「性格は何歳で完成するのか」という疑問について

今回も「Great Myths of Personality」から,トピックをピックアップして見ていきたいと思います。

性格は30歳を過ぎると完全に安定する(あるいは石膏のように固まる)

今回はこのテーマを取り上げてみましょう。海外の論文や教科書の中では,”set like plaster”という表現がよく登場します。「plaster」は石こうや漆喰という意味ですので,それまではなめらかで変化の可能性があったものが,時間がたつと固まってしまうという意味になります。

何歳で完成?

「性格は○歳になると完成する」という意見には,さまざまなものがあります。

3歳で決まるのでしょうか?

それとも6歳で決まる?

アドラーは10歳と言ったのでしょうか?

完成とは何か

以前にも書いたことがあるのですが,性格の「完成」とは,何を意味しているのでしょうか。おそらく人によって「完成」のニュアンスが違ってくることが大きな問題の一つなのですよね。

◎平均値の安定性
◎順位の安定性
◎構造の安定性

まだ他にもあるのですが,たぶんこれくらいのことが想定されているのかなと想像されます。

◎平均値の安定性:時間が経過しても,ある集団の得点の平均値が一定のままで上下に動かないこと
◎順位の安定性:2時点で観察された人々の順位が入れ替わらない(安定する)程度
◎構造の安定性:変数Aと変数Bの間の関連(相関係数)が年齢を経ても変わらなくなること

重要なのは,「完成する」という言葉が曖昧だということに気づくことではないでしょうか。より具体的に「得点がどうなること」が「完成」なのだと規定することで,「ではどのように確かめたらいいのか」という話へとつながっていきます。

何歳で安定するのか

さて,アメリカのパーソナリティ心理学者ロバーツ(Roberts)たちは,この問題に回答を与える論文を発表したことで知られています。

ひとつは順位の安定性についてです。過去の論文を集めて,その中で「パーソナリティ特性の測定が2時点で行われた結果」を集めていきました。それぞれの研究では,数週間や数か月おきに再調査が行われ,パーソナリティ特性について(どのような特性でも構わないのですが)1回目の得点と2回目の得点との間の相関係数が報告されます。

それを集めてきて,年齢範囲ごとに相関係数を統合していきます。メタ分析という手法を用いると,統合することができるのです。

結果は,次のようなものでした。

・3歳未満は0.3から0.4程度(あまり安定していません)
・6歳以降,次第に安定度は上昇していく
・50代以降,0.7前後の安定性(「完全に安定している」とは言えない)

年齢とともに相関係数は上昇していくのですが,完全な安定性にはならない,という点が研究結果のポイントではないでしょうか。

平均値の違い

ロバーツらはもうひとつ,平均値の変化についてもメタ分析で検討しています。

この論文でも,メタ分析で92の平均値の変化について年齢範囲ごとに検討しています。結果からわかることは,パーソナリティ特性について若年層で大きく変化するものと,年齢が上がってから比較的大きく変化するものの両方が見られると言うことです。また,順位の安定性と同じように,「○歳で完成する」つまりどこかで平均値の変化が起きなくなるような年齢は見られないということも示されています。

結果的に,やはり「○歳で性格は完成する」ということはなかなか言えず,生涯にわたって変化していく可能性があると言えそうです。

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