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航空管制官になるデメリット5選

はじめに

こんにちは。元航空管制官が試験対策講義を作ってみたです。

【自己紹介】
航空管制官歴は6年。訓練監督者経験あり。
スピードコントロールのみでスペーシングするのが得意です。
2次試験 英語面接対策 オンライン講座 & 3次試験レーダーベクター対策講座を完全オンラインで展開中。
独学で航空管制官の採用試験を突破するためのお手伝いをしています。

私は20代のほとんどを管制官として生きてきました。

その中で色々なメリットを享受してきましたが、管制官になることによるデメリットも味わってきました。

酸いも甘いもというやつですね。

メリットだけ書いていてもダメだなと感じたので、しっかりデメリットもお伝えしようと思います。

ちなみにメリットは以下の記事で書いております。

現在航空管制官を目指されている方もnoteを読んでくださっていると思うので、そんな方に向けて記事を書こうと思います。
(いつも読んでくださってありがとうございます。)

これからお話しするデメリットを自分ごととして受け入れられるかどうかを是非一度考えてみてください。

また今回は私が個人的に感じたことを忖度無くそのまま書くので、あくまで一意見として捉えてくれればと思います。

あと記事の構成として、デメリット5選を紹介した後に私なりの考え方やデメリットへの対処法を紹介しようと思います。

航空管制官になるデメリット5選

私が感じたデメリットは以下の通りです。

・給料が低い
・副業ができない
・スキルがつかない
・1人前になるまでに時間がかかる
・ありがとうと言われない

一つ一つ紹介していきます。

①給料が低い


ネットなどの書き込みをみると、よく航空管制官は給料が低いといわれます。

これは私も半分同感です。

アメリカやイギリスやドバイの管制官に比べたら間違いなく低いです。

「欧米の管制官と同じ仕事してるのになんでこんな差があるんや、、、」

勤務中に何度も思ってしんどくなったことは正直あります。

あとは大学同期と久しぶりに会って、キー○ンスや三○商事の稼ぎを聞くと絶望することもありました。

ただこれは比較対象が凄すぎるためにおこる現象です。

隣の芝が青すぎたら誰でもこうなります。

私が半分同感というのはこれが理由です。

航空管制官の給料は日本国全体の中で見ると良い方です。

現に私は20代で1000万円の金融資産を構築することができましたし、これは航空管制官としてのお給料の下支えがなかったら不可能でした。

正確には

「航空管制という高度な頭脳労働をしている割に給料が低い」

が正解です。

「航空管制という高度な頭脳労働をしている割に給料が低い」というだけで決して「絶対的に給料が低い」わけではありません。

航空管制官になると普通より良い生活ができると思っていただいて大丈夫です。

具体的なお給料やボーナスについては保安大時代・訓練生時代・1人前時代に分けて公開しているので有料ではありますが気になる方はご覧ください。

②スキルがつかない

これも辛いデメリットのうちの一つです。

ここでいうスキルというのはハードスキルの方です。

indeedより引用

出典:https://jp.indeed.com/career-advice/resumes-cover-letters/hard-skills-vs-soft-skills

航空管制官になると管制スキルはバリバリ習得するのですが、それ以外のスキルはこれといってつきません。

英語スキルはつくと思いますが、それは個人の頑張りに依存する部分が大きいと思います。

事務室勤務になるとword、excel、powerpointなどのソフトをいじったりはしますが、あくまでその程度で管制スキル以外のものは身につきませんし、そもそも事務室勤務を経験できる人は少数に限られています。

ここで言いたいのは、管制官になった後に管制官以外の道で食べていきたいとふと思った時に、全くスキルがない状態で職探しをしないといけないということです。

管制官を辞めて他の仕事を探すときに面接で

「あなたにはどんなスキルがありますか?」

と聞かれても

「飛行機を安全に誘導する管制スキルがあります!」

ということしかできないはずです。

これだと戦える武器(スキル)がないので採用されることは難しいでしょう。

ということは管制官になった以上、死ぬまで管制官として生計を立てるしかありません。

その事実に管制官採用試験を受ける時点で何人の方が気づいているでしょうか?

そんな遠い将来のことより、管制官のドラマ等で切り取られた一部のキラキラした部分に影響を受けて

「私は空の安全を守る管制官になるんだ!」

と意気込んで必死に勉強しているはずです。
(私は少なくともそうでした。)

管制官になるにはその姿勢で全く問題はないのですが、

「あなたは65歳までずっとこの仕事を続ける自信がありますか?」

という問いに対して一度しっかり考えることが必要だと思います。

これは皆さんの人生設計のために必ず考えてください。

私は当時そこまで深い思考を持ち合わせていなかったので、結局6年続けた航空管制官を自己都合退職することになりました。

③副業ができない


今回紹介するデメリットの中で私が一番厳しいと思うデメリットです。

航空管制官になると身分としては「国土交通技官」という国家公務員になります。

国家公務員ですから、国が定める国家公務員法を遵守する義務が生まれます。

国家公務員法の中に「副業をしてはならない」という条項が含まれているため、航空管制官は何人たりとも副業をしてはいけません。

過去に副業をした方は「減給」「停職」「懲戒免職」などの厳しい罰を受けています。

副業をしてはならないとなると、航空管制官は国からの給料一本で生計を支えることになります。

するとどういう問題が起こるか?

