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サイバーステップのノベルゲームはここから始まった 『雨音スイッチ -AmaneSwitch-』と原作ゲームの差異、また両者の感想(後編) ※ネタバレ&エロ要素有


前書き

 前回の記事ではサイバーステップのノベルゲーム移植第1弾『雨音スイッチ -AmaneSwitch-』の原作である、『雨音スイッチ 〜やまない雨と病んだ彼女そして俺〜』(公式サイト。18禁なのでアクセス注意)の内容を主に紹介した。後編となる今回は全年齢化するに当たってどのような改変が加えられたのか、また原作・移植版双方の感想について書いていきたいと思う。ゲームの主な流れは前回の記事を参照して頂きたい。

移植版でどう変わったのか

デザインの変化
 まず最初に目につくのは、キャラクターデザインの全面変更である。原作の鬼MAYUGE氏のデザインはどうにもスタイルが細すぎて、頭部とのバランスがいまいちに思えた。前回の記事でも書いたが、メインヒロインの雨音はタッパが167cmもある。しかし立ち絵でもスチルでもそんなに大きく見えない。キャラグラの不自然さはアップにするとかなり目立つ。

原作雨音。何か頭だけ妙にデカく感じる

 その点移植版では全体的に上手くリファインされている。雨音はデカい女キャラクターとしてちゃんとした体格になっているし、頭が大きすぎる感じもない。

移植版雨音。長身ならではのスタイルのよさ

 あと些末なことだが、原作だと全キャラ長袖だったのが移植版だと半袖になっている。梅雨の時期の話なのに長袖にカーディガンはさすがに季節が合わないと判断されたのだろう、これは正しい改変だった。

演出の(ちょっとした)変更
 目パチに関しては原作・移植版双方ともあるのだが、移植版に関してはカットインで立ち絵がスライドしてきて登場、みたいな非常に小さな変更があった。アニメーションするわけではないので演出としては本当に些細で立て看板が動いているようなものだが、取り合えずどのキャラがどういう勢いで動いているかの指標くらいにはなった。ただ、シリアスなシーンでいきなり画面右からキャラがスライドして会話に割り込んでくるのはどうなのかと思ったのだが。
 原作にあったスチル絵でのアニメーションはなくなった。何故かエロシーンではなく雨音の自傷行為のシーンなどに使われており、わざわざアニメーションを入れている理由が不明だった。そのためなくなったこと自体には特に問題はない。
 また、各ヒロインの初登場時にはスポットライトが当たる感じで引き絵を見せてくれるという演出が入っている。これは良い追加要素だったと思う。原作では全身像を見る機会が少なかったためだ。例として木崎姉妹初登場のシーンを挙げる。

泉初登場時
雫初登場時

イベントの追加
 移植版では原作になかったシーンがいくつか追加されている。例を挙げると、

  • 慎二が帰宅途中、木崎姉妹が野良猫を可愛がっているシーンがある。姉妹仲の睦まじさを感じさせるよい追加イベント。パンツが見えそうになっているスチルもある。

この辺までは普通の仲良し姉妹だったのに
  • 濡れて自宅に帰ってきた慎二が雪華とお風呂場でバッタリ(死語)

湯気があるとはいえよくこれをSwitchで出せたな
  • 濡れて自宅に帰ってきた慎二が何故かいた陽子とお風呂場でバッタリ(死語)

なお陽子は風呂から上がったあと特に何もなく追い返される
  • 母親の葬式後初登校してきた慎二に対して無茶苦茶をやり出す雨音だったが、逃げ出した慎二に対していくらメッセを送っても返信がないことに不安といらだちを覚えるシーンが追加された。雨音の精神的な不安定さの補足になっている。

スチル絵の角度・カット変更
 地味だが気になった点なのでいくつか挙げたい。朝4時から慎二の自宅前で土下座を行う雨音のシーンのカットが変更され、なぜか移植版では雨音の後方からになりパンツが見えるようになった。これには混乱した。

原作土下座
移植版土下座。何故パンツを見せた。
あと、ここでは何故か服が長袖になっている

 雨音と陽子が慎二を取り合ってキャットファイトするシーンも少々変更。原作だとすがりつく雨音を振り払うような陽子のシーンが、移植版だと積極的に攻撃しているようなカットへ。

