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大学の授業はニュースサイトの見出しのようなもの

先日,授業の感想で質問されて少し考えた「たとえ」について,今日は書いてみたいと思います。

その授業の中で,「講義の内容だけで理解できたと思うのは間違っている」ということを言ったのです。どういうことかというと,同じ言葉を使っていても,背景にある知識が違えば教えようと思うことが伝わらないこともあるし,授業の中でそれを全て一から教えるような時間もないことが多いなと感じたことから出てきた言葉なのでした。

それはわかった上で,誤解を生みそうなところは極力言葉を補って授業をするのですが,それも全て成功するわけではありません。たとえば,授業後のコメントシートに「Aであることがわかった」という感想と「Aではないことがわかった」という感想の両方が出てきてしまったりするのです。いや,本当にそういうことは起こるのです。

するとその授業後のコメントシートに,「そういうことなら,大学の講義というのは意味があるのですか?」という質問が書かれていました。情報が完全に伝わる保証がないのに,それをする意義はあるのか,という疑問ではないかと思いました。

大規模な授業

私が勤めているような大学では昔から「マスプロ教育」なんて言われていました。大教室に多くの学生を詰め込んで行うスタイルの授業ばかり,というイメージからつけられた言い方です。

国立大学の授業が数人から数十人を相手にする授業が多いのに対して,私立大学は学生数がおおくて授業も大規模なものばかり,という状況を,半ば揶揄する言葉ですね。

そういう人数の差は確かにあります。とはいえ,私が学生の時に比べても,私学の授業は小規模なものが増えてきていて,逆に国立大学の授業は予算の抑制が原因なのですが教える側のリソースが限られるようになったことから効率化のために受講する人数を増やす傾向にある印象があります。国立と私立の差は,学費も授業スタイルも小さくなっているのではないでしょうか。

講義と演習

大学の授業は大きく,講義と演習に分かれます。講義は大教室で一方的に伝えるスタイル,演習はインタラクティブに議論をしたり発表をしたりするスタイルをイメージすると良いと思います。

もちろん,その境目は曖昧になることもあるのですが。

そして冒頭の質問は,講義のスタイルの授業についてのものでした。

リンクの先

講義では限られた時間の中である範囲の知識を伝達することを求められていますので,それを効率よく行うように授業内容を展開していきます。

そのような大学の授業,特に講義というのは,ニュースサイトの見出しのようなものではないでしょうか。

ニュースサイトのトップページには,最新のニュースの見出しが並んでいます。それを眺めて,気になるニュースがあればリンクをクリックしてそこに飛びます。そうすれば,もっと詳しい情報が手に入ります。

リンクを飛ばなければ,目に入るのは見出しだけです。それをざっと眺めると,その日に起きた出来事のアウトラインはわかるかもしれませんがニュースの詳細はあまりよくわかりません。

全てを伝えられない

講義も同じようなもので,ある言葉をスクリーンに映してその内容を言葉で説明しても,全てを伝えることはできません。どうしてあえてその言葉を使うのか,どの研究者がどういう経緯でどんな研究をしたのか,それに対して学問の中でどんな議論が起きてどのように反論されたのか,それと他の現象との間にどんな関係があるのか,などなど詳しい情報が本当はあるのですが,全てを口に出して説明することはできないのです。

出来事の詳細がリンクの先にあるように,授業で伝えられる情報の本質はその言葉で情報を探した先にあります。それは,書籍であり論文であり,研究者たちが積み重ねてきた研究活動です。

情報量の違い

授業で伝わる情報量というのは,そんなものです。

ですから,講義室に座って話を聞いてわかった気になっていても,どこまで本当にわかっているのかについては疑った方が良いのかもしれません。

そして,そこからとりあえずネットで検索したり,本を手に取ったり,論文探したりすると理解が深まります。

研究という大切な活動

大学には様々な機能がありますが,研究活動もその本質的な活動のひとつです。ところが,学部生の段階でそれに触れる機会は多くありません。

講義で見聞きする情報の背後には多くの研究活動があり,今教壇に立っている先生も多くの時間をその活動に費やしているのですが,教室に座って話を聞いているだけでは,その本質的な活動についてあまり知ることがないのです。もちろん卒論などでその一端に触れることはありますが。

ですから,講義で見聞きした見出しからリンクを先に辿ってもらえれば,と思っています。そうすれば,大学という環境をもっと活用できるのではないでしょうか。

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