見出し画像

ネットミーム

こういう逸話をご存じでしょうか。

スティーブ・ジョブズがiPodの試作機を手にしたときの話です。


ジョブズと水槽

ジョブズはその試作機を手にもって,あれこれといじくり回したあげく,「まだ大きすぎる。もっと小さくしろ」といいました。エンジニアは食い下がり,「この大きさまでたどり着くのに何度も作り直したので,これ以上小さくすることはできません」と主張します。

すると,ジョブズは試作機を持って立ち上がり,部屋に設置されていた水槽のもとに歩み寄ります。そして試作機を水に沈めると,機体からぶくぶくと泡が立ちのぼります。

「泡が出るということは,まだ隙間があるということだろう。あの泡の分だけ,もっと小さくしろ」

という逸話です。これまでにもいろいろなところで目にしたことがあります。もっとも,目にしたのがネットだったのか,本だったのか,何だったのかはもう覚えていないのですが。

フリー

ちなみに,私たちが毎日,ほとんど無料で音楽を聴くことができるようになっている背景については,少し昔の本ですがこちらの本が面白かった記憶があります。『フリー ―<無料>からお金を生みだす新戦略』です。

ここでも活躍したのが,今やほとんど誰ももっていないであろうiPodです(iPhoneに代わってしまいました)。

 iPod発売以前には,誰もポケットの中に自分の音楽コレクションすべてを持っていたいとは思わなかった。だがアップル社のエンジニアは,記憶容量が潤沢であることの経済的意味を理解していたのだ。彼らは,コスト当たりのディスクドライブ容量が増えるペースは,プロセッサよりも速いことを見てとった。巨大な音楽カタログを持ち歩きたいという需要がiPodの開発をうながしたのではない。物理学と工学がうながしたのだ。アップルのエンジニアたちは,ミードの言葉を借りれば,「テクノロジーの声を聞いた」だけだった。

クリス・アンダーソン 高橋則明(訳) (2009). フリー:<無料>からお金を生み出す新戦略 日本放送出版協会 pp.121-122

本当の話なのか

さて,私自身も「スティーブ・ジョブズの逸話だ」と思っていた,iPodと水槽の話なのですが,実はこの逸話はスティーブ・ジョブズの話ではないそうなのです……。

【追記】ジョブズがiPodを水没させる逸話はウソである、フェイクだっていいじゃない

実は,ソニーがウォークマンを開発するときの盛田昭夫氏の逸話だったのではないか,という話が書かれています。しかしさらに,実際にはハンディカムの開発時の話なのではないか,しかも「水に入れたらどうなる」という話をしただけで,実際に水に入れたわけではなかったということのようです。しかもこの逸話が知られていたからか,CMに採用されて広まった,と。

いやはや,ネットの中で広がるミーム(meme)は,形を変えて生き残っていくものです。

ここから先は

0字
【最初の月は無料です】心理学を中心とする有料noteを全て読むことができます。過去の有料記事も順次読めるようにしていく予定です。

日々是好日・心理学ノート

¥450 / 月 初月無料

【最初の月は無料です】毎日更新予定の有料記事を全て読むことができます。このマガジン購入者を対象に順次,過去の有料記事を読むことができるよう…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?