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事例の議論と統計の議論から伝わる印象

次の文章を読んで,どんな印象を抱くかを考えてみてください。

まずはこちらの文章です。

「そうですね。第一東京銀行は,ほかの銀行に比べると有利な金利の商品を取りそろえていて,個人に合わせて適切な資産運用を紹介してくれます。先日,この銀行に関する記事を読みました。第一東京銀行の顧客の80%が,この銀行に満足していると回答していました。これは,都内の銀行でももっとも高い数字でした」

次は,こちらの文章です。

「東京第一銀行と取引をした友人がいます。彼は,それがとてもよい経験だったと言っていました。彼は家を買うためにローンを組もうとしていました。その銀行の担当者は,いくつかのローンのプランについて,時間をかけてじっくりと説明してくれたそうです。結果的に,彼は多くのお金を節約できたそうです」

事例と数字

議論をしているときの論拠が,事例になることと数字になることがあります。この2つは観点がずいぶん違いますので,ごっちゃにするとまったく議論がかみ合わなくなってしまいます。

私が授業などでよく挙げる例は,宝くじです。宝くじは,集団で確率を見ればほとんど当たるとは思えません。1等が当たる確率はあまりに低いので,数字を見るととても当たるとは思えないということになります。ところが,どの宝くじにも,必ず1等を当てる人物がいます。1等が当たらない宝くじはありませんし,宝くじによっては,毎回全国で数十人が1等を当てることになります。

数字を見ると「当たらない」のに,個別の事例を見ると「当たるかもしれない」と思えてしまいます。この相容れない感覚は,なかなか克服することが難しそうです。

宝くじの確率

宝くじの1等が出る確率は,1等7億円の宝くじの場合は2000万分の1つまり「0.000005%」です。2000万分の1の確率で起こることって,どんなことがあるでしょうか。

この記事(飛行機は本当に「安全」なの?)によると,米国家運輸安全委員会(NTSB)の調査結果から,航空機事故で死亡する確率は0.0009%なのだそうです。航空記事ので死亡する確率の方が,1等7億円が当たる確率よりも180倍高いということになりそうです……。

温かさと有能さ

私たちが他の人のイメージを抱くときに,おおきく2つの次元に沿って認識するという研究があります。それは,「温かさ(warmth)」と「有能さ(competence)」です。

この2つの判断の軸は,ステレオタイプ的な対人判断にもよく使用されます。そして,この組み合わせでステレオタイプ的にある集団に属する人々を判断することで,ますますステレオタイプが強固になっていくという現象も観察されます。

たとえば,伝統的な女性は「無能だが温かい」と認識されやすく,伝統に縛られない女性は「有能だが冷たい」と認識されがちです。このような認識が,ますます「どこかが足りない人々」という判断を助長していきます。

ナラティブと数字

事例に焦点をあてるコミュニケーションと,数字に焦点をあてるコミュニケーション,それぞれがもたらす印象の違いに注目した研究があります。この論文です(Narrative warmth and quantitative competence: Message type affects impressions of a speaker)。

この論文の中ではいくつかの研究が行われています。

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