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『大衆の反逆』(オルテガ著、佐々木孝訳、岩波文庫)

とても難しい内容の本だった。しかし、全く内容を理解できないということもなく、丁寧に読んでいけば分かる部分が多いと思う。長いこと読まれているだけあって、内容が現代にも通じる部分が多いように思う。

オルテガの立場

オルテガはスペインの哲学者だが、非常に親イギリス的な立場をとっているように思う。世界が平和であるためには、イギリスの役割が重要とし、その一方で、1930年代頃に台頭していたロシアだけでなくアメリカにも懐疑的な立場を示している。ロシアやアメリカは、あくまでもヨーロッパの模倣に過ぎないから、というのがその理由である。

しかし、この主張は間違っていると言えるだろう。ロシアはともかく、アメリカは現在でも世界で一つの超大国と言える地位にあり、いまだに成長を続けているからだ。

専門バカ批判

オルテガは研究者の専門バカ、蛸壺化を厳しく批判する。彼ら・彼女らは自らの専門以外のことは全く知らない。それにもかかわらず、彼ら・彼女らは特定の分野では専門家であるため、他の分野でも「専門家」を名乗ってしまうことが、とても大きな問題であるとしている。例えば、西洋史の研究者(=専門家)が、東洋史や日本史、さらには現代の政治についても「専門家」として振る舞うといったことであろう。

学問の専門分化は、時が経てば経つほど進んでいく。それと共に、周りの研究者がどのような研究をしているのか、その理解が疎かになっているというのは、今もよく耳にすることのある批判だろう。専門分化が進むほど、周りのことを理解するのは難しくなるが、理解するのが難しいから理解しない、という姿勢ではダメだということだろう。

大学院で研究をしている一人として、これは心に留めておきたいことである。

社会共同体の崩壊の始まり

オルテガによると、社会共同体の崩壊は次のようなプロセスで進んでいくという。

まず、富が減少する。現代で言うならば、賃金あるいは所得の減少ということだろう。次に、女性が子供を産まなくなる。そして、社会の軍事化つまり警察力が強化される。しかし、少子化により軍隊は人手不足となる。そこで外国人を使うようになる(傭兵)。

このプロセスを安易に現代に適用することはできないかもしれないが、今の日本もこのプロセスを歩んでいるように思われる。

現在の日本は賃金が減少しているというわけではないかもしれない。しかし、先進国を比較対象とすれば、相対的に所得が減少していることは明らかだろう。

https://www.zenroren.gr.jp/jp/housei/data/2018/180221_02.pdf

次に出生率の低下。これは小中学校の社会の教科書でも書かれていることで、また、報道でも「人手不足」という言葉がよく使われているので、言わずもがなだろう。低賃金に加え、コロナ禍のため、出生率の低下に歯止めがかかっていない状況だろう。

そして社会の軍事化。この概念をどう理解すれば良いか、私はまだ正確な理解はできていない。しかし、コロナ禍の初期に見られたような自粛警察のような存在が現れてきたことを指していると言っても良いのではないかと思う。


これから日本がどうなっていくのか、「良い方向」へ変えることはできるのか、気になるところである。


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