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帯に短したすきに長し

帯に短したすきに長しという慣用句があります。英語だと,「Too much for one, not enough for the other.」でしょうか。「中途半端でどちらの役にも立たない」という意味です。

心理学の中でも,この帯に短したすきに長し,と同じようなことが起きることがあります。というより,多くの場合にこのようなことになってしまう,というのが正しいのですが……。

心理学の中で

たとえば,こういうことです。

一般知能(g)の下には,複数の知能が仮定されています。たとえば言語的知能を測定したとしましょう。そして,言語的知能と一般知能で,いろいろなことを予測したとします。

◎一般知能は,言語的能力をそこそこ予測できます。
◎言語的知能は,言語的能力をとてもうまく予測できます。

このように両者を比較すると,言語的知能の方がある人の言語的能力をうまく予測することができるのですから,役に立ちそうです。

しかしその一方で,次のようなことも起きます。

◎一般知能は,将来の収入をそこそこ予測できます。
◎言語的知能は,将来の収入をあまり予測できません

広い範囲と狭い範囲

一般知能は,全体的な知能という広い範囲を測定したものです。そして全体的な知能は,学力,学歴,収入,寿命など,人生の中での様々な結果をそこそこ予測できます。非常にうまくは予測できないけれど,それなりにまあまあ予測できるという点がポイントなのです。

一方で,領域を限った知能は,それぞれの領域が意味する能力や結果をとてもよく予測することができます。言語的知能は,言葉を扱う能力が反映した結果であれば,とてもうまく予測することができるのです。小論文の採点結果とか,スピーチとか,国語の学力テストとか。これらについては,全体的な一般知能で予測するよりも,言語的知能という部分的な知能で予測する方がうまく行きます。

でも,言語的知能は言語的な結果はうまく予測できるのですが,領域を外れると急に予測がうまく行かなくなってきます。

全体的な能力はなだらかな丘のように,多くの領域を予測できるのですが,丘の標高があまり高くないように,どの領域もそこそこにしか予測できません。一方で,言語的知能のような領域を限った能力は,標高が高く切り立った山のようなイメージです。一部の結果は非常にうまく予測することができるのですが,頂点を外れるとうまく予測できません。

帯域幅と忠実度

こういった現象を,帯域幅と忠実度のジレンマ(bandwidth-fidelity trade-offs, bandwidth-fidelity dilemma)と言います。範囲と標的との関係と言ってもいいでしょうか。

では,細かい領域だけを予測に使えばいいじゃないかと思うかもしれませんが,必ずしもそうではありません。ある程度広い範囲をまあまあ予測できることが,実際には役立つことも多いのです。領域を限った能力を多数測定することも,現実問題としてはなかなか大変です。

このあたりのバランスをどうとっていくのかということも,何かで何かの結果を予測しようとするときに考えるべきポイントのひとつです。

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