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高いところにしずくを垂らすこと

知識の価値が生まれる場所は,水が高いところから低いところに流れる場所のようだと感じることがあります。フラットな状態では水は流れません。高さに差があれば,水が流れていきます。水と同じように,知識も高いところから流れていって,最終的には水面のようにフラットな状態になります。

そして,高低差があるところに,価値が生まれるというイメージです。

授業や本

私たちは大学で授業をすることでお金をもらっています(仕事はそれだけではありませんが)。教える側は,教えられる側よりも多くの知識を持っていて,その知識は多い方から少ない方へと流れていきます。そして,その知識の不均衡が生まれるところに対価が生じます。

本も同じです。綴じられた紙の束や文字情報の集合には知識が詰まっていて,その知識は多いところから少ない方つまり読者へと流れていきます。そして,その差が生じるところに価値が生まれます。

この記事も同じことです。書かれている内容が,読み手にとって新しいことを学ぶことにつながったり,それまで曖昧なことを明確にすることにつながったりすると,読み手に新しい知識が増えて,情報が整理されます。すると,そこに価値が生まれます。

不均衡を埋める

このように考えると,知識はそれが不均衡なところを流れていき,そうなることで価値が生まれるというイメージでこの現象を捉えることができそうです。

そして最初に書いたように,これも水と同じことなのですが,知識の不均衡はしばらくすると無くなっていきます。ある場所から別の場所へと流れていく知識は,どんどんその知識が少ないところ,つまりその知識をよく知っている人からあまりその知識を知らない人へと流れていきます。しばらくすると知識のギャップは少なくなり,水面が落ち着くように知識の差はなくなり,その知識は「常識」と呼ばれるようになっていきます。

混ざっていく

時にその知識は,流れていくうちに色々なものを混ぜ込んでいきます。それは,伝言ゲームによく似ています。

最初とは違う色がついたり,最初には流れていなかったものが含まれたり,途中で一部の流れがせき止められたりすることもあります。こういうことは結構頻繁にあって,最初の知識が「常識」になる頃には全く違ったものになってしまうということもよくあることです。

流れをコントロールする仕事

知識の流れの途中に身を置いて,上から下への流れをコントロールしてより広い場所に流れるようにしたり,特定の人に流れるようにしたり,意図的にせき止めたり,遠くに運んだりすることでも対価が生まれます。

この知識の流れを整理して伝える仕事のひとつが教育です。教育の場面では,流れてきたものをそのまま伝えるのではなく,汲み上げて選んで捨てて加工して,相手ができるだけうまくその中身を身につけることができるような工夫をしてから渡していきます。

研究をすること

そして,研究をすることは高い場所にしずくを垂らすことです。知識の流れる出どころに関与することが,研究という活動なのです。それは,誰も気づいていないことを発見することであり,誰も理解していないやり方に意味づけすることであり,まだ知られていない結びつきを見つけることです。そういった活動は,山の上に少しだけ知識を追加します。

その知識は流れ出ることもなくそのまま消えることもあれば,下の方に流れるまで何十年何百年と時間が経過することもあれば,あるときに他の知識とともに一気に流れていくこともあります。それを予想することはなかなか難しく,知識をつくり出した本人でもよくわかりません。

でもできればもうしばらく,しずくを少しずつでも垂らすことを続けたいと願っています。

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