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物事にうまく注意を向ける傾向は時代とともに向上してきたのか

割引あり

これまでにも何度か「フリン効果」について取り上げてきました。ニュージーランドの研究者ジェームズ・フリンは,1980年代に,知能検査のテスト得点が1930年代から1970年代まで一貫して上昇していることを報告しました。

この現象が報告したフリンの名前から「フリン効果」と呼ばれるようになっています。


フリン効果

知能検査は,素点を算出してそこから知能指数を推定します。知能指数は,年齢と精神年齢から算出する場合もあるのですが,知能の得点分布から分布の位置によって個人の知能指数が推定されます。得点分布の平均が100,標準偏差がひとつズレると15(知能検査によって16とか24の場合もあります)上下するという仕組みです。

知能検査の得点そのものが上下すると,得点分布全体が変化します。フリン効果は,20世紀を通じて,この得点分布が全体的に高得点方向に移動することを意味しています。

パターン

ただし,フリン効果は知能の領域や調査対象国・地域によって変わることも知られています。

全体的には,知能検査得点の上昇は,言語や知識などの結晶性知能よりも,推論や計算などの流動性知能のほうが大きく上昇してきたことがわかっています。

20世紀後半くらいまでは,世界的に10年あたり平均して3ポイントの平均得点の上昇が見られていました。しかし,1980年頃からその上昇率が頭打ちになってきていることも報告されています。スカンジナビア諸国やヨーロッパ諸国,最近では米国でも,知能得点の上昇は停滞し,場合によっては低下してきているという報告もなされています。一方で,発展途上国では継続して上昇しているという報告もあるようです。ちなみに,知能検査の得点が低下する現象は,負のフリン効果と呼ばれることもあります。

領域固有

もしかしたら,フリン効果の停滞は,知能の領域固有の問題かもしれません。今回紹介する研究では,注意の課題に注目して,複数の国での変化を統合的にメタ分析で検討を試みるものです。各国の報告を用いることで,GDPやインターネット利用率など国による違いも検討できそうです。

はたして,どのような結果が報告されているのでしょうか。こちらの論文を見てみましょう(Is there a Flynn effect for attention? Cross-temporal meta-analytical evidence for better test performance (1990–2021))。

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