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自殺の思想史

警察庁の自殺者数を示したデータによると,令和に入ってから毎年2万人以上の人々が,自殺で命を落としています。

ちなみに,令和4年中の交通事故死者数は2600人ほどしかいませんので,いかに自殺者数が多いのかがわかるのではないでしょうか。

自殺の思想

歴史のなかで,自殺についてはさまざまな見方がされてきました。古代ギリシャや古代ローマ時代から宗教の影響下ではどのような考え方がされてきたのか,そして現代に近づくにつれてとらえ方がどのように変わってきたのか,自殺をめぐる思想の変遷をまとめた本が出版されています。

こちらです。『自殺の思想史―抗って生きるために』(ジェニファー・マイケル・ヘクト著,2022年)。

目次を見ていくと,古代ギリシャや聖書の時代から現代までの自殺にまつわる思想が網羅されていることがわかります。

第一章 古代の世界―聖書、ギリシャ、ローマ
第二章 宗教は自殺を認めない―キリスト教、イスラム教、ユダヤ教
第三章 生きるべきか死ぬべきか―モダニズムの新興における新たな疑問
第四章 非宗教的な哲学による自殺の擁護
第五章 共同体の議論―古代ギリシャから現代まで
第六章 コミュニティと影響に関する現代の社会科学
第七章 未来の自分に対する希望
第八章 自殺について考察した二〇世紀のふたりの人物―デュルケームとカミュ
第九章 苦しみと幸せ
第十章 現代の哲学的対話―シオラン、フーコー、サズ
おわりに

医学や科学の発展

いまでは当たり前のことが,昔は当たり前ではない,ということの代表的な例が,医学や科学の発展ではないでしょうか。自殺は宗教的に許されない行為であることが多く,政治もその流れに従って対処していました。

しかし,医学の発展によって自殺が治療対象とされていくにつれて,人々の扱い方も変わっていくようになります。

 こうした議論が活発になる一方で,為政者たちは自殺を刑法によって処罰することに対する関心を失っていった。16世紀から17世紀初頭のスコットランドとイングランドでは,自殺者のほぼすべてが自分を殺した罪に問われ,埋葬地を汚すと罵られ,遺族は相続するはずだった財産を没収された。しかし,1750年頃には,自殺者のほとんどは精神異常と判断され,公に処罰されなくなった。この変化は精神錯乱が医療の対象とされたことによるもので,国によってさまざまな形で起こった。だが,どこでもいつの時代でも,自殺に関する議論には宗教的な要素と最新の医学の考え方が含まれていると考えていい。ただし,傾向ははっきりしていた。ミシェル・フーコーが述べているように「自殺行為がもっていた瀆神という意味が,非理性という中性的な領域へ結びつけられるようになる」のである。

自殺とは

著者自身も,自殺によって友人を亡くした経験があることが語られています。自殺とは何を意味するのか,どのように考えることができるのか,この本でまとめられていることは,私たち人類がどのように自殺を解釈してきたのかということでもあります。

最後に書かれているのですが,「自殺に反対する議論は大切だ。命を救うだけでなく,人生をより幸福にする」ということです。死について考えることは,生きることを考えることもであります。

ぜひじっくりと読みながら,生きるとは何を意味するのかを考えてみましょう。

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