慎二と別れろ別れないで喧嘩になる二人
やられる前にやるつもりだ
雨音のカッターナイフを奪い取った陽子
この後警察が来て逮捕される

 また、移植版の慎二にはスチル絵に顔がある。前回の記事にも画像を載せたが、原作はのっぺらぼうのマネキンみたいな姿しかなかった。移植版では同じシーンでガッツリ顔が描かれている。

前回も載せた原作スチル。右が慎二
移植版の同じシーン

 どうだろうか。慎二は一応学級委員をやっている程度には真面目で正義感が強く人のことを気にするタイプ、ということなので、こういう優男然とした見た目は合っている、のかもしれない。
 ただ慎二という男は普段から結構オラついた口調をしている上、原作だと割と勢いのままヒロインと野外プレイをしてしまうワイルドな人間であるため、若干面食らった感は否めない。

キャストの変更
 前回の記事でも紹介したが、移植版ではキャストが全員変更となり、一部のキャラクターは星めぐり学園のVtuberが担当している。e-shopの商品の説明欄にはこうある。

【 旧作プレイ済でも楽しめる新規シナリオ 】

元々18禁の美少女ゲームの本作は、多くのプレイヤーに楽しんでいただけるようにシナリオを調整しただけでなく新規シナリオも追加。グラフィックなども刷新し、新たなキャスト陣によるフルボイスシナリオのビジュアルノベルゲームです。

新規に収録したボイスの一部は、星めぐり学園所属のVTuber「倉持京子」と「伊織ねめあ」が担当!

e-shop商品説明欄より

 元がエロゲーだということを包み隠さず書いているところは正直というかなんというか感想に困る。
 キャスト陣は皆上手く、原作とは違ったイメージはあったがよくハマっていた。雨音役の倉持京子氏は特に上手だった。普段の儚い雨音とメンヘラがひどくなったときの錯乱っぷりをよく演じ分けている。倉持氏があの葬式にウエディングドレス姿で乗り込んで大暴れするシーンを演じていてどう思ったのか、ちょっとだけ気になってしまった。

例のシーンは原作と全く変わっていない

 ちなみにこの慎二の母親の葬式に雨音が乗り込むシーン、原作だと普通にウエディングドレス姿のスチルが表示されるだけだのだが、移植版はスタッフも分かっていてやっているのか『雨音のドレス姿を3カットに分けてスローモーションにしたあと全身像を映す』という演出に変更されている。これには笑ってしまった。

追加EDの存在(ネタバレ有)

 移植版のEDは7つある。うち6つは原作と同じ流れ・同じタイトルで内容もエロシーンがない以外同じだ。簡単にまとめると、
 雨音ED1.雨音自殺 ED2.慎二と雨音が心中を図るが片方生き残る。
 陽子ED1.雨音と距離を置いたが慎二が病んでしまう ED2.雨音のことは忘れて陽子と結婚して一児をもうけた慎二だったが、彼らの前に退院した雨音が鬼の形相で訪れる
 雪華ED1.雪華と別れて大学生になった慎二の前に新たなメンヘラ女が現れる ED2.雨音に復讐しようと陽子・泉・雫がよってたかって暴行を加え、雪華もそのなかに混ざって雨音を蹴りまくって殺してしまう

 以上だ。そして移植版に際しては、陽子のED1からさらに分岐する。

追加EDの内容
 
嫌いになったと言ってしまった慎二の前で錯乱した雨音は、自分の顔をナイフで刺しまくり大量出血する。こんな女とは付き合えない、もう限界だと思った慎二だったが、後にそれで良かったのか自問することになる。
 雨音自身も被害者であることには変わりない、という事実に気づいた慎二だったが、あれから時が経って大学生になっていた。雨音とは会えずじまいで、今は交際中の陽子と一緒の大学に通っている。雪華は相変わらず慎二の世話を焼いてくれている。
 そんなある日、慎二の前に雨の降る中傘もささず突っ立っている女性が現れる。もしやと思って声を掛けると、それは雨音だった。

