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心理尺度の使用に関する問い合わせについて

一年を通じて,自分が作成した,あるいは作成にかかわった心理尺度を使いたいのですが,という問い合わせがあります。そのたびに返答をお送りしてはいるのですが,頻繁に問い合わせがあることもあり,また回答に共通する部分もあります。

そこで今回は自分が関与した心理尺度を使っていただくことついて,考えていることをまとめてみたいと思います。

作成した尺度

私が作成に関与している心理尺度は,研究室のwebサイトに一覧があります。

二分法的思考尺度 (DTI):白か黒か,全か無か,など物事を二項対立的に捉えようとする志向性の個人差を測定する尺度
日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J):10項目でビッグ・ファイブ・パーソナリティの5つの特性を測定する尺度(各特性2項目)
日本語版Dark Triad Dirty Dozen(DTDD-J):12項目でマキャベリアニズム,サイコパシー,自己愛のDark Triadを測定する尺度
日本語版強欲傾向尺度(J-DGS):「より多くの物を求める飽くなき欲望」「より多くの資源やお金を求める飽くなき欲望」といった強欲傾向を測定する尺度
日本語版心理的特権意識尺度(JaPES):自分は他者よりも多くのものを得るのが当然であり,多くを得る権利があるという安定して一貫した感覚である特権意識を測定する尺度
IPIP-IPC-J:円環状に配置された対人特性を8次元で測定する尺度
恋愛様相尺度:恋と愛を対比した形で捉える恋愛様相モデルに従った3次元の測定を行う尺度
食物選択における価値観尺度(Values in Food Choice Scale; VFCS):食物を選択する際の背後にある価値観を,健康・栄養,メディア情報・人気,手軽さ・便利さ,安価・価値,気分・味,家族・家庭の6側面から多面的に測定する尺度
精神的回復力尺度 (ARS):精神的な落ち込みからの回復を促す心理的特性である精神的回復力を測定する尺度
自己愛人格目録短縮版(NPI-S):自己愛(ナルシシズム)傾向を「優越感・有能感」「注目・賞賛欲求」「自己主張性」の下位側面から捉える尺度
大学生用リスクテイキング行動尺度 (RIBS-U):飲酒や喫煙,ギャンブルなども含むリスクテイキング行動に従事する程度を測定する尺度
友人への要求尺度・友人獲得尺度:友人関係の側面を測定する尺度
自己像の不安定性尺度 (Stability of Self Scale):Rosenbergの自己像の不安定性尺度に基づいて作成された尺度
異性に対する態度尺度:異性に対して緊張したり不安に思ったりする傾向を含む尺度

研究目的の場合

心理尺度は研究のために作成されています。ですので,研究で使う分には何の問題もありません。調査に使用する前の許可も必要ありません

ただし,それぞれの尺度を作成した過程が掲載されている論文を引用して,文献リストにその論文の記載をお願いします

心理尺度は研究のために作られた道具ですので,研究に使っていただくことに価値があります。そこでの報酬は「論文を引用してもらうこと」です。そして価値のある研究,意義のある研究,それらが書かれた論文に自分が作成した尺度が使用され,その論文の中に自分の論文が引用されることに意義があります。

研究はネットワーク状に関係性が広がっていきます。ある研究は別の研究で引用され,またその研究はさらに別の研究で引用されます。どのような研究であっても多くの場合,ある論文だけで研究が完結するわけではなく,研究で明らかにされたことは次の研究へ,また次の研究へと引き継がれていきます。

心理尺度が多くの研究で使われていけば,この研究のネットワークを作り出していくことになるというわけです。ですので研究が目的の場合には,作成した心理尺度をどんどん使ってその研究結果を論文に書いて発表してもらいたいと考えています。そしてネットワークの構成のために,その論文の中に尺度を構成した論文を引用してほしいというわけです。

使用後の連絡は?

