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ゴミ屋敷な実家にさよなら ~姉妹と父の攻防3年間~

長期休暇のたびに実家に帰ってはその汚さに絶望し、掃除片付け。

ロクに掃除機もかかっていない、お風呂は真っ黒、床は書類の山、いつまで経っても捨てられない燃えないゴミ袋の山…

こんなのもう嫌!と一念発起。久々に帰宅した姉とともに業者を呼ぶことを決めた。父に大反対されたが押し切った。

人には我慢ならないことがあるのだ。


実家は一軒家でそれなりに広い。クローゼットもたくさんある。普通に暮らしていれば物が溢れるはずがない。しかしいつのまにやらゴミ屋敷に近い雰囲気を醸し出すようになった。ウチは物を捨てることがとても下手くそな一家だった。

母は買い物が大好き。服をたくさん買い、よく分からないような今思えば胡散臭い商品を買い、あれがない、これが欲しいととにかく買うことに執着していた。

父は昔は整理整頓が大好きだった。完璧主義者で、机の上の書類はぴっちりと美しく揃った形で置いてないと気が済まないタイプ。

私や姉は母の影響を受けて、買い物がとても大好きだった。全てが叶えられることはないが、あれが欲しい、これが欲しいと買い物に行くたびに駄々をこねた。

一家の転機は私が小学生の時。母が精神を病んで入院したのである。未だに母は実家に帰って来れていない。私はしばらく祖父母のもとに預けられることになった。

祖父は文具屋を営んでおり、祖父は私にとても甘かったので文具に一切困らない生活を送った。私の物が増えた原因の一つである。

実家には姉と父が暮らしていた。私も休日のたびに実家に帰って過ごした。母がいなくなったことで買い物の頻度は少なくなったが、実家はどんどん汚くなっていった。定期的に掃除ができる人間がいなかったからである。

中学生になり、私は実家での暮らしに戻った。姉は高校で忙しそうにしていた。父は仕事が落ち着き、少し余裕ができていたため、たまに掃除機くらいはかけていた。

高校生になり、姉は大学生として一人暮らしを始めた。私は家事がほぼできない人間であったため、父1人で家事と仕事を切り盛りしていた。姉が居なくなった分だけ、家は掃除が行われる頻度が少なくなった。

大学生になり、私も一人暮らしを始めた。実家は父1人になった。実家に帰るたびに家は確実に汚くなっていることが分かった。あまりの汚さで、外から帰ってきたら即、部屋着に着替えたくなる程度だった。

幾度か季節が巡り、そして一人暮らしを覚えた私と姉はようやく気づいたのだ。「実家の物ってほとんど不必要なものじゃない?捨ててよくない?むしろなんで捨てないの?」と。


そこからの行動は早かった。姉妹で実家の断捨離を行うことを決めた。父は仕事が忙しいようで、手伝ってくれることはなかった。

しかしそこでは高い壁が私達を待ち受けていた。実家の自治体では「ゴミを捨てる」、それだけの行為が面倒くさかった。粗大ゴミは平日に遠くの処理センターに持ち込みにいく必要があり、プラスチックゴミは燃えないゴミ判定なのだ。しかもどのゴミ袋も軒並み代金が高い。通りで故障して使えなくなった機械や家具も捨てずに押入れに仕舞い込んでしまう訳である。

しかしここで止まるわけにはいかない。私も姉も自身の部屋のものを分別し、ゴミ袋につっこんだ。思い出のおもちゃは軒並みバイバイだ。居間もキッチンも整理した。私はどこからか現金10万円を発掘した。見違えるように綺麗になった。居間で寝転がっても服が汚れないことがなんと素晴らしいことか。収納棚から出てきた物により大量のゴミ袋の山が生成されたが、ほとんど燃えないゴミですぐに処理ができないためにとりあえず和室に突っ込んだ。

私も姉も満足した。あとは父にゴミ捨てをお願いするだけだった。たしかにゴミ捨てを父に依頼して、私たちは実家を後にしたのだ。


まさかのまさか、そこから2年たっても和室に積まれたゴミ袋の山は消えなかった。


そこでようやく私たちは第二の真実に気づいた。父はとても面倒くさい性格をしていたのだと。

父は完璧主義者だった。仕事のあまりの忙しさによって、自身の周りの汚さには何も思わなくなったようだった。しかしながら、完璧主義そのものがなくなった訳ではなく、ゴミの分別においては健在だった。

なんとこの父、私たちが分別したゴミ袋が信頼できないようで、再度分別して捨てようとしているらしい。それでいてその作業もままならないほどに忙しいため、まったくゴミ袋の山が減っていなかったということだ。あまりの理不尽な展開に姉妹で嘆いた。断捨離したつもりが、実家の一部屋を腐海にしてしまったのである。ついでに、綺麗にしたはずの居間も気がつけばほとんど元に戻っていた。


私も姉も「父はゴミ袋も捨てられない」ことを学んだので最終手段を考えた。課金してゴミ処理業者を呼ぶことにしたのだ。

父には猛烈に大反対された。多分面倒くさかったのだろう。しかしながら私たちが堪えられない、という事実を抜きにしても、正直なところあまりの汚さによる父の健康面への影響が危ぶまれていたので、私も姉も譲らなかった。

