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ジングルとジャングルができあがるまで

Jingle-Jangle Fallaciesという言葉があります。日本語にするのはとても難しいのですが……「ごちゃ混ぜの誤謬」とか「ジングルジャングルの誤り」とか。


ジングル・ジャングル

このJingle-Jangle Fallaciesは,英語版のWikipediaにも項目が掲載されています。

短い記事なのですが,次のように書かれています。

ジングル・ジャングルの誤謬とは,ふたつの異なるものが同じであるという誤った仮定(ジングルの誤謬)と,ふたつの同一あるいはほぼ同一のものが異なる名前をつけられているために異なるものであるという誤った仮定(ジャングルの誤謬)を指す。研究において,ジャングルの誤謬は,異なる名前の二つの測定値(テストや尺度による)が,異なる構成概念を測定しているという推論を指す。一方で,ジングルの誤謬は,同じ名前で呼ばれる二つの尺度が同じ構成概念を測定するという仮定に基づく。

ジャングルの方は本来同じものであるのに異なる名前がつけられてしまっていること,ジングルの方は本来異なるものであるのに同じ名前がつけられてしまっていることをを指します。

心理測定で起こること

本来同じものであるのに異なる名前をつけられてしまうジャングル誤謬の例には何があるでしょうか。たとえば,レジリエンスの尺度の中には,楽観性や将来の時間的展望やグリットのような要素が含まれている可能性があります(似たような質問項目が入っていることがあって)。そういう場合,レジリエンス尺度に含まれていれば「レジリエンスの一部」となって,別の尺度に含まれていると「楽観性」と呼ばれるということが出てきてしまいそうです。

また,本来異なるものであるにもかかわらず同じ名前がついてしまうジングル誤謬の例には何があるでしょうか。たとえば,たとえば,同じ「幸福感」と名前がついていても,「あなたは幸福ですか」といった質問項目で測定するものもあれば,収入や社会的地位など社会経済的な指標を組み合わせて得点化したものもあります。どちらも「幸福感」と名前がつけられているものの,その内容や測定しているものはずいぶんと違いそうです。

初出はどこ?

このJingle-Jangle Fallaciesという言葉が最初に出てくるのは,どの文献なのでしょうか。Wikipediaにも引用されているのですが,そおそらくこの文献ではないかと思うのですがどうでしょうか。

著者はアメリカの心理学者で統計学者でもあるTruman Lee Kelley (1884–1961)で,1927年に出版された本です。

Kelley, T.L. (1927). Interpretation of Educational Measurements. Yonkers-on-Hudson, N.Y.: World Book Company.

この本の中では,どんなふうにJingle-Jangle Fallaciesが触れられているのでしょうか。

学力テストと知能テスト

この本の中の該当部分で行われているのは,「学力試験(達成度を測定するテスト)と,知能テスト(事前準備を必要としない知的能力を測定するテスト)との違いは何か」という議論です。

学力試験には試験範囲があって,その試験範囲の勉強を行うことで,どこまで勉強して知識が身についたかという「到達度」が測定されます。その一方で知能テストには試験範囲はなく,事前準備もなしで受験することが望ましいとされます。

しかしながら,学力テストと知能テストとの間には,正の関連もあります。そもそも知能テストは小学校に入学する前に,入学後の学業成績を予測するために開発されたものなのですから(学校の授業についていけない子どもを見出すためにフランスで作られた),両者に関連があるのが当然です(関連があることが,知能テストの妥当性を示すことにもなります)。

どの程度知能なのか

というわけで,この両テストの関係を考える際には,「学力テストのうちどの程度が知能の要素になるのか」ということを考える必要があります。たとえば,読解力を測定するテストAで測定された能力の○パーセントが,知能テストBで測定された能力と同じものであり,数学のテストCで測定された能力の△パーセントが,知能テストDで測定された能力と同じのだ,といったことが示される必要があると言うことです。

ジングルの誤謬

この本の中で,ソーンダイク(Thorndike)の本が引用されています。そしてソーンダイクの本の中で,Professor Aikins(アイキンス教授)が「jingle fallacy」と呼んだ,という一節が出てきます(下記書籍のp.14)。

Thorndike, E. L. (1904). Library of psychology and scientific methods.Theory of mental and social measurements. The Science Press.

具体的な例としては,「大学生」という言葉が挙げられています。大学生という言葉のなかには,男性と女性もいますし,働いている人もそうではない人もいますし,日本人と外国人留学生も,上級生も下級生も含まれています。さまざまな属性をもつ人がいるにもかかわらず,同じ「大学生」ということばを使うことで,「同じもの」とみなされてしまうということのようです。

ここまで書いて思い浮かんだ別の例としては,同じ「偏差値」ということばを使っていても,中学受験と高校受験と大学受験の偏差値は「まったく意味が異なるもの」です。受験生となる集団が違いますので,同じ「偏差値50」という数値の意味が変わってきてしまうからです。本質的に互いに比較できない数値なのですが,同じ「偏差値」ということばを使っているので,あたかも同じで互いに比較できるかのように思えてしまいます。これもjingle fallacyと言えるのではないでしょうか。

アイキンス教授?

しかし,ソーンダイクの本の中に出てくるアイキンス教授が誰なのかはわかりませんでしたが……もしかしたら,同じ頃に活躍していたアメリカの心理学者Herbert Austin Aikinsでしょうか。

ジャングルの誤謬

そして,Kelleyの本の中で「jangle fallacy」が追加の形で提案されます。「学力」と「知能」は,以外と重なっている部分が大きいかもしれないのに,それぞれ違う名前がついてしまっていることから,あたかも本質的に違うものであるかのように扱われてしまう,というのがこのjangle fallacyにあたるということが書かれています。

しかし,両者には多少なりとも違う部分があります。そして,その違いによって別の名前で呼ぶことは,適切なことだとも書かれています。

ここでjingle-jangleという言葉のならびが完成するということですね。

というわけで今回は,Jingle-Jangle Fallaciesという言葉が成立するまでを,少しだけたどってみました。

※ところで見出し画像は「ジャングル」ですが,jangleとjungleとは違いますのであしからず……。

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