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車と騎馬民族

※青い車で海へ行こう♪なお写真お借りしました。


我が家の車の調子が悪い。


それは10年乗っているMAZDAのミニバン。
愛らしい笑顔に見えるフロントとミニバンながらスッキリとした車高低めのシルエットが気に入っている。
(ちなみに若い頃はグリーンのデミオに乗っていた。アマガエルのように美しいグリーン。)

ことの発端は土曜日の午前中。
家族で買い物に出た帰り道。
坂道でアクセルを踏んでもギアが空転して進まなくなった。
幸い大きな道ではなかったので一旦ハザードランプを点けて止まり、ギアを入れ直したらなんとか進んでくれたが。

どうやらエンジンの調子が良くないという黄色い警告ランプが点灯しているらしい。

夫曰く、これが赤く光ったらさらに良くない状態だそうだ。

ちょうど連休明けに車検の予約を入れているので、見てもらえるのはちょうど良いタイミングねと言いつつも、直近で困るのは夫実家への帰省だ。

「車使うのは不安やな。かと言って電車で行くのは子供連れては無理ゲーやし。」

「私の実家で車借りるしかないか。
まあそういう時は頼れるように関係を築いてるわけやし。丁重にお礼したら大丈夫っしょ。」

「うーん、まあ、それがよさそうやな。」

したたかというか、頼れるところは頼る。
そのために親を助けるところは助ける。贈る物は贈る。
日頃の挨拶と根回しと気さくな笑顔を忘れない。
お互いに「長子ではない」我々夫婦の処世術みたいなものを共有できている感じはなんとも心強い。
それでも、頼み込んで母か父の愛車を借りに行くのは気が進まないが。

「もし、廃車になったらどうしよう。買い替える余裕、ある?」

「あるわけない」

「あと10年、せめて5年はもってほしいね。でも私、今後ミニバンが要るのかって思うんよね。」

「え?」

「子ども3人フルで乗せるのってほとんどないし。DIYの木材とか運びたい時は軽トラ借りればいいやん。」

「まあ、たしかにな。」

「ミニバンにこだわらず、次はコンパクトかセダンでもいいかな。」

「セダン?」

父のかつての愛車、トヨタのマークⅡを思い出す。
それは年式の増した白黒の美しい中古車だった。
重厚なドアを開けるとお世辞にも良いとは言えない香りが鼻を満たす。
タバコ、香水、その他わけのわからない積年の香りだ。

それでも、幼稚園の送り迎えの時などに
赤いベルベットの宮殿のようなフカフカの後部座席に身を沈めるのが好きだった。
アームレストを倒して座るのも優雅な気分だった。

なぜか父と私とこのマークⅡで敦賀の海へ行ったり、岐阜の山へ行ったりしたことを思い出す。その時、他の姉妹は連れ出すには、大きすぎたり幼すぎたりしたのかもしれない。
行く先で父と買ってくる、ナマコの刺し身や馬刺しなんかを二人で食べるのも好きだった。
「トモコは将来、酒呑みになるでぇ。」
その頃の父の言葉の意味がよく分からなかったけれど、今は分かる。当たってたね、お父さん。

私が小学校低学年くらいの時にマークⅡはいなくなった。
車検が切れるから、これでもう廃車という程度のいきさつだったと思う。
父は最後の夜、彼をピカピカに磨き上げ、酒をかけて感謝の意を示していたらしい。
そんな父とマークⅡの姿を想像するとなんだかいじらしく、切ない。

次にやって来た車は三菱の紺色のデリカ。
クジラのように大きい4WDのワゴン。
父母、姉妹たち、祖父母。
雪の中、3世帯で初詣に行ったっけ。
思春期に入り、父が疎ましく思うのと同じように、その鈍重な大きい図体と新車の香りがついぞ好きになれなかった。

※※※

「これは車離れの今の若者には理解されんかもしれんけどな」

前置きして私は言う。

「車ってのはやっぱカッコいいのにスカして乗ってナンボよ。」
「ピカピカに磨いて、アクセル踏み込みたいんよ。」

(その助手席には変わらずあなたが乗ってくれるといい、なんてコトは言えないけどね。もちろん運転手が逆でもいい。)

「カッコいい車を乗り回すってのは、なんか私の中の騎馬民族の血が騒ぐっていうか。」

「それはバイクのが良いんじゃね。しかしきみは騎馬民族だったのか。」

「倭~フロンティア~を目指して海を渡って来た渡来人の末裔だよ。愛馬も載せて、ね。」

「船に馬を載せて、海を渡ってきたってこと?」

「そう。大変だったよ。」
「しかしまあ、ずいぶん馬の扱いが下手な騎馬民族だったかもね。」

お世辞にも運転が上手くはない私は続ける。
「我が家の新しい愛馬はスカして乗れるタイプもいいかもよ?」

「残念ながら我々にはブケファラス※を用意できる財力はないんでね。」

「そりゃ、そうだ(笑)」

かつて海を渡ってこの国に来た騎馬民族たちのことを想う。
そして、私の「カッコいい車」の原点は父のマークⅡだったのかなと思う。
今となっては父とは付かず離れず、母のおまけみたいな存在だけど、あのマークⅡに乗る父の背中はカッコよかった。

とりあえず、
我が家のMAZDAが長生きしてくれることを願う。



そんな、免許更新してきた月曜日の創作。これでもゴールド免許なんですよっと。

※ブケファラス
→アレクサンドロス大王の伝説の名馬

みなさまは(色々な制約がなければ)どんな車やバイクやお馬に乗りたいですか。
誰を乗せてどこへ行きたいですか。
騎馬民族の血は騒ぎますか。

どうぞ、安全運転を。


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