父もそろそろいい歳である。動けなくなる前に断捨離を決行してしまいたかった。

私たちのあまりの剣幕に父は仕方なしと引いた。父はほとんど動かず、姉妹2人でさらにゴミ袋を生産した。

とは言えど、ゴミ山が消えなければゴミ袋を置く場所がない。どの業者が良いのか分からなかったが、口コミが悪くなさそうな業者にLINE1本で連絡をいれると2つ返事で予定OK。2tトラック詰め放題パックを頼むと、見積りも一瞬で行われた。あまりに即決まったので、ついでにもう一台2tトラックを頼んだ。

2tトラックがどの程度入るのかいまいちわからなかったため、優先すべきはゴミ袋山の処理とし、余裕があった場合のためとさらにゴミ袋を生産した。物が溢れて窓にたどり着くことも困難だった部屋で窓を開けて換気ができたときには感動さえ覚えた。姉妹で判断できないものは仕事から帰った父に質問した。質問し続けると父は嫌になってきたらしく、途中で答えてくれなくなった。

しかし、いくらか大物を捨てる許可は出たので私たち姉妹はにんまり顔である。

第一弾の2tトラックが家に到着すると、ものの僅か10分で庭に放り出していたゴミ山が全て積み込まれた。約4万がここで出て行ったが、「こんなにあっさり終わるならばさっさと昔に業者を呼べばよかった」と顔を見合わせた。

その後に可能な範囲で父の書類を整理していると現金約9万円と商品券3万円が発掘された。業者を呼ぶ代金が埋蔵金で賄えた。

父は帰ってくるなり、あまりの綺麗さにびっくりしていた。それはそうだろう。押入の奥から全て物を引っ張り出して断捨離かつ整理しているのである。

ここで私たちはついに父の寝室に踏み込むことを決意した。前回掃除機をかけたのは何年前かも分からないほどの埃のたまり具合、布団以外足の踏み場のない部屋、色の変色した布団。あまりの汚さで私たち姉妹は入りたくもないとずっと目を背け続けてきた場所だ。

父は私たちの成果を見て、捨てるのも悪くないと思ったのか、先日よりも私たちの「これは必要?これは捨てて良い?」という質問に多く答えてくれた。しめしめ、と私は内心したり顔である。

父は本が好きで、床に積まれた本が大量にあったため、まず本棚の不必要な書物を捨てることから始めた。場所を作らないと物を仕舞うことはできないのだ。

本を整理している合間に、布団の周りに溢れた大量のガラクタや書物の整理。書類はほとんど10年以上前のものだったので重要そうな契約書類らしきものを除いてほとんど処分。大量に埃をかぶっている時点で不必要とみなした。

あまりに汚すぎて何度も手を洗う羽目になり、手荒れで根を上げそうになったがめげずに頑張った。布団まできっちり処分し、掃除機をかけ、雑巾で拭きまくり、何故か家の中に存在していた新品の布団を下ろして父のために敷いた。

これを見て確かに父は感動していたと思う。父が疲れて寝てしまう前に再度アレコレ質問した。昨日よりもずっと父の中での捨てる基準が緩くなっていた。計画通りである。

しかし疲労がピークにきて限界だったので、さらに見つかった商品券は父にお駄賃代わりに頂戴よと頼んだ。父は頷いた。姉妹で商品券を山分けした。

腐海と化していた、今でも使っている部屋の大掃除は軒並み終了したので最後の仕上げとばかりに自身の部屋の捨てられる物をポイポイとゴミ袋に詰めた。

前回の断捨離で大量に捨てたと思っていたが、また時間が経つと捨てる決心のつく物が増えるものだ。

次の日、また業者が2tトラックで来て、物をポイポーイと詰め込んで去っていった。これも一瞬で終わった。

実家で久々に、埃っぽくない新鮮な空気を感じた。私たちはずっとこれを求めていたのだ。


後から父からメッセージがひとつ。

ご苦労様、何もできない父親ですまない、とのこと。

私はニコニコと第3弾断捨離計画と、その間の父へのお願いと目標を返した。



片付けにやる気がない人をどうすればやる気にさせるか?

他人がやっているのを見ると、そして片付いていく有様を見ると人は片付けしたくなる生き物である。

このとき、可能な限り勝手に本人の物を捨ててはならない。反発心が強くなるからだ。本人に「片付けして、捨てて」と言ってはならない。さらに意固地になるからだ。

父の場合は片付けたいという気持ちは奥底にあったであろうが、仕事疲れのせいで気力が残っていなかった。父にとって大切な物は長年の経験から推測できるようになったので、今回勝手に処理した物も多い。

判断できないものは本人に直接聞くのが大事だ。このときのポイントは、本人には「捨てるか、捨てないか」の2択だけを判断してもらうこと。捨てる行為、物を仕舞う行為は本人が動かない限りこっちで行う。それによって判断してもらうものの数が増える。

部屋が綺麗になっていくと心も穏やかになり、物の場所を探す時間が減り、「片付けって、断捨離っていいな」と思い始める。そうすると本人の中での断捨離のハードルが下がり、「捨てても良いもの」が増える。


父はきっと、数日前より100倍は良い睡眠を取れるようになっただろう。

これにて姉妹と父の3年間の攻防は、姉妹の完全勝利で終了したのだ。

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