世間は副業時代なのに法律のせいで働き方がアップデートされないんです。

アメリカでは公務員が「side hustle」といって副業をしても良いそうです。

一方日本国の法律はそう簡単に変わりませんし、仮に変えると決まっても時間がかかるのが日本です。

なので国が法律改正するのを期待するのは現実的ではありません。

副業ができないことは単に副業収入を得られないだけでなく、若いうちに色々な仕事を通して成長する機会も失われることになってしまいます。

このように前述の「スキルがつかない」とも繋がりますが、スキルを身につけて副業してお金を稼ぐ経験は航空管制官になるとできません。

あともう一点。

副業収入が得られないというデメリットもありますが、もっと大きなデメリットは管制スキル以外に成長できるようなスキルがつかない、という見えない機会損失なんです。

航空管制官はよく職人に例えられますが、まさにその通りで職人はピボットしたい時に身動きがとりづらい点がデメリットだったりします。

「航空管制」という切れ味が鋭い1本の刀を毎日毎日丁寧に磨き上げる職人を想像してもらえるとわかりやすいです。

「副業ができない」「転職しづらい」この2点を覚えておいてください。

④一人前になるまでに時間がかかる


これも厳しいデメリットです。

わかりやすく私の例を紹介します。

・航空保安大学校→8ヶ月
・副席&飛行計画情報席→4ヶ月
・現場OJT→2年2ヶ月

つまり私は独り立ち(フルレーティッド)するのに3年と2ヶ月かかりました。

独り立ちとは一人で状況判断をして適切な管制指示を考えて航空機を管制できることを言います。

航空管制官の世界では、独り立ちするまでは「訓練生」という身分で、一人でパイロットに指示を出すことはできません。

必ず指導の資格をもった「訓練監督者」という1人前の管制官が後ろからウォッチしてなければなりません。

この「訓練生」を卒業して一人前になるのに、かなりの勉強量や実践経験が必要なため2~3年という時間がどうしてもかかってしまいます。

もちろんこの「訓練生」の期間はその人の優秀さや勤務する官署によって変わるのでこれより早く一人前になる人もいます。

ただ2~3年の訓練生期間を経て一人前の航空管制官になるのが全体のアベレージだと考えて下さい。

これに採用試験勉強の期間を加えるとトータル3~4年の年月がかかってきます。

仮に26歳で受験しようとすると1人前の管制官として活躍しだすのは30歳前後になってきます。
(私がなるべく早く合格しよう!というのはこういう背景があるからです)

(私が早期合格を推奨する理由は下記記事で書いてます。)

20代の貴重な時間を訓練生として過ごさなければならない上に、訓練はそこまで甘くありません。

なので厳しい訓練がしんどくなって挫折してしまう人がいるのも事実です。

このように自分の20代の2~3年という長い時間を厳しい訓練に費やす必要があるのがデメリットと言えます。

⑤ありがとうと言われない


これは一見「そんなことかよ」と思われるかもしれませんが、仕事をする上でじわじわとくるデメリットです。

ここは私個人の主観も入っているのでそれを踏まえた上で聞いて下さい。

まず前提として航空管制業務はサービス業です。

サービス業のイメージがなかった人もいるかと思いますが、航空管制は航空の安全をパイロットに提供するお仕事です。

なのでパイロットがメインのお客さんです。

良質なサービスを提供した管制官はパイロットの方から

「ありがとう!」

と言われることは実際何回もあります。
(厳密には英語で「thank you!」と言われます。)

ただこの「ありがとう!」は本当の意味でその管制官"のみ"に対して言っているわけではありません。

その管制官ではなくその管制業務を提供してくれた「官署」全体に対して"も"言っているんです。

パイロットからしたら間違いなくその管制官に対して100%感謝を言ってくれているかもしれませんが、管制官からしたら100%のありがとうではなく、50%が「官署」に吸い取られて、残り50%が自分へ残るイメージです。

「羽田のアプローチさんありがとう!」
「福岡コントロールさんありがとう!」

といった具合です。

コンビニで退店する時に店員に言われる「ありがとうございました!」と似た感じかもしれません。

コンビニの「ありがとうございました!」は本当の意味で自分に対して言っているのではなく、「お客さん」全体に言っている言葉です。

その証拠にコンビニの店員さんから「ありがとうございました!」と言われて「やったー!嬉しい!」と思う人はいませんよね?

