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月経は犯罪につながるのか

今回紹介する本は,『月経と犯罪: “生理”はどう語られてきたか』(平凡社)です。

古代ギリシャ時代以来,「女性が月経時に精神に変調をきたす」という「症例」がしばしば報告されてきたそうです。そしてオーストリアの精神医学者リヒャルト・フォン・クラフト=エビングは,こうした症例を集めて「月経精神病(Psychosis Menstrualis)」として発表します。

この本ですね(amazonにありました)。

この本の中で,月経精神病が高じて犯行に及んだ女性の話が出てくるそうです。

そしてこの本の中で取り上げられていた事例を引用して,20世紀初頭の日本でも,女性が犯罪を犯したときには必ずと言っていいほど,月経が正常であるかどうか,月経中であるかどうかを尋ねられていたそうなのです。


精神疾患

月経は,ある種の精神疾患とも結び付けられてきました。

 ある医師は,母親があらかじめ初経についての知識を与えておかないと,突然の出血に驚いた娘が痙攣を起こし,それが契機となって精神疾患を発症すると説いている。初経期に発症しやすいとされた精神疾患には,「萎黄病」「心窩苦悶」「ヒステリー」「躁狂」「躁鬱狂」などがあった。(p.22)

「萎黄病」にかかると,普通ではないものを食べる異食の症状を示し,肌の色も変わると書かれていたそうです。

ちなみに今でも「萎黄病」という言葉は使われるのですが,主に植物の病気として使われるようです。

人間に対してこの言葉が使われるときには,皮膚の色が青白くなって貧血を起こしやすくなること……鉄が欠乏することに夜貧血の症状として使われるようです。

PMS

今では,PMSという言葉がよく使われます。PMSとはPremenstual Syndromeのことで,「月経前症候群」と呼ばれる症状です。

とはいえ,その症状は多岐にわたっています。そしてその症状の経験を網羅していくと,有経女性の9割がPMSを経験しているという報告にもなってしまうそうです。

もしも「PMSの女性が罪を犯すほど精神的に不安定である」という説が正しいとするならば,ほとんどの女性がこれに当てはまってしまうことになります。

PMDD

PMSのひどい症状,特に精神的に落ち込んだりイライラしたり,不安や落ち込みをひどく感じ,日常生活に問題が生じるといった症状がある場合には,PMDDという診断につながる可能性もあります。これは「月経前不快気分障害(Premenstrual Dysphoric Disorder)」という名称で,アメリカ精神医学会の診断マニュアルであるDSM-5に記載されている精神疾患です。

この診断基準では,本当に著しい症状が出なければPMDDとは診断されません。「女性なら誰でもこうなる」という判断から,本当に必要な判断へと基準が移っていったという歴史があるということを意味しています。PMDDは治療の対象ですので,本当に困っている人は医師に診てもらうことも可能となります。

複雑な経緯

「月経が犯罪につながる」という言葉だけを聞くと,単に男尊女卑が背景にある放言のように思えます。確かに男性の女性に対する無理解,事実の曲解,偏見などが関与しているのですが,その一方で,犯罪を月経のせいにすることで本人の責任を回避させるとか,こういった紆余曲折を経て現在につながってきているとか,いやまだまだ無理解や曲解が多いとか……さまざまなことを考えさせられる本でした。

ぜひどうぞ。






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