1960年代に日本の学会で発表されたMBTI
先日,MBTIの発展に貢献した日本人という記事を書きました。
今回は,1960年代に学会で発表された,MBTIの研究の内容を見ていきましょう。
リクルート社
さて,最初は1965年に日本教育心理学会で発表された,『MBTI日本版標準化の試み(その1)』です。筆頭から並ぶ著者たちの所属は日本リクルートセンター,つまり現リクルート社の前身です。そしてリクルートの初代社長,江副浩正氏の名前も書かれています。
江副氏が東京大学在学中に大学新聞広告社を創業したのは1960年,株式会社日本リクルートセンターとなったのは1963年です。1965年といえば,リクルート社が今でいうスタートアップ企業だった頃でしょうか。この頃に,MBTIに注目してアメリカから持ち込み,井上先生,芝先生,橋口先生らとともに研究を進めた様子がうかがえます。
冒頭から,MBTI(Meyers BriggsType Indicator)は1942年にユングの理論にもとづいて開発されたことが書かれています。
MBTIの指標
MBTIは4つの指標を測定します。これらは対立するもので,どちらかをとるとされています。
◎外向ー内向(E-I):知覚や判断の対象を外界に求める(外向)か,内面の世界である観念や概念に注意を向ける(内向)か
◎感覚ー直観(S-N):五感を通して物事に気づく(感覚)か,無意識的に特定の観念を通して知覚する(直観)か
◎思考ー感情(T-F):判断が正しいか否かを論理的に判断する(思考)か,好き嫌いから主観的に判断する(感情)か
◎判断ー知覚(J-P):環境に自分から働きかけていく(判断)か,自分を環境に適応させていく(知覚)か
これらを組みさせて,ESTJとかINFPとか,記号で16種類に人々を分類するというのが,MBTIの判定です。
そして,MBTIの質問項目というのは,2つの選択肢からいずれかを選ぶことで回答が求められます。たとえば外向性の場合……
また,2つの言葉のうちより強くアピールする言葉を選ぶ形式の質問項目もあります。たとえば……
(1)のような質問項目が51項目,(2)のような質問項目が44項目,合計95項目でMBTIは構成されています。
さて,1965年の学会発表では,4つの指標の得点分布や,それぞれについて因子分析を行って1因子となるかどうかが検討されています。さすがに,4因子構造になるかどうかは検討されていないようです(試みても難しいのではないかという予感もしますが……)。
ちなみに,リクルート式知的能力検査という,言語・非言語両面の知的能力を測定する検査とMBTIとの関連を検討したところ,−0.321という相関係数だったそうです。MBTIで外向的な人よりも内向的な人のほうが,この検査で測定された知的能力が高いと判定されています。
また,得点分布も報告されています。MBTIは外向か内向か,感覚か直観かと2つのタイプに類型化していくので,得点分布は「外向」「内向」と明確に分かれることが期待されるのですが,得点分布は2つの山があるようにはなっていません。平坦ですが中央付近が多い,正規分布のような形です。この点はMBTIが昔から批判されるポイントのひとつですね。
妥当性の研究
さて次は,翌年の1966年に教育心理学会で発表された,『MBTI日本版の妥当性の研究』です。サブタイトルがつけられていまして, 1 自己評価との関係,2 友人による評価との関係,3 職務との関係という3つの観点から検討されています。
自己評価との関連では,「社交的ー引っ込み思案」「感情的ー理性的」「現実的ー空想的」「柔軟なー着実な」など,12項目の左右の対になった質問項目で自分自身の評価を尋ねています。そして,外向ー内向,感覚ー直観,思考ー感情,判断ー知覚の4つに対応する質問項目との相関が検討されています。相関はありますが,まあ同じような内容ですので関連はあって当たり前かと。
また,自分自身で各タイプの説明を呼んで「自分はこのタイプではないか」と回答した判断と,MBTIによる類型化との対応も検討されています。クロス集計表をみると,統計的に有意な関連は報告されていますし,ある程度の一致はみられるようです。
友人による「社交的ー引っ込み思案」など12項目の評定と自己評定によるMBTIの結果との関連も検討されています。外向性ー内向性についてはある程度の関連がみられるようですが,他についてはあまり明確な関連はなさそうです。
そして,銀行員や工場に勤めている人,広告代理店のコピーライター,商社員,電気通信関係の技術者にMBTIを実施して,どのタイプが多いのかを検討しています。銀行員はESTJタイプ,工場作業員はS-NのS,コピーライターはENTPやENFP,商社員は不明瞭,電気通信技術者はS-NのNやT-FのTが典型的であることなどが報告されています。
最後に
1960年代に学会で発表されたMBTIの研究を見てきました。やはり,企業が絡むとなかなか得ることができないデータを用いて検討することができますよね。1960年代という当時の研究の世界では,これらのデータは貴重なものだっただろうと想像されます。
さて,こういった研究の蓄積についてどうこう言う以前に,ネットで無料で行うことができるMBTIに類似したテストは,そもそもMBTIではありませんし,テストとしての妥当性も類型化の基準も明確ではなく,テストの結果に一喜一憂すること自体(たとえそれが遊びであったとしても),どうかと思うという点は付け加えておきたいと思います。
そして,ちゃんとしたテストをつくるというのはそれなりにコストがかり,技術が必要なわけで,じゃあどうして無料で判定できるのかという点についても考えてもらうといいのではないかと思います(ネットの場合には広告収入という場合もあるでしょうし,詳しい判定は有料です,というのもよくあるパターンです。個人情報の売買もありえるでしょうか)。
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