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気付きに気付く、方法。

さよなら、直線思考。

お話を聞いたのです。グラフィックデザイナーの三木健さんに。
デザイン事務所を主宰しながら大阪芸術大学教授も務められる三木さんと言えば、APPLE。もちろんジョブスじゃありません。りんごをモチーフにデザインを学ぶ方法の可能性がこれでもかと繰り出される様は爽快で感動なのですが、しょっぱなからその話はしませんと。僕の構想の仕方について話しますと。早速引き込まれます。まず、ブランディングは絆づくりという言葉から。そして、心・顔・体の3つが大切とのたまいます。Mind Identity(理念の声)、Visual Identity(理念の顔付き)、Behavior Identity(理念の行動)をデザインしていくことだ、と。そこで重要となるのが、対話。クライアントのオリエンで答えを見出すようにしていると言われる三木さんは、おしゃべり好き。でも、もちろん意図があります。雑談や余談が大事なんだ、と。そこに発想のヒントがあり、そこから仮説を立てて、妄想的に物語を生み出す。コンセプトはそうやって作っていく、と。効率化や生産性向上という社会の隅々にまで浸透する直線的なビジネスワードに惑わされてはいけないなと自らを顧みます。


セレンディピティは、能力。

だからこそ重要と言われるのが、道草や寄り道や遊び心。なぜかを明確に定義してくれるのが気持ちいいです。……なぜなら、偶然の幸運に出会う能力=セレンディピティを高めることができるから。目からウロコだったのが、偶然を必然へと変えていくデザインがあるんだということ。三木健デザイン事務所には、こんなルールがあります。「書籍の並びを、整理してはならない」。デザインは整理に始まると信じて疑わなかったし、徹底的に整理され尽くされたデザイン事務所しか知らなかった自分には驚きです。それに、セレンディピティを能力と定義することもできるんだ、だとすれば鍛えることもできるんだと、目からウロコの新たな気付きです。そんな三木さんが、気付きに気付くデザインの発想法として話を重ねてくれます。それは、話すデザインであり、聞くデザイン。対話のなかで自分が気付かなかったことに気付き、思いもよらない情報が繋がり発想がジャンプする、これを“良き隣人の法則”として教えてくれました。納得です。そもそも人間の脳はインプットがあるからこそアウトプットが生まれる。いい出力のための、いい入力。そこに偶然性をどう必然的に取り込むか。非常に興味深く、楽しい話です。


自分の言葉で、世界を捉える。

さらに、三木デザイン事務所ではブランディングを推進し、構想を深めるためのキードライバーを八則として掲げます。“meからweへ。最小の表現で最大の効果を。ユーモアは魔法の薬。語れるものづくり。着眼大局・着手小局。不易流行。わかりやすさの設計。喜びをリレーする。”コミュニケーションの妙諦であり核心となる方法論が端的に語られています。三木さんの思考すべてを通じて素晴らしいと思うのが、デザイナーでありながら、考え続けたもの・ことをできるだけ自分の言葉で言語化しようと努力されていること。そして、そのエンジンとして軽快に吹け上がる“あったらいいな”を実現しようとする姿勢。そのために、知覚の可能性をあらゆる角度から柔軟に用いて、理解し、観察し、想像し、分析し、編集し、可視化する。理知的なアプローチの土台に、関西人のいたずらっ気のあるサービス精神が見え隠れして、三木さんのアウトプットは楽しさに溢れています。デザインを通じて、考え、つくり、伝え、学ぶ。そんな彼の後ろ姿で最も輝いているのは、構想と造形の間を軽やかに行き来するフットワークかもしれません。


武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論/第11回/三木健さんの講義を聞いて 2021/9/20

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