このように、ありがとうと言われないというのは

「本当の意味でありがとうと言われない」

ということです。

わかりやすくするために過去の私のアルバイトの経験をお話しします。

私はある学習塾で英語と数学を教えていたのですが、ある時一人の生徒さんを1:1で任されることになりました。

その生徒さんは数学の点数が低いことで授業を受けていましたが、全く私のいうことを聞いてくれず、最初の方は授業を進めるだけでも苦労しました。

私はその子とどうやったらうまくコミュニケーションを取れるかをずっと悩んでいました。

ただそんな授業が3ヶ月ほど続いた後に定期テストの試験結果が返ってきました。

するとずっと30点ほどしかとれていなかったその子が60点をとってきました。

「やったらできるやん!」

と心の中では思いながらも、コミュニケーションの方はまだ完璧にとれていなかったので私は心の中で密かに喜ぶだけにとどめました。

ただその子の表情をみると、いつも感情表現が乏しいのとは裏腹に、少しばかり嬉しそうな表情をしていました。

その後テストがある度にその子は点数を上げていきました。

一方、私はそんな中で航空管制官の試験に合格することになります。

保安大での研修生活があるためその塾を辞めることになりました。

最後の授業でその子にその旨を話すと、その子は私に手紙を差し出してくれました。

家に帰って手紙を読みましたがその内容は

「〇〇先生のおかげで苦手だった数学が好きになりました!航空管制官になっても頑張ってください!ありがとうございました!」

という内容でした。

感情表現が苦手な子でしたが、その子なりに感謝の言葉を私に伝えてくれたのです。

その瞬間、涙が出そうなくらい嬉しかったのを覚えています。

後日その子のお母さんが塾に来て私に

「〇〇先生のおかげでうちの子が見違えるように勉強するようになって本当に助かりました!今後のお仕事も頑張ってください!」

とお礼を言って去っていかれました。

その子のお母さんは私にお礼を言うためだけに塾に来てくれました。

心の底からこの仕事をやってきてよかった!と思いました。

自分の授業でその子に価値提供できたんだと実感しましたし、今後の人生の自信にもなりました。

これが私が思う本当の「ありがとう!」です。

「ありがとう!」という言葉づらは同じでもパイロットから言われるそれと私が塾講師時代に言われたそれは全く別物です。

前者と後者の決定的な違いは「特定の1人に感謝を伝えているかどうか」です。

前者の感謝の対象は別に私じゃなくても良いんです。なぜなら他の管制官でも代替可能な仕事だからです。

後者の感謝の対象は私でなければなりません。なぜなら私しか提供できなかった仕事であり価値だからです。

後者の「ありがとう!」は属人的なものである一方、前者の「ありがとう!」はコモディティ寄りのものとも言えます。

これが「ありがとうと言われない」ということです。

私の説明が下手で多分理解されないと思うので、感謝の度合いを以下に数値化してみました。

・コンビニ店員からの「ありがとう!」→10%
・パイロットから言われる「ありがとう!」→50%
・塾講師時代に経験した「ありがとう!」→100%

個人的にはこういうイメージです。

異論もたくさんあると思いますし、人それぞれ感じ方も違うと思います。

ここは実際に管制官にならないと理解されにくい部分でもあるので説明しづらいですが、なんとなく皆さんに伝われば良いです。

管制官としてサービスを提供した結果頂く「ありがとう!」は、皆さんそれぞれが思う「ありがとう!」と少し毛色が違う可能性がある、ということを頭の片隅に置いといて下さい。

各デメリットへの対処法

デメリットを書きまくるだけでこの記事を終えるのはなんとも無責任だと感じるので、私なりの対処法を書いておこうと思います。

①~③への対処法

「航空管制という高度な頭脳労働をしている割に給料が低い」
「スキルがつかない」
「副業ができない」

上記3つのデメリットへの対処法を書きます。

まずお給料に関しては、官署によってもらえる額が違うということを理解してください。

例えば熊本空港と羽田空港はもらえるお給料が全く違います。

具体的にいくら違ってくるのかは、有料noteの方で書いているのでここでは割愛します。

とりあえずはお給料が低いことを回避したければお給料が高い官署へ行けばokということです。

なので「航空管制という高度な頭脳労働をしている割に給料が低い」は官署選びを慎重にすることで解決です。

次に「スキルがつかない」「副業ができない」に関しては、やっぱり時代と逆行しているのは否めません。

そして収入源が管制官一本であるのも国に生殺与奪の権を握られているため個人として健全な状態とは言えません。(あくまで私個人の意見です)

ではどうすれば良いか?

