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ゴールドウォーター・ルール

『ゴールドウォーター・ルール』という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

この言葉は,アメリカ精神医学会が定める倫理規定(の一部)の俗称で,精神科医が直接診断していない公的な人物に対して,その人物の精神的な状態に対して論じることを戒める内容になっています。

ゴールドウォーターという名称は,1964年に共和党からアメリカ大統領選挙に出馬した,バリー・ゴールドウォーターの名前から来ています。

トランプ元大統領の場合

近年も,このルールが話題にのぼったことがありました。アメリカ大統領選挙が行われる中で,トランプ大統領に対するさまざまな心理的な問題点が専門家たちから指摘され,記事になってきたからです。

そして以前,日本パーソナリティ心理学会や日本発達心理学会の大会で講演をしてくれたMcAdams先生も,この中に入っているのですよね。

そしてつい先日、アメリカ精神医学会は「ゴールドウォーター・ルールに今も準拠する」と発表したんです。なぜわざわざ改めて声明を出したかと言うと、アメリカでのトランプ大統領報道がますます加熱する中、精神医学者たちが大手新聞などにトランプ大統領の精神状態についての発言を繰り返しているからです。
ノースウェスタン大学の精神医学教授Dan P. McAdamsさんは去年、The Atlanticでトランプの言動を分析する長文エッセイを書いています。また、ハーバード大学医学大学院のLance Dodes元臨床学助教授を代表とする35人の精神医学者は「トランプ氏の言動に示されている甚大な感情の不安定さを鑑みると、彼は安全に大統領を務めることが出来ないと我々は考えます」という共同声明をThe NewYork Timesに寄せています。

「なりすまし」の一節

先日読んだ本『なりすまし』の中でも,このゴールドウォーター・ルールのことが書かれた一節がありました。このルールの経緯もよくわかる一節です。

人間を対象にしている学問では,何がその人の特徴と言えるのか,何を判断することができるのか,何を言うことができるのか,といった問題については敏感になっておいたほうがよいのではないでしょうか。これは心理学でも,もちろん同じですね。

 精神疾患の病歴のせいで排除された最も有名な人物は,共和党の大統領候補になったバリー・ゴールドウォーターだろう。1964年の『ファクト』誌の「1189人の精神科医が,ゴールドウォーターの精神状態は大統領にふさわしくないと訴える!」と題した記事で,精神科医たちは彼を(直接診断もしていないのに)「危険な狂人」と呼び,大統領の執務にふさわしくないとしたのだ。アメリカ精神医学会(APA)はこの記事があたえた悪影響(と『ファクト』誌を名誉毀損で訴えたゴールドウォーターの勝訴)を憂慮し,1973年に「ゴールドウォーター・ルール」を定めた。これは,直接診察していない公人に対し安易に診断をくだすことを精神科医に禁じる倫理規定で,批判があるとはいえ今も有効である。心臓病専門医は,テレビでしか見たことがない人を診断したりしない。精神科医も同じ原則にのっとるべきだ,というのが彼らの意見だ。これは暗に,精神医学もほかの医学分野と同等の基準を持つべきだと訴えているのであり,自己弁護していることがありありとわかる。「精神科医も医師である。糖尿病や心臓病の診断に負けず劣らず,さまざまな角度からもれなく診察して診断をくだしている」とAPAは書いている。(p.88)

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