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自分は特別でやってもらって当然

以前も書きましたが,卒論から博論まで自己愛的なパーソナリティの研究をしていました。これに関しては,やり直したいこともあれこれありますがそれは胸の内にしまっておこうと思います。それは今の自分だからこそ,わかることだからです。

予想外

「どうして自己愛の研究をしたのですか」と聞かれることもありますが,正直よくわかりません。テーマを探そうと図書館にこもって,手当たり次第に国内外の論文を読みあさっていたのは確かで,その中で何か自分の考えていたことにヒットしたのでしょう。そんなものです。

当時は,自己愛(ナルシシズム)概念がこんなに当たり前のものとしてどんどん研究されるとは思っていませんでしたが。

特権意識

自己愛的なパーソナリティの中心的な特性のひとつが,特権意識(Sense of Entitlement)です。

特権意識とは,
◎自分はより多くのものを得る資格がある
◎他の人より多くのものを手に入れるのが当然だ
◎自分は特別な扱いをされてもおかしくないはずだ
といった感覚を安定してもっている傾向のことです。

そこまであからさまではなくても,「手伝ってもらうのは当たり前」「そんなにいつも感謝しなくてもいいのでは」「じぶんが他の人と同じだったり,ましてや他の人より不利になるのは許せない」とか,いくつかの実感を伴うだろうと考えられます。

みなさん自身はいかがでしょうか。

特権意識尺度

この特権意識だけを測定する尺度を作成したのが,自己愛やパーソナリティの時代変化の研究をトゥエンジと一緒にやっていることでも知られる,キャンベルです。(リンク先はPDF)

こういった論文を読むと,海外ではどのような手順で心理尺度が作られているかを学ぶこともできます。日本だとよくあるのが,項目を集めて因子分析して,再検査をして「信頼性が確認された」,そして他の尺度と関連を検討して「妥当性が検証された」というものですよね。この手順の中に,実験的な方法が入ってくることはあまりありません。

妥当性

でも,尺度構成で一番重要なのは,「本当に得点の高い人は得点が低い人よりも,目的の特徴をもつ人びとになっているのか」,つまり尺度の妥当性です。

この研究はひとつの論文の中に,研究1から研究9まで,9つの研究が集められて特権意識尺度が作成されています。心理学ではひとつの論文の中に複数の研究が含められていることはそれほど珍しいわけではありません。9つは多い方だと思いますけれども......。

◎研究1:尺度を作って自己愛尺度の特権意識を測定する側面との関連を検討
◎研究2:確認的因子分析を行なって社会的望ましさとの関連を検討
◎研究3:再検査信頼性を検討
◎研究4:ビッグ・ファイブ・パーソナリティとの関連を検討
◎研究5:特権意識の高い人の方が実験参加時に置いてある入れ物からたくさんキャンディを取っていくかどうかを検討
◎研究6:特権意識の高い人ほど自分は多くの給与を得られるはずだと考える傾向にあるかを検討
◎研究7:森林伐採を行う企業を運営していることを想定し,どれくらい多くの収穫を行うかを想像。特権意識の高い人ほど多目に収穫しがちかを検討
◎研究8:特権意識の高い人ほど恋愛相手に共感を示さず,相手の立場に立たない傾向にあることを検討
◎研究9:特権意識の高い人ほど人から批判された時に攻撃的になるかを検討

論文を見ると,そこまで明確な関連ではないものもあるのですが,ここまで多様な検討をしてどれくらい特権意識が測定できるのかが示されています。見習いたいところですね。

ちなみにキャンベルは自己愛過剰社会という本の著者でもあります。

そして,特権意識尺度は日本語にもなっています。こちらの論文もどうぞ。

たまたま

以前から特権意識の尺度は気になっていて,だれか日本語にしないのかなと思っていました。そんな時,とある学会でキャンベルがたまたま私の斜め後ろの席に座ったのです。

そこですかさず,「はじめまして。日本から来ました」と挨拶をして,特権意識の尺度は日本語になっていますか?と聞いたのです。まだ日本からの問い合わせはないという回答でしたので「日本語にして良いですか?」と,原作者に直接使用許可を得たということを覚えています。

その後,あれこれと紆余曲折を経て論文になったということです。

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