1996年から2015年の心理学の研究トレンド
心理学ではどのようなトピックが流行っているのでしょうか。
「最近の心理学のトレンドは何ですか?」と尋ねられることもあるのですが,なかなか答えるのは難しい問題です。心理学の研究範囲はあまりに広く,それぞれの研究者が知っている部分は極めて限られた領域に過ぎないからです。
変化
心理学は歴史的にも,基礎・応用・臨床というおおまかな分野に分かれている学問です。この枠組みは現在でも続いているのですが,その中身はどんどん変化しています。「基礎」と呼ばれていた領域の中でも盛り上がっている研究分野は移動していきますし,「応用」と呼ばれている領域でも,「臨床」と呼ばれている領域でもその中身は流動的です。
そして,心理学はほかの学問からの影響を受けています。近年では,神経化学や脳神経画像の研究手法から影響を受けています。また遺伝学の発展,統計学の発展,より近年ではAIの発展からも影響を受けています。
研究テーマ
こういった変化は,心理学の論文全体を図式化していくと可視化されるのでしょうか。
◎心理学で最も一般的な研究テーマは何でしょうか?
◎過去数十年間,特に神経化学の出現以降,心理学における科学的な表現はどのように変化したのでしょうか?
◎このような変化は,ハイ・インパクトなジャーナルで起きたのでしょうか,それともそれほど権威のないジャーナルからボトムアップで生じたのでしょうか?
マッピング
今回紹介する研究では,心理学の中で用いられる科学的な表現を全体的にマッピングすることを試みています。このような試みはこれまでもおこなわれています。2019年の研究では,心理学の新たなパラダイムとして出現したキーワードに「学習」「知覚」「記憶」「運動」「パーソナリティ」「パフォーマンス」「プログラム」「統合失調症」などがあり,これらは長期間にわたって用いられる傾向があることを示しています。
2020年のとある研究では,次のようなフレーズが書かれているそうです。「現在,心理学と呼ばれてるものの多くは,生物学の一部となってしまうかもしれない。残りの部分は,生物学には容易に還元できない人間の側面の研究に集約されるので,人文科学との結びつきが強まるかもしれない」。
とはいえ,私自身がこれまでに心理学と触れてきた中でも,何度も「心理学は〇〇学に取って代わるかもしれない」と言われたものです。しかしその度に,心理学はむしろその学問の研究方法を取り込んでしまう,ということを繰り返してきたように思います。
科学的言説
では,少し前の研究ではあるのですが,心理学の論文を集めて研究の動向を調べた研究を見ていきましょう。心理学の世界でどのような変化が見られるのでしょうか。では,こちらの論文です(Mapping the field of psychology: Trends in research topics 1995–2015)。
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