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「ただし○○に限る」を研究する

今回も,考えを心理学の研究に乗せていくコツを考えてみたいと思います。

今回のテーマは,調整(moderation)です。と言われても,研究のやり方に馴染みがない人にはなかなかわからないと思いますが……。

ただし

ものすごく俗な言い換えをすると,「ただしイケメンに限る」効果と表現することもできます。

なお今回の記事は,過去の記事の続きです。

シンプルな関連をどう考えるかについてはこちらに書きました。

そして,関連どうしの間をつなぐ媒介という考え方についてはこちらです。

媒介と調整

媒介と調整は,英語だとそれぞれ"mediation"(媒介)と"moderation"(調整)という単語を使います。どちらも"m"から始まる単語なので,海外の学生でも意外と混同しているケースがあるようで。そこは漢字で書く方が多少はわかりやすいかもしれません。

関連

では,まずシンプルな関連(因果関係)から考えてみましょう。

運動すると幸福感が高まる,という以前の記事でも出したのと同じ例です。運動量が多くなるほど,幸福感の得点が上昇する傾向が見られるとします。

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場合分けの関連

この結果が得られたデータ全体を,男女で分けてみましょう。すると,それぞれ次のような結果が得られたとします。

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男性は0.50,女性は0.20と,男女で関連の大きさが異なっています。このような,ある条件と別の条件で関連が異なる(そしてその相違が十分に大きい)場合に,調整効果がみられたといいます。

このとき,男性と女性つまり「性別」のことを「調整変数」と言います。

グラフで表す

この関係をグラフで表してみます。男女があって,女性よりも男性の方が関連が大きいグラフです。これを描くと,次のようになります。男性の方が女性よりも,運動量が大きくなるほど幸福感が高くなっています。

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このようなグラフが描けたとき,これを交互作用が見られたと言います。交互作用というのは,ある変数に対して条件の組み合わせの影響が見られることです。

調整効果がみられるというのは,交互作用がみられるということなのです。

連続的な調整

調整変数は,カテゴリである必要はありません。たとえば,年齢を調整変数だとして考えてみましょう。下の図のように,より年齢が若ければ運動量と幸福感との関連は小さく,年長になればなるほど関連が大きくなる,という関係が成り立つかもしれません。

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ここで,年齢を「低年齢」「高年齢」に区切ってしまえば,グラフの斜め線は2本だけになります。でも実際には,年齢を無理に区切るのもどうかと思いますよね。

このような連続的な変数による調整の時も,調整効果であり,交互作用効果です。

調整+媒介

前回の記事に書いた,媒介する効果を調整する変数が存在するという,調整媒介モデルを立てることもできます。

たとえば,男性では運動量が直接幸福感に影響するのに対し,女性では直接の効果は少なくなり,運動によって体調が良くなることを経由して幸福感に影響するというプロセスが生じる場合です。男女という性別の要因によって,調整効果が出たり出なかったりします。このようなケースです。

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こんな時はどんなふうに分析するの?と思うかもしれません。ところが,Excel上で動いてくれる我々の強い味方HADは,調整媒介分析にも対応してくれます。これでひと安心!清水先生ありがとう。

枠組みから見る

「型にはまった見方で世の中を見る」というと,よくないように捉えられがちです。でもそれは「いくつかの型を身につけて見ることができるようになってから」でも遅くはありません。多様な型を身につければ,その分だけ多様な物事の見方ができるようになります。

時に研究の世界でも,「統計的な見方は自由な見方を制限する」というようなことが言われます。それは一面では確かなのですが,それを言うためにも,そしてそこから自由になるためにも,基本的な見方だけでも身につけることは損ではないように思います。

関連,媒介,そして調整の考え方は,心理学の研究の枠組みから物事を捉えるときの基本的なものだといえます。これらはシンプルな枠組みですが,多くの研究でも実際に用いられるものであり,これらの基本をバカにすることはできません。心理学で卒業研究をしようとする学生の皆さんは,ぜひこのような分析にチャレンジしてみてください。

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