どうしてその研究は日本で行われていないのですか?
たまに学生から「○○の研究が日本であまり行われていないのはどうしてですか?」という質問が出されることがあります。私が授業の中で,「この研究は日本ではあまりされていないのですよね」と口に出してしまったことに対する反応です。
こういう質問をしたくなる気持ちはよくわかるのですが,そこに理由はあまりないのですよね。あるとすれば「たまたま日本にはそれに興味をもって集中的に研究する研究者がいない」というところが「理由」なのですよね。
研究対象バイアス
先日,『植物学者は「きれいな花」を研究対象に選びやすいバイアスを持っている』という記事を見たときにも,最初のような質問のことが思い浮かびました。
そこでディクソン氏らの研究チームは、1975年~2020年に発表されたアルプス山脈に生息する植物についての論文280件を調査し、どのような植物が研究対象として扱われているのかを調べました。研究チームは論文の中で焦点が当てられる頻度と、植物の色や形、目立ちやすさといった特性との関係を分析したとのこと。
研究テーマがどのように選択されるのか,という研究自体も面白そうです。
分析の結果、白・赤・ピンクといった色鮮やかな花や大きくて目立つ植物が研究で取り上げられやすく、緑色や茶色をしている地味で目立たない植物は取り上げられにくい傾向が明らかとなりました。なお、最も注目されやすかったのは、自然界でも珍しい青色の花を持つ植物だったそうです。一方、興味深いことに「植物の希少性」は研究対象として取り上げられる頻度にそれほど大きな影響を与えなかったとのこと。
見た目が派手な植物は,地味な植物よりも研究対象になりやすいという結果が得られています。
何を研究しているのですか?
何となくわかるような気がします。植物を研究している研究者に「何を研究しているのですか?」と尋ねたときに,「あの花を研究しているのです」と言われたときと,地味な植物を研究していると言われたときとで,研究者以外の反応も大きく変わりそうです。
ですからこれは研究者自体のバイアスでもあり,研究者の研究内容を受け止める側のバイアスでもあると思ったのでした。「○○の研究をしているのです」と言われたときに,「面白そうですね」となるか「ふーん」となるかの境目です。でも,なんとなくの表面的な研究の面白さというのは,意味のある研究であるのかどうかとは別の話です。
先ほどの記事の中でも,
植物学者に根ざしているこの偏見は、視覚的に目立たないものの生態系にとって重要だったり、緊急の保全が必要だったりする植物を見過ごすことにつながりかねない
と指摘されています。
研究テーマはどうやって選ぶのか
研究者にとって,研究テーマの選び方はいろいろです。「面白そう」と思って研究を始めることもありますし,それまでやって来た研究から次の研究へと移っていくこともありますし,依頼されて取り組むこともあれば,共同研究を持ちかけられることも,たまたま所属した研究室で取り組んでいるテーマだった,ということもあります。
研究者にとっての研究テーマというのは,巡り合わせや偶然によって左右されるものです。ある国で突然何かの研究が盛り上がったり,どこかの国ではある研究がまったく行われなかったり(どの研究者もなぜか取り組んでいない),たまたまある研究者がある研究テーマに取り組んでいたり……と,「ある国であるテーマの研究が行われているかどうか」というのは,さまざまな巡り合わせの結果そうなっているというわけです。
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