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後知恵バイアスは年齢によって差があるのか

南極にあるいちばん高い山の名前は,ヴィンソン・マシフ(Vinson Massif)と言うそうです。ご存じでしたか?

ところで,このヴィンソン・マシフの標高は何メートルくらいだと思いますか?直観でよいので,何メートルかを考えてみてください。


後知恵バイアス

何かの物事が起きたあとで,最初からそれが予想できていたと感じる認知的な歪みのことを,後知恵バイアス(hindsight bias)といいます。

この記事の冒頭にも書いたのですが,私自身,後知恵バイアスを強烈に感じる出来事があったのですよね。

東京に引っ越しをする前日。
すでに荷物は梱包してしまい,前日の夜は友人家族とお別れのパーティ。
その翌朝のことでした。
末の息子が朝食のために並べたローテーブルの周りを走っていました。
そして次の瞬間,転んで顔をテーブルの角にぶつけたのです。
目の下の頬の皮膚がぱっくりと裂け,大量の血が。

その瞬間です。

「ああ,注意しようと思ったところだったのに」

という言葉が心に浮かんできたのでした。

あれから何年も経っているのですが,息子の頬には傷跡が残っていて,それを見るたびに後知恵バイアスを思い出すのでした。

山の高さは?

さて,最初に紹介したヴィンソン・マシフです。この山の標高は,4892メートルなのだそうです。

予想はいかがでしたか?最初に,何メートルくらいだと思っていたでしょうか。

正解に寄せる

というのも,こういう課題がよく後知恵バイアスの測定に用いられるそうなのです。今日紹介する論文の中では,「富士山」が例で出されています。

後知恵バイアスの測定でよく用いられるのは記憶パラダイムで,たとえば「富士山の標高は?」などの難しい問題(日本人にとっては難しくありませんが)に対して,数値で推定値を回答させます。その後,しばらく時間をおいて,もとの推定値を思い出してもらいます。

このときに,ある問題には正解を示してから思い出してもらい,別の問題では正解を示さずに思い出してもらいます。

もしも正解を示してから思い出してもらったときに,最初は3100mと答えていたのにもかかわらず,正解を知ってから最初は何メートルと答えたかを推定したときに「3400m」と答えたとすれば,それは「答えを知ったことで答えに寄せた」という点で後知恵バイアスと判断されるというわけです。

この「答えに寄せる」という現象ですが,第1に,答えを聞いて前の記憶が曖昧になるバイアスが考えられます。これを想起バイアスと言うそうです。そして第2に,前に答えた記憶を失っている場合です。その場合には,前に答えていただろうという記憶を再構成して回答しなければいけません。これを再構成バイアスと呼ぶようです。

実際には,もっと複雑な手順を踏んでいくのですけれども,まあなかなか考えられた課題だなあ,と思いました。

年齢によって変わるのか

後知恵バイアスは,年齢に伴って変わっていくのでしょうか。年齢が上になると,「だからいわんこっちゃない」という反応になりがちな後知恵バイアスは増えていくのでしょうか,それとも減っていくのでしょうか。

メタ分析で検討した研究があるので,こちらの論文を見てみましょう(Age differences in hindsight bias: A meta-analysis)。

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