卒論で結果が出ないとき
以前,次のような質問に答えました。「卒論で大失敗」ということについてです。
でもここに書いたように,もしも「望む結果が出なかった」ことであるならば,それをしっかり論文に書くのが良いと思います。
この「卒論での大失敗」がどういう状況なのかが分かりませんので,とりあえずは心理学で調査や実験をしたにもかかわらず,うまく結果が出なかったことを想定して答えています。でも,質問された方がそれを想定しているのかどうかは分かりません。
回答の前提
回答は書いた通りなのですが,実はそこには前提があります。というのも,これまでの経験から,「結果が出ませんでした」と報告してくる学生のうちの何割かは,どこかの分析でミスをしている可能性が高いからです。
ですので,「結果が出ませんでした」と報告してきた場合,「本当に結果が出ない状況にあるのか」を確認する作業が始まります。
自分のゼミなどで良く起こることなので,調査をする研究でそれが生じることが多くなります。
学生が研究計画を立てて質問紙調査をしたとします。そして,調査をしてデータをコンピュータに入力するところまでは済んでいるとします。そこまででおかしなミスをされると,あとから発見するのは難しくなってしまうかもしれません(それ以前にチェックしてミスを防止しておきたいところです)。
ところが,得点の入力ミスもよくあることなのです。「5」と入れるべきところを「55」にしたり。いきなり大きな値がデータの中に混入しますので,それで一気に結果が変わってしまいます。
基本的な統計量,平均値や標準偏差や最小値,最大値を確認してほしいところです。最大値が想定の範囲を超えていれば,入力ミスに気づきます。
よくあるケース
そこまでは間違いないとして,その後によく生じるケースを思い出してみたいと思います。
いちばんよくあるのは,得点の扱いが間違っているというケースです。
たとえば尺度得点を合計するときに,内的整合性の確認(α係数を算出しておくなど)はしたほうが良いでしょう。逆転項目の処理をせずに(得点を逆転させずに)尺度の得点を合計して,「結果が出ません」というケースがこれまでに何度かありました。合計した得点がプラスマイナス混在しているので,合計得点が何を示しているのかがよくわからなくなってしまい,結果もよく分からなくなってしまいます。
結果が出ない時
さらにそれでも「結果が出ません」という発言が出る時には,どこにその原因があるのかを推理していきます。
「得点分布を見せて」「散布図見せて」「平均と標準偏差と最高点と最低点は」「アルファ係数見せて」「相関係数は」「この得点で因子分析してみて」と,推理のヒントを探るように分析結果をチェックしていきます。おかしな値が出てこないか,ああいう可能性があればこの結果に反映するのではないか……と,探偵みたいなものです。
そして一通り確認して,それでもミスが見つからず,本当に結果が出なかった可能性が高まってきたところで,やっと「それを論文に書いていったらどうでしょうね」という話になります。
「結果が出なかったらそれを書けばいいんだな」と安易に捉えてもらうのもよくないのではないかと思った,というお話でした。
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