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就職面接で生い立ちを聞いても良いのですか

先日,学生を話をしていたときのことです。すでに就職は決まっている学生なのですが,面接で自分の両親のことや生い立ちのことを聞かれて,「そんなことを聞いていいのか」と疑問に思ったそうなのです。

なぜなら,苦しい生い立ちの学生がいるかもしれません。特殊な境遇で育った学生がいるかもしれません。苦しい子ども時代のことを回答したくない,という学生もいることでしょう。もしも何らかの思想信条が絡んできたとして,それで就職できない,というのは大きな問題でしょう。

このような可能性があるのに,生い立ちを聞いてしまっていいのか,という疑問を抱いていたのでした。

これは全くその通りで,こういったことは大学の面接試験をするときにも気をつけることです。「どんな本を読む?」というさりげない質問すら,思想の調査になりかねません。

このような質問は,仕事の遂行上や学問を行う上で必須のものなのでしょうか?

目次

・生い立ちは関係あるのか
・サラリーマン
・ジョブ型・メンバーシップ型
・日本の就活
・だから生い立ちを聞いてしまう
・追記(7/29)

生い立ちは関係あるのか

いや,生い立ちを聞かないとどんな人物か分からないじゃないですか」と言う人がいそうです。

では,なぜ「どんな人物なのか」を知る必要があるのでしょうか。

これから一緒に家族のようにひとつの会社で長い間働いていくのだから,どんな人物かが分かった方がいいじゃないですか

このさりげない,人によっては「当たり前じゃないか」と思うような発言の背景には,日本で職業に就くという特殊な状況がかかわっています。

サラリーマン

会社員サラリーマンという言い方をします。

アデコ株式会社が毎年調査している「全国の小中学生1000人を対象にした「将来就きたい仕事」に関する調査」があります。この2017年の結果では,男女総合の第1位が会社員(サラリーマン・OL)でした。

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4位の公務員もそうなのですが,この会社員と公務員というのは所属の問題であって,職種ではありません。

でも,学生の就活でも「会社員」か「公務員」か,で就職先を選ぶのが大多数なのですよね。

ジョブ型・メンバーシップ型

若者と労働—「入社」の仕組みから解きほぐす』の中で,ジョブ型社会とメンバーシップ社会という言い方をしています。

ジョブ型社会というのは,就職する際に具体的な職名,職能にもとづいて就職する社会です。会社に入るにしても,職務の範囲が明確に決まっています。

それに対してメンバーシップ社会では,「会社に入る」という言い方をします。このような社会で会社員は,「事前に職務範囲が定まっていない何でも屋」として雇われるのです。

日本の就活

このように考えると,明らかに日本の就活というのはメンバーシップ型で行われていることが分かります。

そして,事前に職務の範囲が定まっていないのですから,採用が「人物重視」になるのです。

不採用の理由も,具体的ではありません。ジョブ型の雇用であれば,「この能力が足りないから不採用だ」と理由が明確になります。しかしメンバーシップ型の雇用では,全人格的な判断基準になってしまいますので,不採用は必然的にある種の人格否定になったり,自分の内面全体の足りなさが理由とされたりするのです。

これは,なかなか苦しい状態です。

ではどうやって改善して,就職につなげたら良いのでしょうか。
ジョブ型の雇用であれば,その必要とされる能力を伸ばせば良いのです。
でもメンバーシップ型の雇用では,全人格を高めないといけません……だから,自己啓発的な対応策へとつながっていってしまうのです。

だから生い立ちを聞いてしまう

大学教員の採用面接で「どのように育ちましたか?」なんていうことは意味がないから聞くことはないでしょう。それよりも,何が教えられるのか,どんな研究ができるのか,のほうがよっぽど重要です。それは大学の雇用がジョブ型だからです(もっとも,入ってしまうといろいろな仕事が…ということはありますが)。

その一方で,学生の就職はどうでしょうか。
日本の就職は「就社」と揶揄的に言われることもあります。
職に就くのではなく,会社に入るのです。そして入ってしまえば,たいていどのような仕事もこなすことが求められます。

だから,生い立ちを聞いてしまうのです。
何ができるかよりも,どのような人物であるかが会社にとって重要だと考えてしまうような枠組みが,社会の中にあるからです。

そのような就職も善し悪しあるでしょう。ジェネラルに多くのことに目を配ることができるプロフェッショナルが会社の中で育つ,という面もあります。しかしその一方で,ある領域に特化した本当の専門家は育ちにくい環境であるとも考えられます。

どちらがこれからの時代にマッチするのか,それはよくわかりません。

しかし,とはいえ,このような背景を理解した上で,生い立ちや全人格的な判断ではなく,何が必要とされるかを判断した上で面接をした方が良いのではないか,と思うときがあるのも正直な気持ちです。

追記(7/29)

Twitterで本田先生より,厚労省の資料を教えていただきました。
公正な採用選考をめざして
学生の面接をする企業の方はぜひご配慮ください。

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小塩真司。早稲田大学文学学術院教授。専門はパーソナリティ心理学。性格の構造,発達,適応に関心があります。 研究室:http://www.f.waseda.jp/oshio.at/index.html Twitter: https://twitter.com/oshio_at

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