完全なる未来予測

心理ゲームは当たるのでしょうか。

あなたは森の中を一人で歩いています。夜になり，真っ暗な道を歩いていたときに，目の前に動物が現れました。その動物はつぎのうちどれでしょうか。ひとつ選んでください。　
A. クマ　B. イノシシ　C. シカ　D. ウサギ

いまどきこんなベタな心理ゲームもないかもしれませんが，とにかく答えてみましょう。
どの動物を思い浮かべたでしょうか？

暗い森の夜道というものは，あなたの不安を反映しています。そして，そこで出会う動物は，あなたの不安を解消してくれる存在を象徴しているのです。つまり，ここで選んだ動物はそのような不安を解消してくれる重要な他者，つまりあなたにとって重要な異性を表しているということなのです。

A. クマは，頼りがいのある，あなたを守ってくれるような異性の様子を反映しています。クマは力（パワー）と母性愛の象徴として古くから語られています。あなたが男性であっても女性であっても，その異性はあなたにとって外に存在する敵から守ってくれるような，頼れる存在であることでしょう。また一緒にいるときには包み込んでくれるような包容力も持ち合わせています。
B. イノシシは，自分よりも相手を優先する，利他的な異性の姿を象徴しています。イノシシは古来から，自らを生け贄とする存在として語られてきました。自分が犠牲になっても，あなたのことを優先してくれる，そのような異性の存在がイメージされます。また危険が迫れば，あなたに危険が及ばないように先頭に立って守ってくれることでしょう。
C. シカは，あなたに幸運と成功をもたらしてくれる異性の姿を象徴しています。古くからシカは，吉兆や開運，幸福や平和の象徴として描かれてきました。この選択肢を選んだあなたのそばには，あなたを成功に導いてくれるような素晴らしい異性が存在すると予想されます。
D. ウサギは，賢くふたりの関係を一途に守ってくれる異性の姿を象徴しています。古来より，うさぎは知性や純血，子孫繁栄の象徴として扱われてきました。ウサギを選んだあなたの親しい異性は，結婚相手として最高の相手と言えるでしょう。

目次

・正しいと思わせる
・バーナムの名前
・ミシェル・ゴークランの研究
・ゴークランのその後
・完全な心理ゲーム
・殺人ジョーク

正しいと思わせる

最初に示した心理ゲームは，私がこの記事を書きながら適当に考えたものです。動物のイメージだけは検索をして確かめましたが，あとはそこから適当に文章にしただけです。

しかし，解説を読んで「合っているかもしれない」と思った人がいるかもしれません。いくらでたらめな内容でも，どこかに真実があるのではないか，という感覚です。

説明のすべてが合っている必要はないのです。どこかが合っていれば，「間違ってはいない」と思うことができる，という特徴がこの手の文章にはあります。

バーナムの名前

ヒュー・ジャックマン主演の映画『グレイテスト・ショーマン』のモデルは，アメリカの伝説的な興行師である，P. T. バーナム (1810-1891)です。

バーナムは自分自身を“ほら吹き王子”と呼び，アメリカで売られているアニマルクラッカーやサーカス団の名前（リングリング・ブラザーズ・アンド・バーナム・アンド・ベイリー・サーカス）として今も知られている人物です。バーナムのサーカス団にいた象がジャンボという名前だったことから、大きなものをジャンボと呼ぶようになったというエピソードもあります。

このバーナムの名前がついた効果（バーナム効果）があります。
心理学者フォアラーの1949年の論文でもその内容が知られていることから，フォアラー効果とも呼ばれます。またバーナム効果という名前は，ミールの論文で知られることになりました。

バーナム効果とは，結果として示された性格に関連する文章が多くの人に当てはまると感じることや，そのような効果を生み出す文章のことです。

たとえば，

・あなたは自分に自信が持てないと感じることがありますが，自分の中には何か隠された才能が眠っているとも感じています。
・あなたには弱い部分がありますが，普段はそれを表に出さず振舞っています。
・あなたは基本的に外向的で愛想よく振舞ったりそうあろうとしたりしていますが，時に表に出たくないと思ったり遠慮がちになったりする時もあります。

こういった文章です。バーナム効果の実験を行ったフォアが使った文章の日本語訳は、Wikipedia にも掲載されています。

これらの文章の特徴は，誰もがどこかで少しは当てはまると思う部分が含まれている点にあります。「こういう面がある一方で，時にはこういう面も見せる」なんていう表現は特にそうですね。両面を示せば，どちらかが当てはまると思うことでしょう。

（ここから有料です。占星術について研究した心理学者ゴークランの話や，完全な心理ゲームとは何を意味するのかについて考えていきます）

ミシェル・ゴークランの研究

フォアの研究で使われた文章は，もともと占星術の結果として示されていたものでした。つまり，バーナム効果を生みような文章というのは，占いの結果によく使われているということなのです。

フランスの心理学者ミシェル・ゴークランは，無料で星占いをするという広告をパリの新聞に出しました。そして申し込んできた読者全員に，悪名高い殺人者の占星術結果を送りました。その結果，どうなったでしょうか。星占いを受け取った94％の人びとが，その占星術の結果が当たっていると大絶賛したそうです。
（J.M.ウッド，M.T.ネゾースキ，S.O.リリエンフェルド，H.N.ガーブ　宮崎謙一（訳）　(2006).　ロールシャッハテストはまちがっている—科学からの異議—　北大路書房　pp.148-149）

ロールシャッハテストはまちがっている: 科学からの異議

これは，どのような占いの結果であっても人びとが納得しやすい，そのような文章の書き方がされている，ということを端的に示す研究結果だと思います。

ゴークランのその後

ちなみにこのゴークランという研究者はその後，本気で占星術の科学的基礎について研究を進めていくことになります。
たとえば，著名な医師や軍人，芸術家などの誕生日から惑星の配置を調べていきました。そして，フランスの医師には火星と土星が支配的な時期に生まれた人の割合が多いとか，スポーツ選手の誕生日も火星の支配が強い時期が多いなどの関連が見いだされていきます。