見出し画像

世界中の未来の知能指数を予測する

知能検査は20世紀のはじめに開発されました。そして20世紀を通じて,知能検査のスコアが後の世代になるほど上昇し続けていった現象のことを,フリン効果といいます。

ニュージーランドの政治学者(心理学者ではなくて,専門は違うのですよね),ジェームズ・フリンは,1980年代に知能指数が上昇している論文を発表して,学問の世界やメディアで大きな話題を巻き起こしました。そしてこの現象は「フリン効果」として知られるようになっていったのです。

ちなみに,1980年代前半には日本でもフリン効果が生じていることが報告されています(リチャード・リンの論文)。

本当の上昇か

この現象が本物なのかどうかについては,長く議論が続いてきています。本当に知能指数が上昇していると言えるのか,それとも見かけの上の上昇に過ぎないのかという問題です。

社会全体を見てみれば,教育や健康状態,専門職の割合,使われる単語の複雑さなどについても,時代が下るに連れて発展していく様子が見て取れます。少なくとも20世紀の間については,認知能力について真の向上が見られたのではないかと考える研究者が多いのではないでしょうか。中には,何世紀にもかけて向上していると考える研究者もいます。

終わっているのか

一方で,知能スコアは低下していると考える人もいます。たとえばこの本ですね。内容については,私自身はちょっと同意できない部分もあるのですが。

先進諸国においては,ここ数十年でフリン効果が終わった,あるいは逆転しているという報告もなされています。少なくとも欧米諸国では,フリン効果に対する制限が生じているという結果が多数派に思えます。もちろん,発展途上国ではまだ向上していて,先進諸国に追いつこうとしているのですけれども。

たとえばドイツでは,2010年から2019年の間に学業成績や知能検査の得点に低下が見られていて,このまま進んでいくと,2100年には知能指数の平均が82になるという予測もあるとか。

さて,これは一時的な低下なのでしょうか,それとも引き続いていく変化なのでしょうか。しかし,背景には多くの要因を仮定する必要がありそうです。たとえば教育の発展や移住による人口動態の変化です。ヨーロッパはおおよそどの国も,移民による人口動態の変化を受けています。また,少子化の影響もあるでしょうし,広く国全体や地域の環境の変化も考えられます。

そこで,複数のデータ源から,複数の測定時点,複数の国における認知能力の変化を推定することを試みた研究があります。こちらの論文を見てみましょう(The future of intelligence: A prediction of the FLynn effect based on past student assessment studies until the year 2100)。

ここから先は

1,673字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?