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ライブハウスのつくりかた | ATQの「つくりかた」vol.1

こんにちは。ATELIER-Q(以下ATQ)です。
今回から、私たちが手掛けたプロジェクトの裏側に迫り、そこでの思いや姿勢を紐解く 『ATQの「つくりかた」』を始めていきます。

第1弾は、下北沢ライブハウス&アコースティクバー『近道 / おてまえ』の空間デザインを巡る『ライブハウスの「つくりかた」』
ライブハウスオーナーのツネ・モリサワさんを迎え、弊社デザイナー岩谷との対談形式でお送りします。

ライブハウス&アコースティクバー『近道 / おてまえ』
・2023.01.28にライブハウス『下北沢garage』跡地にてオープン。
・音楽シーンで活躍する若手アーティストが数多く出演。
・B1がライブハウス『近道』、1Fがアコースティックバー『おてまえ』

ツネ・モリサワ

・株式会社近松代表:ライブハウス『近松』ダイニングバー『近近』を経営
・バンド「theラブ人間」キーボード

ライブハウス立ち上げまでの経緯


⸺ ライブハウス立ち上げのきっかけはなんですか?


ツネ・モリサワ(以下ツネ):きっかけは、去年の夏にこの物件が空いて実際見に行った時に「すげえいいな」って感じたことですね。
立地が良いこと、建物自体の雰囲気が気にいったこと、元々歴史あるライブハウスが無くなってその跡地で何か新たに始めるっていうこと、自分の中で全ての要素とタイミングがちょうど噛み合ったことがきっかけの1つですかね。

岩谷:はじめから新しいライブハウスを立ち上げようと思っていた訳ではないんですね。既にライブハウスを経営している中で、新しい店舗を展開したいという気持ちはあったんですか?

ツネ:展開したいと考えてたわけじゃないけど、ほら、ライブハウスって音とかうるさいじゃん。だからライブハウス運営の許可を出してくれる物件が全然ないんだよね。そんな中で今回の物件が空いたから、タイミング的にやるかってなったね。

左:オーナー/ツネ・モリサワ 右:デザイナー/岩谷


⸺ ATQに依頼の経緯したはありますか?


ツネ:自分がやってるバンドに「谷崎」ってメンバーがいるんだけど、彼を経由して依頼したね。
彼に今回の件を相談したら、自分が所属する会社(itoq)で受けさせてくださいみたいな感じになって、デザインが得意で面白い子がいるからって岩谷を紹介してもらったよね。

岩谷:もともとATQを知ってた訳ではなく、バンドメンバーに相談してみたら偶然繋がったって感じですかね。

ツネ:そうだね。本当に偶然だね。


ATQのデザインプロセス


⸺ ライブハウスの制作過程について聞かせてください


岩谷:今回は 本当にまっさらなところから現場に入って、どういう風なライブハウスにしていきたいかっていう希望や要望・展開なんかを掘り起こしてみようよというスタートでした。

ツネ:うん、全くのゼロからだったよね。

岩谷:一番最初にツネさんと「どんなライブハウスにしていきたいか」「これまでどんな風にライブハウスを経営してきたか」みたいなヒアリングから入っていって、アイデアを出しつつ、現場を見てこの空間でやれそうなことってこうだよねとかどんどん具体的に絞っていったっていう感じですね。

個人的にはヒアリングの段階が最重要だと思って取り組んでいます。どこまでクライアントの想いや意志を引き出すことができるかで、この先の制作や思考の幅が大きく変わってきてしまうのかなと思ってますね作るだけなことに意味をあまり感じていなくて、できるだけ価値のあるものづくりのために、目線を合わせて寄り添うことを重点的に意識していますね。

ツネ:そうだね。想いやコンセプトがあって、そのコンセプトの中をどう表現していくかみたいなことをすごく話し合ったかなって感じがする。

岩谷:間取りがある程度決まってからは、最初は図面引いてみたり、CADで内観パースやイメージを作って共有して、希望を聞きながら少しずつ形にしていきました。
その後 建築業者さんに依頼してから施工の詳細が具体的に進行して、最後みんなで細かな内装の仕上げしてという流れでしたね。