何という偶然

 自宅に帰るという雨音だったが、何故か慎二に対して全く反応を示さない。またかつての雨音の自宅だったマンションはとっくに名義人が別人になっており、雨音の家ではなくなっていた。どういうことなのか分からないまま警察に連れて行った慎二の前に、雨音が入院している病院の関係者が現れる。そしてそこで慎二は、雨音があまりにも辛い記憶を持ちすぎていたため自ら記憶を消してしまったことを知る。
 何でも雨音の症状はかなりひどいらしく、それでも病院を抜け出しては慎二たちの住んでいる町まで徒歩でやってきてうろついているのだそうだ。このまま症状が進行すれば、普通の病院ではなく隔離施設行きになるとのことだった。

 雨音はずっとひどい目に遭い続けてきた。そんな彼女の味方になれなかったことを悔いた慎二は、陽子と雪華に「雨音を引き取って二人で暮らしたい」と提案する。雨音に散々振り回されてきた陽子と雪華は大反対するが、それを強硬に押し切って慎二は雨音の身元引受人となる。
 形だけの婚姻で夫婦関係となり、後見人となった慎二は雨音と二人でボロアパートで暮らし始める。かつての記憶に刺激を与えないようにと慎二は洋平と名乗り、何も知らない雨音とともに二人暮らしを始めた。

今日からここで暮らすのだ

 普通になりたい、というのが記憶を失う前の雨音の願いだったことを知った洋平(慎二)は、雨音の自主性に任せて自分の思う『普通』のことを探し、それをやっていくよう提案する。自分で仕事を見つけ、交際相手を探す雨音。幸い採用された職場の同僚からアピールを受け、交際するかどうか迷う雨音を見て「普通がどうこうじゃなく、雨音本人がどうしたいかで決めろ」と洋平は言った。
 結局雨音は交際を断り、本当に結婚するなら洋平とがいい、と言う。洋平もそれを素直に受け入れ、二人は晴れて恋仲になった。かつて破綻してしまった関係をもう一度最初からやり直し、そして再び恋人に戻ることが出来たのだ。

憑きものが落ちたみたいな雨音
洋平の努力の甲斐もあり、また再び恋人同士になることが出来た

 そしてラスト。病室で最後の時を迎えようとしていた雨音は、旅立つ瞬間にとある人物の名前を呼ぶ。記憶が戻っていること示唆し、雨音の人生は長い雨と共に幕を閉じた。
 これが移植版で追加された7つめのED『New Call Rain』だ。原作はどこをどう切り取ってもどうしようもないほどバッドエンドだったが、移植版ではこの追加EDのおかげでわずかばかりでも救われた気持ちになれた。

里中雨音というキャラクター

 雨音は一言で言うなら可哀想な女の子だった。崩壊した家庭に育ち、父親は家を出て母親は心を病んで自殺。そして自殺の瞬間を目撃してしまう。学校ではいじめを受け、まともな友人も作れないまま育ってしまった。唯一の味方であった母親もおらず、孤独な人生を送っていたところに現れたのが慎二だった。自身に対して親愛の情を寄せてくれた数少ない人物である慎二に対して異常に執着したのも、自らの過去で味方になってくれた人間がほとんどいなかったことが起因している。

 雨音はヤンデレ、というかメンヘラキャラではあるが、他者に対しての攻撃性はほとんど見せていない。何かというとカッターナイフを取り出すが、傷つける対象は自分が主である。一応慎二の母が交通事故で死亡した直後、慎二に対して「これで(私と同じように両親が亡くなって)おそろいだね」という正気を疑う発言をしているが、あの事故は雨音が起こしたわけではなく結果的に起きてしまったものだ。あの事故の直接の原因は「慎二の父親が死んだのはあなたのお母さんを助けようとしたからなのよ」と慎二の了解も得ず雨音にだけこっそり打ち明けた雪華にある。雨音が他人に対して害意を見せるのは物語の最後の最後、慎二に裏切られたと認識した時だけだ。そして結局誰にも攻撃しないまま終わっている。

 原作ではどのEDを見ても、死ぬか施設に隔離されるかの2択という結末を迎えている。彼女はどうすればよかったのだろうか、と原作をプレイして考えた。
 移植版の新規EDを救いがあってよかったと捉えるか、蛇足だと考えるかは個々のプレイヤーの感覚によるものだろう。私は断然前者だ。徹頭徹尾不幸だった雨音というキャラクターに対して、ほんの少しでもいいから救いがあってもよかったじゃないか。そう思っていたからだ。

