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「嫌なことを考えたくない」が基本

注意喚起をすると「そんな嫌なことを言わないでくださいよ」という反応が生じることは,よくあります。避難訓練なんかもそうですし,自動車の運転免許の書きかえなんかも典型的ですよね。

『人が死なない防災』(片田敏孝著)を読んでいたときに,こんな一節が出てきました。

典型的なのは,車の免許の書きかえです。免許試験場に行くでしょう。すると,交通事故の写真をいっぱい見せられます。そうすると,帰りに運転していると街角のそこかしこから人が飛び出してくるような気がして,ソロソロと安全運転している自分がいます。でも,だいたい一晩でもとの運転に戻りますよね。

片田敏孝 (2012). 人が死なない防災 集英社

日本の防災教育の間違い

この本の中には,日本の防災教育で陥りがちな間違いとして2点が挙げられていました。

ひとつは,脅しの防災教育です。とにかく「怖いぞ」「怖いぞ」と連呼して恐怖を喚起させようとする教育のパターンです。小学校でも普通に行われていて,最近だと「ネットは怖い」という講習会が行われることもよくあります。最初に書いた自動車運転免許の書きかえ時の講習も同じパターンです。

そして,脅かしたとしてもたいして効果はないものです。教育をする側は「効果があるだろう」と錯覚しているのですが,実際にはすぐに忘れてしまいます。「嫌なことはするに忘れる」のが私たちの特徴だからです。

いずれにしろ,外圧的に形成される危機意識は,長続きしないのです。何事もそうですが,恐怖喚起のコミュニケーションでは本当の効果はあまり期待できません。お子さんやお孫さんを脅かして何かやらせようとしてもうまくいかない,ということと同じです。

片田敏孝 (2012). 人が死なない防災 集英社

知識だけもダメ

そしてもうひとつの間違いは,「知識の防災教育」なのだそうです。できるだけちゃんとした知識を与えて,合理的な行動を導こうとするのも,教育では行われがちです。一見正しそうなのですが,防災に関してはこの方法ではうまくいかないと本の中に書かれています。

与えられる知識は,主体的な姿勢を醸成しないからです。また,知識を与えられることによって災害のイメージを固定化し,その災害イメージを最大値に使用とします。それが,「想定にとらわれる」ことにつながってしまう。

片田敏孝 (2012). 人が死なない防災 集英社

内発的な自助

防災で必要なのは,主体的に自らが動くことです。本の中では「内発的な自助」という言葉で表現されていました。

親として家族を守りたい,地域の若者としてみんなで安全を守り抜きたい,そのような内なるものとして沸々と湧いてくるような自助のことです。この違いは,非常に重要だと私は思っています。これは全くの精神論ですが,これからの住民の地域の被害対応を根底から変えるものです。

片田敏孝 (2012). 人が死なない防災 集英社

また地域の中では,誰かが大きな声を出しながら率先して「逃げるぞ!」と大騒ぎすることも大切だそうです。このような人を「率先避難者」と言うそうです。

私たちは逃げようとしてもつい正常性バイアスのせいで「たいしたことはないだろう」「大丈夫だろう」と考えてしまうものです。そんなときに「今が逃げるときだ」とシグナルを送ってくれる人の存在は,多くの人々を助けることにつながるのでしょう。

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