岩谷:ATQとしてはやっぱりコンセプトの深掘りや設計段階をしっかりと丁寧に思考していきたいという気持ちが強くあって、普段はWebとかデジタル領域がメインなんですけど、空間でもやっぱり同じ気持ちだなと思いながら進めていました。

コンセプトや設計が上手くできてないと、なんとなく作ったものになってしまうし、極端に言ってしまうと作る意味がないものになってしまうと思うんです。

だからクライアントにとって本当に価値あるものが何かを自分の目線で考えて形に落とし込んで 真意の深いところまで落とし込めるように強く意識してやっています

制作用資料(左上:コンセプトシート/右上:内装イメージ/左下:建築図面/右下:内装パース)


ツネ:
そうね。自分と谷崎との関係もあったからかもしれないけど、仰々しくないっていうか、フラットにみんなで作ってったって感じはすごくしたかな。

岩谷:そうですよね。初期の頃から関係者みんながフラットに、本音でこれやりたいって互いに言い合えるような雰囲気でしたよね。

ツネ:今回みんなに言われるのが「めちゃくちゃいいっすね」「良い意味でツネさんぽくないですよね」って。
「こんなにおしゃれにできてすごいです」って言われるんだけど、今回はデザイナーが入ったんでって毎回言ってますね(笑)

これまでのライブハウスはそういうところまで考えてなかったから、自分たちだけでイメージして作って作り上げるみたいな感じだったけど、今回その辺に手をかけてもらって良かったなって思ってます。


⸺ どんなライブハウスを目指したのですか?


ツネ:大事にしていきたいこととしては、どの業界もそうなんすけど、やっぱり今の音楽業界ってすごく移り変わりがとにかく早いなって思ってて。どんどん何か新しいものを、新しいものを、ってみんなキャッチしていく時代の中で本当にいいものってもっとあるよってのを伝えていくこと。
TikTokとかInstagramとかで流行ってるものが現実離れしすぎてるような感覚があって、もっとリアルがたくさんあるし古いものって言い方も変だけど、本当にいいものをちゃんと自分たちの心でキャッチできるような空間を作っていきたいなっていう想いがあるかな。

岩谷:そこは初期からずっと変わってないですね。最初にお話いただいたときから、やっぱりいいものをよく伝えていきたい、そんな場を作っていきたいということを強く持ってますよね。

ツネ:そうだね。時代に流されない価値みたいなところに携わっていきたいよねっていう。それを作っていくのはこれからで、そういう場所にみんなでしていきたいよね。

岩谷:この場所が元々有名なライブハウスの跡地っていいうこともあるんですけど、歴史あった場所に新しく空間を作らせてもらって、そんな中でオープンした日にこの場所に人が集まってることがすごく嬉しすぎて、もうずっと感動してました。

またここで歴史が生まれて、文化ができていくと良いですよね。


⸺ 出来上がってみて思うことなどありますか?


ツネ:まだ今からやらなきゃいけないことも色々あるんだけど、とりあえずできたなっていうのはすごく実感してます。規模も広さも今までで一番大変だったんで。だからこそ、これからだなっていうのはさらに思ったというか、これからどんどん努力していこうみたいなのはすごく感じてる。

実際やってみてもっとこうしたいとか、ここはこうするべきだったなみたいなってのはあるけど、とりあえずなんかすごくいいものができたなっていう感想です。

岩谷:そう思ってもらえて良かったです。僕もツネさんの中の想いや理想みたいな部分は形になったんじゃないのかなって素直に思えます。

まだまだ空間の外側ができた段階で、内側のまだ足りないよねって思う部分だったり、もっとこうした方がいいよねって部分を満たしたり、良い文化を良く伝えていくために何ができるんだろうかっていう積み重ねはどんどんやっていきたいですよね。

ツネ:そうだね。ここからが本番だね。


コンセプトと内装


⸺ ライブハウスのコンセプトを教えてください


岩谷:もともと『近道』と『おてまえ』の2フロアやろうって話になったときに、
近道は「厳かな雰囲気で、人と音楽が向き合える空間
おてまえは「華やかな雰囲気で、人と人の繋がりを感じる空間
にしたいと話をしていました。

