

“DX”のカオス化という観点で見たときに、多くの企業ではどのような事が起きているのでしょうか。第一回:DXを進めるためには?でも、「施策同士の不整合」等、代表的な課題を挙げていますが、具体例を紹介したいと思います。



【DXがカオス化する具体例】 

  • 同じような“DX施策”を異なる部署がバラバラで実施している

  • DX施策がいつの間にか始まり、いつの間にか終わる

  • 一通りのツールは導入したものの、効果が見えない(使われないケースもある)

  • デジタイゼーション(データ化)したつもりが、様々なツール、システムに分散していて統合が困難(利用できない)

では、このような状況が生まれてしまう原因は何でしょうか?

1つ目は、何でも”DX”と言えてしまう/言ってしまう風潮が強い点が挙げられます。DXの分類整理が進んだ結果、全体としては”DX”というキーワードで包含される範囲は非常に広くなりました。例えば、「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」を「デジタルトランスフォーメーションに至るためのプロセス」として位置づけたことで、それらも”DX”に包含されました。そのため、今やあらゆるデジタル関連施策は”DX”と言えてしまいます。また、企業のIT部門担当者と話をしていると、「最近は”DX”という言葉を使わないと社内稟議が通らないので、DX施策が乱立してしまうんですよね。」といった声も聞こえてきます。本当はデジタルトランスフォーメーションに向かうプロセスが描けているわけではないが、データ化(デジタイゼーション)する施策は”DX”と言ってしまう。「“DX”と言えてしまうし、言ってしまう」ために、バックオフィス系の施策やトランスフォーメーションに至らない様々な施策が乱立する状況を生んでいます。

2つ目は、あらゆる部門がDX施策の推進主体となる点が挙げられます。技術の進歩により、システム導入に高度なITスキルが求められなくなったことで、IT部門が関与していないDX施策が非常に多くなりました。営業DX、工場DX、人事DX、法務DX・・・などなど、部門主体となりやすい分類が一般的に使われるようになったことも影響してか、個別部門が単独で進めている施策も多いです。

3つ目に、「試行錯誤を前提に小さく始める」ため、施策立ち上げの障壁が低い点が挙げられます。例えば、ノーコードツールの導入を例に挙げると、「特定部門の効果が高そうな業務に限定して試してみる」といった短期間かつ低コストでのスタートを切るケースが多く見受けられます。

「何でも”DX”と銘打って、様々な部門主体で、とりあえず始める」という状況で且つ、デジタル関連施策を全社的に統合して管理する役割が不在である中では、むしろカオス化するのが当たり前に思えてきます。

図1

カオス化から抜け出すには?

カオス化から抜け出して、変革に進むための道は、カオス化の原因の捉え方を変えることで見えてきます。

  • ”DX”という広範なキーワードを利用して、様々な施策を「企業の変革」に統合できる

  • 会社の変革を、様々な部門が主体となって進めることができる

  • 高コストかつ長期間(=高リスク)ではなく、低コスト/短期間(=低リスク)で始めて、短サイクルでの試行錯誤ができる

端的に言えば、「全社・全部門を巻き込んで短サイクルの試行錯誤を行いながら、全体として変革に統合していく」ということです。

“DX”の成功事例を見ても、変革と言えるだけの成果を出した企業は、その道筋を辿っているように見えます。成功事例について結果ではなくそのプロセスに着目すると、「当初計画通り、思い通りに進んだ」というケースはありません(少なくとも私が見聞きした範囲、調べた範囲では1つもありません)。いずれも、「時には迷走しつつ”試行錯誤”を繰り返して、戦略・方針を作り直しながら、様々な施策を取捨選択しながら、変革に向けて”統合”する」というダイナミックなプロセスを踏んだ先に、トランスフォーメーションと言えるだけの変革を成し遂げています。

そうはいっても”統合”は難しい・・・

しかし、一言で“統合”といってもカオス化の圧力が強く働くため非常に難しいというのも事実です。「経営トップによる推進が必須」といわれるのは、“統合”の難しさが一因と思われます。
 
統合する上で最も重要なのは“ありたい姿”を関係者で共有し、そこに向かう気運を組織内に醸成することです。この点、“ありたい姿”を言語化してそこに向かうためのロードマップ作成までは行っている企業が多くなってきました。特に大企業の場合は、「3年から5年の中期計画を立て、実行フェーズに入って数年が経過している」という状況にあります。しかし、「そこに向かう気運を醸成できている企業」は、大企業であってもごく僅かではないでしょうか。
 「ありたい姿を定めて実行に移し数年が経過しているにもかかわらず、気運が醸成されていない」のであれば、何かしらの手を打たねばならないのは間違いありません。特に以下のような状況に陥っているのであれば、リスタートが必要と思われます。

  • ありたい姿が現状と乖離していて、そこに向かうイメージが持てない

  • ありたい姿は共有されたものの、各部門がバラバラに施策を実行し、ありたい姿に向かっているのかよく分からない

  • 実行フェーズに入って間もなく中長期のロードマップから大きく乖離してしまい、誰もロードマップを意識していない

このようなカオス化から抜け出すための”統合”にはどのようなアプローチが有効なのでしょうか。後編では、何に着目して、どのようなポイントを抑えるべきかについて考えてみたいと思います。


アットストリームコンサルティング株式会社
DXアクセラレーションサービス

問い合わせ先:scnote@atstream.co.jp

投稿者:
アットストリームコンサルティング株式会社 シニアマネジャー 福本 修

前職のITコンサル会社にて、基幹システム刷新、需要予測システム導入、WMS導入など様々なプロジェクトを経験するとともに、WEB開発技術、データベース関連技術を習得し、2019年にアットストリームコンサルティングに参画。基幹システム再構築のPMO支援やDX推進支援を担当。DXアクセラレーションサービスリーダー


投稿者:
アットストリームコンサルティング株式会社 ディレクター 北山 雄介

(株)長谷工アーベスト、不動産系SI会社、PCWORKS(現㈱ベイカレン
ト・コンサルティング)、日立コンサルティングにて様々なプロジェクトの企画・実行を経験し、アットストリームへ参画。DXアクセラレーションサービス責任者。