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アートという名のラブレター。

通信社から目指したアート。

お話を聞いたのです。キュレーターの鈴木潤子さんに。
時事通信社に10年勤められたところから始まるキャリアが面白いです。マスコミでの仕事を重ねていく中で、取材するよりもされる方としてコンテンツを作りたいという想いが芽生えた鈴木さん。アートが社会のインフラとなる力を持ち得ると感じ、ミュージアムで働きたいと人生の舵を切ります。日本科学未来館や森美術館に活躍の場を移し、展覧会やイベントのキュレーション、運営、広報業務に従事してキャリアを積み、2011年には独立。あいちトリエンナーレのPRオフィサーや2020年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会の広報アドバイザーを務めるとともに、ATELIER MUJIのシニアキュレーターとして数多のプロジェクトを具現化していきます。もともと美大で美術教育を受けていた、といった素地を持たれているわけでないのに、この人生の切り拓き方、フロンティアスピリットが素敵。僕はメディアで働いているのでこう共感しました、彼女は社会の人々に伝えるべき価値として株価や事件でなくアートを見出したのだ、と。


未来を描き出す、熱。

そんな鈴木さんが現在全力で取り組んでいるのが、「なおえつ うみまちアート」というアートプロジェクト。新潟の直江津エリアで、100年後を考えるための市民の活動として、アートを地域に実装しようとしています。街の人々の活気をアートで取り戻し、シビックプライドを持てる地域へ。“未来への交感”をビジョンとして旗印に掲げ、各々独自の視点とクリエイティビティを持った個性的なアーティストたちを招聘しながらも、アートは非日常だからこそ実装には600項目もある見積りと格闘したりと非日常な苦難だらけ。ご自身のキュレーター史上最難と話されながらも目をキラキラと輝かせる鈴木さんはこう言うのです、「目が覚めたままみんなで見る夢は夢じゃなく、未来だ」と。いい言葉だなあ。プロジェクトを前進させる人は巻き込み力と乗り越え力が必ずと言っていいほど卓越していますが、その根幹のマインドセットは好きなことをやっているという一語に尽きると感じます。一見気楽にも聞こえる話かもしれませんが、改めて根源的に大事なことだと思えてなりません。好きの熱が人々の心のドアを太陽のように開き、苦境や困難に直面する自分を大地のように支えます。むしろその熱がなければ、プロジェクトに火が灯ることはないと言えるかもしれません。


寄り道と道草を愛して。

では、彼女は何を好きなのか。鈴木さんは“ものが生まれる渚が楽しい”、とのたまいます。渚は、彼岸でもあり此岸でもある。そんなクリエイティブな波打ち際に自らを置くべく現場へと足繫く通う彼女はバウンダリーオブジェクトそのもの。今夏の上記うみまちアート期間中は会場傍の海辺に住むつもりだと教えてくれました。お子さんには「お母さんはあんまり儲からないマグロ漁船に乗っちゃったと思って!」と話してるそうで、この現場力たるや!裏切られることすら楽しみと朗らかに笑われる無敵のポジティビティに感銘を受けまくったのですが、ふと真摯な眼差しで言われるのです、「アートって誰かの一瞬や一生を変えることができるかもしれなくて、キュレーターにはアーティストを焚き付けた責任がある」、と。アートの力を心から信じてその誰かへと届けたいと熱く想うからこそ、うまくいかないことだらけの現場に折れることなく、情熱と責任感を抱いてアーティストに伴走し続ける鈴木さん。“寄り道と道草に無駄なし”とメッセージングされた彼女の道は、アートを触媒に人々をインスパイアする未来へと楽しげに確実に繋がっている気がしてならないのです。


武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダーシップコース クリエイティブリーダーシップ特論/第4回/鈴木潤子さんの講義を聞いて 2021/5/3

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