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本の中の優生学 第2弾

今回も,本の中に書かれた「優生学」について,見ていきたいと思います。とりあえず今回は,優生学の創始者であるフランシス・ゴルトンに関する引用からスタートです……。


ゴルトン

最初にも書きましたが,優生学の創始者はダーウィンのいとこで数多くの学問に影響を与えた,フランシス・ゴルトンです。心理学もゴルトンの影響を多く受けています。私の研究分野も同じです。でもその一方で,優生学を誕生させてもいるのです。

 ゴールトンは,1869年に著した『遺伝的天才』の中で,どんな範囲の身長をとってもそれに対する人口比率は長期にわたってほぼ一定であり,身長,頭周囲寸法,脳の大きさ,灰白質の重さ,脳繊維の数など,もろもろの身体的特徴は正規分布に支配されている,と書いた。だが,ゴールトンはそこで話をやめなかった。彼は人間の性格も遺伝によって決定され,人間の身体的特徴と同じように,なしがしかの形で正規分布にしたがうと考えた。そしてゴールトンによれば,男性は「社会的単位として価値が等しいとか,同等の投票の能力を有しているとか,なんやかや」ではないのだ。そうではなく,男100万人ごとに約250人の男が,ある分野における例外的な才能を受け継ぎ,その結果その分野において傑出する,というのだ(当時,女性は一般的に仕事をしていなかったから,彼は女性については同様の分析をしなかった)。
 ゴールトンは,そうした概念をよりどころにした新しい学問分野を創始し,それを「優生学」と呼んだ。ちなみに,優生学(eugenics)は,ギリシア語で「よい」を意味する「eu」と「誕生」を意味する「genos」からきている。以後今日まで,何年,何十年と,優生学は多くの人びとに多くの異なった意味で受け取られてきた。
 ゴルトンは,人間の才能がどの程度遺伝に因るのかを明らかにしようとして,その研究生活の早い時期から家系に関する資料を集め,統計学的手法でこれを解明しようとした。しかし,優生学を本格的な学問として展開したのは,晩年になってからである。彼は1901年の人類学会で,「既存の法と感情の下における人種の改良の可能性」という論文を発表し,関係者から好意的な感触を得た。これが自信となり,1904年にロンドンで開かれた第1回イギリス社会学会で「優生学——その定義,展望,目的」という講演を行った。

未来のコントロール

優生学は,いわば私たちの未来をコントロールしようとする試みのひとつです。それは優生学に限った話ではありません。遺伝をコントロールしようとすることも,環境をコントロールしようとすることも,どちらも未来を予測してコントロールすることにつながります。そして,多くの研究の目的もそこにあります。

 ゴルトンはプラトンの『国家』から着想したのかもしれない。この本にもユートピア社会が描かれていて,そこではエリートの守護者階級の人々が「狩猟犬の犬」のように繁殖させられる。その子供たちは保育エリアに連れていかれ,そこで乳母によって「育てられる」が,「下級者の子孫,またはたまたま奇形になった上級者の子供は,本来いるべき,どこかよくわからない未知の場所に監禁される」ので,守護者は純血を保たれる(プラトンにはよくあることだが,これをどれだけ文字どおりにとらえるべきかはよくわからない)。社会を改善するツールとしての優生学は,最近でもナチスからウィンストン・チャーチルまで,さまざまな人々に支持され,1970年代になってもカナダのアルバータ州など各地の行政機関の政策に採用された。一方,共産主義者は生まれつきよりも育ちを養護し,形質は国家によってつくり上げられると考えた。レーニンは大胆にもこう言っている。「人間は矯正できる。人間はわれわれが望む通りのものにできるのだ」。予測で重要なのは未来を予言することだけでなく,未来をコントロールすることである。そして科学的予測は研究対象の体系についてと同じくらい,政治学や社会学についても語ることができる。

劣悪家族

この考え方も,ときどき登場するものです。「劣った人々ほど多くの子どもを作るので,世代が下るほど遺伝子が劣化していく」といった言い方で表現されるものです。どうでしょう,たまに見かけませんか?この引用の最後にあるように,これは立派な優生学的主張です。

 19世紀のロンドンは,おびただしい数の極貧層をかかえており,別の人種とみえるほど肉体的にも精神的にも衰弱した集団を形成しているようにみえた。世紀末になると,これらの極貧層の一部の人びとは,精神障害(当時の表現では精神薄弱)という医学的な課題として把握しなおされることになった。1904年に,「王立精神遅滞保護抑制委員会」が設置され,1908年には報告書がまとめられた。この委員会がまず行ったのは,精神障害の区分と定義であり,そのうえでイギリスの精神障害者の全体像を把握することであった。そこで浮かび上がってきたのが,精神障害の女性の出産・育児の問題である。この時代,精神障害は遺伝によると漠然と考えられており,しかも一般の女性より多産であると信じられていた。このことは非摘出子と精神障害の子供が増えることを暗示しているとされ,社会に倫理的危機をもたらす恐れすらあるとされた。調査を行ったA.F.トレドゴルドは,一般の女性は平均4人子供をもつのに,「劣悪家族の女性は平均7.3人の子供をつくる」と結論づけた。この論法こそ典型的な優生学的主張である。

まだまだ優生学が登場する本はたくさんあります。また機会があれば第3弾を……。

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