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迷わずにゴールまでたどり着けますか

今回は,『失われゆく我々の内なる地図:空間認知の隠れた役割』という本を紹介したいと思います。こちらの本です。


認知地図

普段使う言葉として「方向感覚」という表現の仕方をします。もう少し専門的には「認知地図」という言葉で表現されます。認知地図というのは,それぞれの人が持つ環境に関する知識や,空間情報に関する認識のことです。地理的な場所や道路やランドマークなどの位置や関係が認識されること,経路について考えたり見つけ出したりすること,経験に基づいて更新したり学習したりすることなどを指します。

そもそも

そもそも人類はみなアフリカを出てから世界中に広がっていきました。もともと,進むべき道を見つけてそこに向かっていくという特徴を,もともと私たちは持っていたとも考えられます。

 アフリカ人以外の人類はすべて,さまようホモ・サピエンスのあのさきがけの集団の子孫である。ただ彼らにしても最初の探検家ではなかった。サピエンスが紅海を横断したとき,ヨーロッパとアジアの多くの地域には,すでにネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)やデニソワ人など人類の他の系統が暮らしていた。彼らの祖先はサピエンスより200万年近く前にアフリカを出ていた。ネアンデルタール人のテリトリーは,カザフスタンからウェールズ,地中海東部からスペインにまでわたっていたが,彼らには親戚のホモ・サピエンスが持つ放浪へのあくなき欲望はなかった。サピエンスのほうは,山脈や水辺にぶつかると,そこでとどまるかわりに,そのまま歩き続けるか,船を作ったのである。

p.14-15

迷子の子ども

この本の中ではいろいろな面白い研究が紹介されているのですが,道に迷った子どもたちの観察研究はなかなか面白いと思いました。多くの場合,親が予想する以上に遠くまで行ってしまうそうです。また,思った以上にいろいろなところを通っていくこともわかって,人間の本性が現れているように感じます。

 うろつきまわる子どもたちについて調べたコーネルとヘスの研究からは,いくつかの驚くべき洞察がもたらされた。主なものとしては,子どもをひとりでうろつかせておくと,他の人々,特に親たちが考えるよりも,はるかに遠くまで移動するというものだった。その距離は予想したよりも平均して22パーセントも長く,なかには三倍あるいは四倍遠くまで行くこともあった。だがとりわけコーネルの興味をひいたのは,子どもたちがどのように旅したかであった。今まで行ったなかで一番遠い所まで行くように言われた子どもたちは,誰ひとりそこまでまっすぐには行かなかった。彼らはぶらぶら歩き,いろいろなものに気を散らされ,長い回り道をとった。「子どもが行くところはどこにでもついていったよ」とコーネルは思い出すように言う。「”近道”するのに,ショッピングモールを通り抜けもしたし,雪の積もった空き地も横切ったし,サッカーの試合をしているところを突っ切ることさえあった。もっとよく見ようとして消火栓によじ登り,木の葉の山を蹴とばし,石を投げ,立ち止まってバーベキューを眺める。生まれついた本能に従っているようだった。たくさんの子が,前に行った道から外れていると平気で認めたものだ。ある子どもは,歩き終えるまでに二時間以上かかったよ」

p.35-36

性格との関連

空間能力の個人差に関連するパーソナリティ(性格)の研究は,もちろん行われています。本の中に引用された研究の結果によると,次のような関連があるそうです。

 メンタル・ローテーションのような小さいスケールでの空間スキルから,ウェイファインディングの能力の良し悪しを正確に予測できないとしたら,では何がその指標になるのだろう?よく使われているサンタバーバラ方向感覚尺度の考案者であるメアリー・ヘガティの最近の研究によると,大きなスケールの空間能力に見られる個人差の多くは,パーソナリティの違いから説明されるという。1万2000人以上について調査した結果,すぐれた方向感覚の持ち主は,外向性,誠実性,そして開放性(新しい経験の受容性)が高く,神経質傾向が低いということが分かった。

p.156

弊害

ところで,現代の私たちはもう地図を見て自分で経路について考え,街の中を見て目印を目安に道を進むこともほとんどなくなってしまいました。スマートフォンを見れば,そういうことは必要ありません。

しかし,そのことによって,本来持っているナビゲーション能力は大きく影響を受けることも確かなようです。ふだんからGPSデバイスを用いている人は,住んでいる町の地図を描かせただけでも,途方もなく下手くそになってしまう可能性があるそうです。

いやはや,便利なツールに頼るのはいいのですが,それによって失われるものもあるようです。

似ている?

実は以前,とても似たタイトルの本を読んだことがあるのです。『失われてゆく、我々の内なる細菌』という本なのですが,似ていますよね。

こちらを先に読んでいたので,書名を見たときになんだか混乱してしまいました。



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