もしも尺度を使用して研究成果が論文として公表され(かつ気が向いた)のであれば,ぜひご連絡いただければと思います。

でも,最近は自動的に,どの論文で自分の尺度が使われていそうなのか(実際に使用されているかはその論文を読まなければわかりませんが,少なくとも引用文献リストに掲載されているものについては)情報を集めることができるのです。たとえば,Google ScholarでTIPI-Jの論文が引用されている文献を調べることも簡単です。

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ですので,尺度を使っていただいたことを報告していただかなくても問題はありません。もしも使っていただいたことで良い研究になってもらえれば,そしてその論文がさらに広く読まれていくのであれば,嬉しく思います。

ちなみに,Ten Item Personality Inventoryのもとの作成者はSam Goslingです。そしてオリジナルの論文は,これまでに7000回以上引用されています(2020年12月現在)。そのたびに「使用してもよいですか」と世界中から連絡があるとは,とても考えられませんし,きっと対応できないでしょう。連絡がある時は「自分の言語に翻訳したいのですが構いませんか」という時くらいだと思います。

連絡するように指導された場合

学生の皆さんの中には,尺度を使用する際に作成者に連絡をして許可を得るようにと指導されるケースがあると思います。

そういう場合には,ぜひご連絡ください。その場合は,メールで連絡をいただければ十分です。時々,大学あてに封筒やはがきでお送りいただくこともあるのですが,手にするタイミングが遅くなってしまいがちです。丁寧にお手紙をいただけるのはありがたいのですが,メールでお問い合わせをいただくだけでも問題ありません。

不明の点があれば

もしも尺度を使用する上で,よくわからないことがあればメールで問い合わせをいただければと思います。なお,尺度の回答フォームはwebサイトに掲載されており,平均値などについては論文に記載されています。もしもその他,わからないことがあればぜひお問い合わせください。

ネット上の心理検査サイト

ネットを検索すると,論文に記載されている質問項目を使った「心理検査」サイトがたくさんヒットしてきます。その中身をちゃんと見ているわけではないのですが,それぞれどうやって作成されているのでしょうか。もしも,論文に掲載されている心理尺度をそのまま断りなくwebサイトに掲載された場合には,どういった問題が生じるでしょうか。

たとえば,論文に無料で公開されている道具を使って,(広告収入等の)営利を得ていると考えることもできるでしょう。これも,本来の使用目的とは異なっています。また,本来は研究や教育場面で社会の役に立てようと開発された心理尺度が,特定の個人の営利のために利用されてしまうという問題が生じると考えることもできます。

なお,ネットで公開されている心理検査を受ける時には,(1)誰がそのサイトを作っているのか,(2)データが何に使われるか明示されているのか,に注意した方が良いと思います。信頼できる配信元が研究目的のために行っている調査であれば,ぜひ協力していただきたいのですが,集めたデータが何に使われるのか不明瞭なサイトで気軽に回答するというのは,たとえ判定結果が出たとしても,回答内容も個人の重要な情報ですのでやめておいたほうがよいかもしれません。

企業のシステムに組み込む

作成した心理検査を,企業が自社のサービスに組み込みたいという依頼が寄せられることもあります。

個別のケースについてはお問い合わせをいただければと思いますが,基本的なスタンスは以下のとおりです。

◎心理尺度は,研究・非営利目的のために作成している
◎営利目的のために研究目的で作成された心理尺度を自社サービスに組み込むというのは,目的外使用となる
◎もしもその営利目的のサービスが将来的に特許等で保護される場合,組み込まれた心理尺度が研究目的で自由に使用可能なのかが不明瞭になる

◎ただし,研究に関連する部分があれば,相談させていただく(データを研究目的で使用可能,共同研究,など)

こういったことから,基本的に自社サービスに組み込む心理尺度は,独自に作成されることをお勧めしています。それは,自社独自の製品を作成することと同じだからです。そして,もしも必要であれば,心理尺度を新たに作成することについて何らかの監修やアドバイスをする,また研究室で新たに作成して納品する,といったご相談を受けることも可能です。

お問い合わせください

以上が,開発した心理尺度を使用いただく際に,私自身が考えていることになります。もしもご不明な点がありましたら,メールでお問い合わせください。

では,どうぞよろしくお願い申し上げます。

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