岩谷:今はコロナ禍もあって人と人の関係が希薄になってるような、どこかちょっと寂しいような気持ちを感じるシーンが多くなったように思うんです。

なので、そんなことなく「居るだけで安心できる」とか、「人の温度感を感じるような場所」を作っていきたいって気持ちと、逆に音楽と独りで向き合うようなライブハウスらしい場所もあったらっていう気持ちあって、この2軸がコンセプトの根幹になってます。

音楽と向き合うお客さんたち


⸺ ライブハウスについてこだわりなどお聞きしたいです


ツネ:ライブハウスではあるけど、ライブハウスっぽくないものを作りたいっていう想いもあって、いわゆる黒のカーテンに照明バチバチみたいなものじゃなくて、やっぱり写真に撮ったときとか、動画配信したときとか、ここって実際どんな場所なんだろうって気になるような場所を作りたいなっていうのがあったね。それこそ下北沢たくさんライブハウスがあるんで、同じようなものを作ってもつまらないし。

ツネ:ステージに演者が立って演奏する姿はかっこいいけど、それ以上にこのステージだから立ちたいよね、映えるよねっていう場所にしたいなって…
そういう気持ちでステージは作り込んでもらったかな。

あと動画配信を今後していきたいんだけど、やっぱりどうしても動画じゃ伝わりづらいその場の雰囲気とか空気みたいなのをステージの装飾とか佇まいで「この場らしさ」を作れたんじゃないかと思います。

地下1F:ライブステージ


岩谷:
これも一番最初から依頼されてた部分ですね。「普通のライブハウスっぽくないライブハウスにしていきたい。」「あんまりコテコテのステージにしたくない。」っていう気持ちを聞いていました。
今回この要望を叶えることが僕の一番の課題だったのかなと思ってます。

実際、出来上がった結果、一見普通のライブハウスっぽくはないけど見栄えがあって ステージに立つ演者も引き立てて、さらに今後の展開があるっていう要望を果たせたんじゃないのかと感じてます。

岩谷:地下のステージはライブハウスっぽくないところもですし、演出や内装自体もちょっと控えめというか、よく言うと静寂、悪くいうと質素な見せ方をしていて、派手に周りを彩るとか着飾るんじゃなくて、自分と音楽と演者さんの関係が上手いこと、その場で一体感を感じれる空気感を目指してやっていけたかなと思います。

ツネ:間違いない。その通りです。

幻想的なステージ照明



⸺ バーカウンターについてこだわりなどお聞きしたいです


1F:バーカウンター

ツネ:やっぱこの天板が良いですよね。建築業者さんに「木材を使ってバーカウンターを作りたい」と話をして、うちのもう一つのライブハウス(近松)とダイニングバー(近近)に来てもらったんですよ。
その時にそのバーの方も、ライブハウスの方もこういう木製のカウンターで作ってんすよみたいなのを見せたら、そっからスイッチが入って「こういうことをやりたいんだね」「なるほどみ」たいな空気になったんだよね。

その後で職人さんチームからたまたま、すげえいい木材が手に入ったっていう連絡が来てこの天板に決まったんだよね。一枚板でこの大きさ、状態のものはなかなか無いよね。やっぱりこいつが主役。

あとは、照明と後ろの棚。ちゃんと魅せれるバーカウンターにしたいなってこの3つはすごいこだわったよね。

天然木のカウンター天板


岩谷:
さっきのコンセプト話もにも繋がるんですけど、地下のライブハウスが有機的な要素を削った無骨なところを目指しているのに対して、1階のバーカウンターも基本的な作りは変わらないものの、カウンター天板だったり、アンティークの棚だったりとか、主役になるキャラクターたちは生命力に溢れているようなものにしています。

この中にずっしり構えた金属製のキッチンとか、ガラス質の照明だったりが共存しているのがとても良くて、互いに引き立ってあって全体がエリアの顔になっていると思ってます。

温かみを感じるアンティークの食器棚


岩谷:
当初の計画だとバーカウンターのデザインは全然違う予定だったんだけど、この天板が良すぎてデザインの方針を大きく変えたんですよね。
コンセプトはそのまま、もっと木材の装飾多めで、シンプルだけどちょっと着飾った見た目の方が似合うんじゃないかなと最初は思ってました。けど、あまりにもこの天板が良すぎて、余計なディテールはむしろ純度が下がると思い、最後はこの天板一本でいきましょうって判断しました。

