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無限のサルと次元の呪い

数え切れないほどのサルを連れてきて,タイプライターの前に座らせるという話を聞いたことはありますか

次の様子を想像してみてください。

広い部屋の中の床にタイプライターが置かれています。その1つ1つの前に,サルが1匹ずつ座っているのです。キョロキョロと周囲を見回しながら座っているサルもいそうですし,頭を掻いていたり,何か落ちていないかと探していたりするサルもいるかもしれません。

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このサルたちの中には,目の前にあるタイプライターに興味を持ってキーを打ち始めるものもいます。カチャカチャと適当に。タイプライターって,けっこうしっかりキーを押さえないと文字を印字してくれません。タイプライターに興味を持ったすべてのサルがうまく文字を印字できるわけではないでしょうが,中にはうまく印字できるサルもいることでしょう。

さらにその中には,偶然単語を入力できるサルもいるはずです。なんといっても数え切れないほどのサルがいるわけですから。いくらタイプライターの文字入力が難しくても,絶対その中には偶然そこまでたどりつくサルがいるはずです。

最初の単語は何になるのか全くわかりません。なんといっても偶然なのですから。

さらにその中には,偶然文章を入力するサルもいるはずです。どのような文章なのかはわかりません。「I am a monkey.」なのかもしれませんし「It's a wonderful day.」なのかもしれません。とにかく,そういうサルもいるはずです。

そして,限りなく多くのサルがこの作業に参加すると,中には偶然,必ず『イーリアス』を書き上げるサルが出てくるはずです。どのような試行錯誤があったとしても,どれだけその確率が低いとしても,限りのないサルが作業に参加するのですから,限りない選択肢の分岐の末に,『イーリアス』を書き上げるサルもまた存在するはずなのです。

この『イーリアス』を書き上げたサルは,英雄として讃えられることでしょう。人間ですら成し遂げることが極めて困難な作業を,一匹で成し遂げたのですから。

ではここで問題です。

この英雄となったサルがもう一度タイプライターの前に座ったとしたら,次に『オデュッセイア』を書き上げることができるでしょうか。なんといってもこの英雄のサルはホメロスの叙事詩を1つ書き上げたのです。もう1つを書き上げることだってできるはずでは

さて,過去のパフォーマンスは,将来のパフォーマンスとどれくらい関係するものなのでしょうか。

このサルがあなたの目の前に現れて,「次も素晴らしい作品を書きますから私に投資してください」と言ってきたらあなたはこのサルにお金を出しますか?
だって,このサルはなんといっても『イーリアスを書き上げた実績』をもっているのです。

行動の背景

どういう場合だったら,あなたはこのサルに投資しますか?

一番明確なのは,本当にこのサルが『イーリアスやオデュッセイアを書き上げる能力を持っている』場合ですよね。でも,最初に示したような無限大の数のサルがいるという条件がある場合,その可能性は薄いと言わざるを得ません。

では,
「株式投資で大もうけをした人」は?
「ある商品を開発して大もうけした人」は?
「素晴らしい発見をして有名になった人」は?
次にもう一度,同じことを成し遂げることができるでしょうか。

ある事柄を成し遂げたという事実の背景に,そこに至るのが必然だと考えられる何か,すなわち能力や努力,技術といったものがより確実にある場合には,もう一度同じようなことを成し遂げる確率が高くなっていきます。

その場合はこの人物に投資をしてもいいかもしれません。
ただ問題は,それらが本当にあるのかどうかがなかなかわからない点にあります。

コイン投げ

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