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知能全体で男女の差はないけれど

男女で知能に差があるのか,という問題は根強く研究されるテーマの一つのようです。実に100年以上,男女の違いが研究されていると言われています。

知能だけでなく心理学的な変数の多くの場合,男女で平均値の差を検討したとしてもそれほど大きな「差」が見られるわけではありません。平均値の差を標準偏差を基準に示した値を効果量といいます。

身長の効果量はだいたい「2」くらいの値になるのですが,心理学的な変数の多くの場合,男女の差は「2」どころか1を割り込んでくることも多く,「0.2」という非常に小さな値を示すことも多くあります。「差がある」というよりも「類似している」と言った方がいいくらいです。

一般知能

全体的で統合的な知能(IQやgと表現されます)の研究は世界中で非常に多く行われてきました。そして,実質的な男女の平均値の差は見られていません。

では,全体で差がないから個別の領域についても差がないのかというと,そうとは言い切れません。知能検査はたくさんの種類があり,全体の知能を一つだけ算出する検査から,多くの下位領域を測定することができるものまでさまざまです。


キャッテル・ホーン・キャロル(CHC)理論

CHC理論は,全体の知能の下に細かい複数の知能の領域を仮定するモデルです。多くの下位領域があるのですが,たとえば次のような内容です。

◎Gc(結晶性知能):語彙,知識,一般的な情報処理

◎Gf(流動性知能):思考,推理,洞察能力
◎
Gsm(短期記憶):一時的な記憶を処理・想起・利用する能力
◎
Glr(長期貯蔵と検索):保持した記憶を適切に想起する能力
◎
Gv(視空間能力):視覚的パターンを知覚,分析,操作,思考する能力

◎Ga(聴覚的処理):音のパターンを知覚し,処理・理解する能力
◎
Gs(認知的処理速度):課題をすばやく正確に処理する能力
◎
Gt(決断・反応速度):刺激に対する反応,決定の素早さ
◎
Gq(量的知識):量的情報,数的表現を操作する能力

◎Grw(読み書き能力):読み,筆記による意見表出などの能力

さらに細かく領域を分ける研究者もいるようで,8つ以上の下位領域の下にさらに10ずつの領域を設定する研究者もいるのだとか。

研究知見の統合

今回紹介する研究では,過去に行われた7つの研究を統合することで,さまざまな知能の領域のなかで男女の違いがどのように見られるのかを検討するものです。あくまでもCHC理論の枠組みのなかで発見された差を検討していきます。では,こちらの論文を見てみましょう(The sexes do not differ in general intelligence, but they do in some specifics)。

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