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目的に応じたアイデア発想法の使い分けvol.2【テーマ探索編】

 全3回続きで、アイデア発想法の使い分けについてご紹介しています。前回はまずは足元で検討が進んでいる新規事業プロジェクトを想定しながら、3Cそれぞれ(顧客・自社・競合)を起点としたアイデア発想法をご紹介しました。


vol.2となる今回は【テーマ探索編】として、そもそもどういったビジネスドメインや、機会領域で新規事業を立ち上げるかが決まっていないプロジェクトを想定しながら、そのテーマの探索方法をご紹介します。

ビジネス主導、クリエイティブ主導、テック主導の3つのパターンでご紹介します。


3. 事業ドメイン・機会領域を探索する

そもそも事業アイデアの前に、その「テーマ」「ドメイン」といわれるような大きな括りさえ決まっていない場合、小粒のアイデアを発想するより、有望なドメインを決めてしまうことが有効です。

事業ドメイン策定

事業ドメイン策定では、環境分析から戦略的に有望な事業ドメインを特定します。外部環境分析、内部環境分析などを通じて、勝てる見込みのある事業ドメインをある程度ロジカルに洗い出します。

アンゾフの成長マトリクスなどで、洗い出した事業ドメインをマッピングし、優先度をつけます。その後、次のフェーズで、優先度の高いドメインから事業アイデアを発想していき、最終的にポートフォリオやロードマップに落として、実行対象を選定していく流れとなります。

「アンゾフの成長マトリクス」中小企業庁より引用
「新規事業の企画検討 8つの領域パターン」MASAHIRO SHIMIZU note.com より引用


 この手法はご想像通り、ビジネスパーソンが主導で事業領域を策定していきます。「新規事業の成否は市場選択が7割」という主張がありますが、勝てる領域を見定めるという意味では、小手先のアイデア発想法より、この作業をしっかりしておくことが肝要といえます。

 一方、よくある失敗として、調査や事業ドメインの評価まではうまくいくものの、そこ止まりになる事例が多く、プロジェクトメンバーによっては「具体的にどのようなビジネスか?」まで落とし込みにくいことがあります(特にコンサルに発注する場合)。事業ドメインが特定できた場合、すぐさま前述のアイデア発想の計画に落とし込むことで失速を防ぐことが重要です。

また別の観点としては、新規事業の立案時には新規性に比重が置かれる傾向があり、既存製品・既存市場の中でのズラシや周辺領域が軽視される可能性もあります。「地味だが確実に利益を生み出す領域」も適正に評価する必要があります。

デザインリサーチ(特にインスピレーションフェーズ)

 質的調査とインサイト抽出による機会領域探索です。インタビューや観察、模擬体験などのリサーチから得た情報をメンバーで振り返り、気づき(Insight)を抽出します。複数の気づきを行動様式や時間軸などの様々な切り口で統合(Synthesis)する作業によって、ある程度のまとまり=機会領域(Opportunity Areas)を作り上げていきます。機会領域ごとに問い(HMW Question)を設定し、後続フェーズで解いていきます。

顧客が分かっているときのデザインリサーチも有効ですが、もっと手前のテーマを探すところからも有効です。"ふんわり"したお題に対して、コアユーザー、エクストリームユーザー、アナロジー、疑似体験、グループインタビューなどから、インスピレーションを経て、新たなテーマ設定、問いの設定を行います。

IDEO Human-Centered Design (HCD) Design Process より引用

キーワードレベルが決まっているが、具体的に誰の何を解決したいかが曖昧なとき、本質的な問いまで連れて行ってくれるのがこの活動です。IDEOのデザインリサーチ手法などが参考になります。

下記の記事が「デザインリサーチ」の姿勢や考え方の参考になるかと思います。(恐らく、大方のビジネスパーソンは普段の姿勢のままではうまくいかと思います。)


生成AIによる総当たりアイデア生成

 生成AIを活用したインプット情報の組み合わせの総当たり大量発散です。ChatGPTなどの生成AIを活用して大量のアイデアリストを作成します。

マクロトレンド、自社のアセット、顧客の情報など、あらゆるインプット材料を「食わせる」ことでそれらの要素を網羅的に再結合させ、アイデアを大量生成する。その後、人間が玉石混合のリストから選定し、アイデアを磨き込みます。

網羅的な事業機会の探索という観点では圧倒的にAIの活用の方が早いでしょう。他の領域でももちろん活用可能だが、「大量の材料をもとに、質より量で総当たりさせる」という点では機会の発散が強いといえます。

「AI* deation」 Sun* より引用
(著者は投稿日現在、Sun*に在籍しています。PRではないですが念のため。)

生成AIが有効なシチュエーションは、特に取り組みたいテーマがない場合、とにかく広範囲に可能性を探したい場合に有効です。また、インプット材料の量と質がアイデア品質のドライバーであるため、材料を大量に用意できる場合にも活用可能性が広がります。

注意点としては、インプット材料の整理や、アイデアの選定・磨き込みは人間の力が必要です。(今回、なぜアイデア発散で紹介せず、機会領域探索で紹介したかというと、あくまでAIには「たたき台」しか出せず、今日現在では機会を発見できる程度にしか過ぎないためです。)

また「プロンプト・エンジニアリング」と呼ばれる命令文の試行錯誤に、ある程度の知識とスキルが必要となります。ただし、今後、新規事業に伴走するAIは一般化する見立てが多いため、他のアプローチと組み合わせながら活用し始められておくとよいかもしれません。

ダメな例
少しだけマシな例:このように命令文とインプット情報を的確に与えます。ここに出力形式や制約条件も与えていきます。


データドリブンな事業機会探索

 データ分析・AIを活用した事業機会探索です。人口動態・位置データ・行動データ等からの生活者実態の把握、知財・特許のテキストマイニング(特徴語の抽出と関連性)、素材・材料のマテリアルズ・インフォマティクスなど、様々なデータや分析手法、ツールをもとに現状分析や示唆、解決策の抽出を行います。

データ分析組織/データドリブン経営推進組織と、事業部とのタッグが必要です。こちらは説明するには新しい情報が多すぎますので、データ分析やデータドリブン経営を推し進める専門家のご説明を調べてみてください。気になれば各社(主に総合系コンサルファーム中心)にサービスメニューがありますのでそちらもご参考ください。


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 ここまでテーマ探索するための手法を、ビジネス、クリエイティブ、テックの視点から洗い出しました。基本的には、王道の事業ドメイン策定をし、その次にクリエイティブ目線で問いを立て直すことが成功率が高いように感じています。また、テック目線でAIのみを出していますが、自社が保有する技術や研究開発をいかに活かすかは、事業ドメイン策定の中に論点として組み込むことで対応できると思います。

現状の積み上げ(フォーキャスト)と、未来からの逆算(バックキャスト)を組み合わせる

 様々なアプローチをご紹介してきました。ここまでは比較的、今期・来期の新規事業を何にするか?という前提の活動が対象になっていました。

一方で、現状の積み上げだけでは将来にわたって競争力を維持することは難しく、先手で未来への投資対象を作り出し、見極めていく活動も、新規事業を創造する方々にとってのミッションとも言えます。

「直近3~5年で確実に利益を生み出していく事業」と「ビジョンや未来予測に基づいて10年単位で利益を狙っていく事業」を並行で進められると、全社のロードマップから逆算して次の事業が達成すべきマイルストンも明確になりやすいと思います。

次回は、vol.3【未来創造編】のタイトルで、近未来・遠未来の事業を発想するためのアプローチをご紹介します。お楽しみに。

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