追加EDで彼女は少しでも幸せになれただろうか

プレイした感想

 原作・移植版ともに陰鬱とした雰囲気がずっと続くゲームだったが、不快なゲームではなかった。おそらくだが、開発スタッフには『プレイヤーを暗く嫌な気持ちにさせよう』という意図はあっても、悪意に近いような『プレイヤーを暗く嫌な気分にさせてやる』という意志はなかったように思える。救いのない物語ではあったが読み応えがあり、ヒロインの不憫さがより絶望感を深める役割を果たしている。ツッコミ所自体かなりある(学校中に設置された監視カメラ、その監視カメラ映像をCGで細工する泉、全校集会で監視カメラ映像を確認し拡大する作業を行う、到着タイミングが良すぎる警察、そして慎二の母親の事故など)のだが、これはまぁ許容範囲と言っていい。

 ただ、個人的な作劇の好き嫌いの話になるのだが、私は『実は登場人物の全員・もしくは大半が関係者でした』という展開があまり好きではない。最初から関係者だと分かっているのであればともかく、一見縁もゆかりもなさそうな人々が本当は昔の知り合いだったり肉親関係だったりという事実が途中で明かされるという話が苦手である。広がっていたはずの物語の世界が急に狭く感じられてしまうからだ。
 そのため本作の人間関係の『全ての登場人物は雨音とその家族となんらかの関わりがある』という展開にはどうにも納得がいかなかった。良いご都合主義と悪いご都合主義があるとするなら本作は後者だ。

 ちなみに当然のことながら移植版からはエロシーンが全部カットされている。だが『依存している相手を体を使ってでも引き留めようとする雨音』という本作のヒロインを描くに当たっては、どうしてもセックスの描写は避けられない問題だった。別に情事の内容を書けと言っているのではなく、ぼかす程度でいいので肉体関係にあったことをもう少し書いて欲しかった。一応、木崎姉妹に対して義父がえげつない虐待をしていたときには性的な加害をしたことを示すようなテキストが残ってはいるのだが、重要なのはそこではない。

 原作・移植版ともにクリアした後に残ったのは大きな喪失感・虚脱感と不思議な満足感だった。確かにツッコミ所はある、展開の強引さや無理矢理な部分も見受けられる。それでもクリア後には「やってよかった」と素直に思えた。

余談

 移植版のUIについて。私は移植版をSwitchでプレイしたのだが、なんと本作ではカーソルの移動がアナログスティックのみでしか行えず、方向ボタンはセーブやロードのショートカット機能となっている。これはノベルゲーム移植2作目の『シオリノコトハ - DarkReflections -』では無くなっているので、評判が悪かったのだろう。初見ではタイトル画面でカーソルが動かず何かおかしいのかと思ってしまったくらいだ。

タイトル画面。方向ボタンでカーソルが動かなかったため面食らった

 ゲーム内容で言うと雨音以外のヒロイン、陽子や木崎姉妹、雪華にも何かしらあってもよかったのではないかと思った。陽子はろくでもない女だし、木崎姉妹は家庭環境が雨音の家に負けず劣らず崩壊しており不幸度合いもかなりのものだ。木崎姉妹はネットに動画が流出している以上オヤジが逮捕されるだけでは済まないし、実際学校にいられなくなっている。雪華はいろいろと思慮が足りておらず様々な悲劇を招いているのだが、引き起こした事態の責任を取っていない。
 この辺は移植版でもう少し描写を足しても良かった気がするが、そうすると雨音の話から軸がブレる気もするしなんとも言いがたいところだ。

終わりに

 サイバーステップのノベルゲーム移植作の記事を書き始めて10回目の今回、取り上げたゲームがこのタイトルで良かった。ゲーム自体の内容も面白かったし、移植に際してスタッフが尽力していることも分かった。検証作業も楽しく行え、スクリーンショットの数がどんどん増えていった。おそらくサイバーステップとしても、こうした力を入れた移植の流れを続けていきたかったのだと思う。実際に2作目の『シオリノコトハ - DarkReflections -』も本作と同じように気合いの入ったリメイクを行っていたからだ。
 ここ最近の作品ではちょっと、そういう気合いの入った姿を見られないのは残念なのだが。

 何はともあれ、雨音スイッチと里中雨音に幸あれ。

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