答えは「管制官として働きつつ、それ以外で食べていけるスキル」を身につけるしかありません。

スキルを身につけてお金を稼ぐと違法ですが、スキルを身につけるだけなら全く問題なしです。

そこで管制官として働く強みが活きてきます。

管制官として働く強みは、他のサラリーマンと違って時間を比較的多くもてる点です。

この時間という資産を使って管制スキル以外のスキルを磨くことが最適解だと思います。

スキル習得にお金がかかる場合もあるので、金融資産も同時並行で蓄積していくと精神的に安心します。

私はスキルと多少の金融資資産のおかげで管制官を退職する際も迷いはなかったです。

ここで私が言いたいことは、管制官になったから一安心と慢心するのではなく、勝って兜の緒を締めてください、ということです。

そうすることによって航空管制官としても働き続けられますし、いつでもそれ以外の道に進むことを選択できる権利を得られます。

生殺与奪の権を国に握らせるのではなく、自分で握る努力を怠らないようにして下さい。

④への対処法

実は勤務する官署によって訓練期間が違います。

訓練期間が短い官署は地方官署に多いです。

例えば、青森空港などですね。

訓練期間が短い理由に地方官署にはレーダー業務が無いというのが挙げられます。

大きい官署(関西空港や福岡空港)に行くとタワーとレーダー2つの資格をとらなければなりません。

それだと必然的に訓練期間が長引いてきます。

一方地方官署はタワー業務しかなかったりするので、レーダーの資格を取らなくて良い分、短期間で1人前になることが可能です。

私の同期にも現に保安大を卒業して1年足らずで1人前になった人がいます。

なので官署にこだわらずに短期間でタワーの管制官になりたい方は、地方官署にいかれることをオススメします。

逆に羽田空港や東京ACCなどの主要官署でどうしても働きたい方は、ある程度長期の訓練を受け入れるしかありません。

⑤への対処法

パイロットからface to faceで直接ありがとうを言われることはほぼありませんが、管制官どうしでありがとうを言い合うことはしょっちゅうあります。

例えば

「〇〇さん、さっきは横でサポート助かった!ありがと〜!」
「〇〇君、米軍機のレディオもってくれてありがとう!」
「〇〇ちゃんのフライトプランあったおかげで助かったわ!」

なんて会話はチーム内でよく交わされています。

そう言う意味では、管制官の仕事ぶりはパイロットより周りの他の管制官から評価されることの方が圧倒的に多いです。

「〇〇君が横にいるとなんでも対応してくれるから心強いわ!」
「〇〇さんのレディオは落ち着いてて参考になる!」
「〇〇のスペーシングはマジで職人芸よな〜!」

特にベテラン管制官の方から褒められるととても嬉しくなります。

なんせ管制のプロから褒められるわけですから、脳汁はドバドバです。

このように管制官はパイロットに対してだけでなく、周りの管制官にも価値提供しているんですね。

そして周りの管制官から言われる「ありがとう!」は特定の"〇〇さん"の仕事に対しての感謝なのでコモディティ的ではなく、属人的なものです。

「ありがとう!」は属人的であればあるほど感謝の価値は上がるので、管制官から言われる感謝は十分に承認欲求を満たしてくれます。

なので結論としては、

「同じチームの管制官から感謝されるような管制官になろう」

です。

人当たりが良くて、チームの人と仲良くできて、いざという時に駆けつけて助けてくれる心強い管制官です。

それには航空管制というハードスキルとチームワーク等のソフトスキルの両方のスキルをもった管制官になるのが一番です。

管制の勉強も怠らず、人間としての魅力も備わった人になるよう心がけましょう。

管制官になって正解だったか?

結論から言うと、私は管制官になってよかったです。

管制官になったからこそ、魅了的な同期や先輩や後輩たちに出会えましたし、普通に生きていたら経験できないことも経験できましたし、管制官だからこその悩みも味わいました。

そして管制官になったからこそ今こうやって皆さんに記事をお届けできています。

今回つらつらと色々なデメリットを書いてきましたが、管制官になることのデメリットよりメリットの方が大きかったというのが私の感想です。

もちろん皆さんが感じるメリットと私が感じたメリットは多少の差が出るかもしれません。

そこは皆さんが実際に航空管制官になって確かめてください。

航空管制官としての経験は間違いなくあなたの人生の財産になるでしょう。

ここまで長い文章を読んでいただいてありがとうございました。

何か相談ごとがあればX(旧Twitter)の方でDMで質問受け付けますのでいつでもお問い合わせください。

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また航空管制官の試験対策でお困りの方は以下の記事をどうぞ。
何かお助けできることがあれば嬉しいです。

それではまた次回の記事でお会いしましょう。


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