初期案のバーカウンター


ライブハウスの今後について


⸺ 『近道』のこれからをお聞かせください


ツネ:やっぱり、若い音楽だけじゃなくて中堅のバンドだったりとか、ちょっと大きめのバンドも活躍できるような場所にしつつ、そこに若い子たちが一緒に交じわえるような場所を作っていきたい。
こっちのアコースティックステージでは、トークとか、ラジオみたいなことだったりとか、そういうことをやっていきたいなっていう想いがあるかな。

ツネ:というのもコロナ禍を経て、いろいろ大変だったじゃんどの業界も。特に音楽ってやっぱ教育がないなってすごく感じちゃってさ。ライブハウスってみんなどんなものかってあんまり分からないまま、コロナのたまり場だ!悪い場所だ!みたいな感じになっちゃってた。

ライブハウスって、実際はこんな場所だよとか、PA(音響)ってこういう仕事があるんだよとか、照明ってこういう仕事だよみたいな、その文化教育って言ったらちょっとおこがましいんだけど、音楽の現場はこうなってますっていう、トークセッションでいろんなゲストを呼んで話していけるような場所にしていきたいなっていうのが想いとしてあります。

白熱するライブ


⸺ 皆さんにお伝えしたいことなどありますか?


ツネ:今回やってみて思ったのは、若い頃から音楽は「目に見えないものを表現する」のが素晴らしいって心を動かされて、音楽に取り憑かれて今でもライブハウスとか自分自身も音楽をやってるんだけど、
今回こういう物を作ったときに、みんなやってくれたこととか、職人さんたちがやってくれたことって人が気付かないことばっかりやってくれてるなって思ったの。

ツネ:別に音楽だけが目に見えないものじゃなくて、みんな普段から気遣いとか、もっとこうしたらいいとか、そういう見えないことをしてくれている。

みんなが当たり前に生活とか、当たり前に食事に行ったりとか、当たり前に買い物行ったりとか、その当たり前をみんな一生懸命作ってるってこと、それも全然目には見えなくて…。

なかなかそれに気づいて心を動かされることってあんまないんだけど、今回それをすごく近くで感じたっていうか。

ツネ:例えばあそこのペンキの色とかさ、角にちょっと黒いインクが付いちゃったとかっていうところは別に気づかないじゃん。でもそういうところでさえもちゃんと綺麗にしたいねとか。誰も気づかないけど、このカウンターがめっちゃすべすべなのは、何回も職人さんたちが削ってくれてて。
なんでか分からないけどすげえ肌触りいいよねとかって思うのって、自分たちは作ったから分かってるけど、多分、来てくれるお客さんとかは、それに気づかないだろうし、でもそういう気付かないことをさりげなくやってる職人さんだったり手伝ってくれたみんなの気持ちでこの場所ができたなっていうのはすごく感じました。

岩谷:みんなに手伝ってもらわなきゃ、誰か一人でも欠けてたら完成してなかったし、みんなの陰でいろんなことに気付けたりとかしましたね。

ツネ:100人くらい手伝いに来てくれたんじゃ無いかな。会社のスタッフはもちろんだけど、バンドの人とか他のライブハウスの人とか、全然違う業界の人とか。本当にありがとうね。


⸺ 最後に


ツネ:もう話したいことは全部話したかな。強いていうならみなさんぜひいつでも遊びに来てください!

(写真:櫻井将士


credit
client:株式会社近道
owner:ツネ・モリサワ (近道)
project manager:谷崎 (itoq)
art director:岩谷 (itoq / ATELIER-Q)
designer:岩谷 (itoq / ATELIER-Q)
construction:NK 空間デザイン

アカウント情報 
ツネ・モリサワ:twitter
ATELIER-Q:twitter
岩谷:twitter


ライブハウス&アコースティクバー『近道 / おてまえ』

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twitterhttps://twitter.com/chikamichi_otem
Instagramhttps://instagram.com/chikamichi_otemae



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編集:ATQ designer 岩谷

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