見出し画像

肩関節解剖②-動的安定化機構に着目して-

今回は肩関節の動的安定性について投稿します。肩関節の安定性は骨による安定性が乏しく、様々な組織が活動することで肩関節の安定性の寄与と運動を行なっております。静的安定性では骨、関節唇、靭帯、関節包などについて供述しましたが、今回は動的安定性に関わる筋肉をメインに執筆していきます。

まずは解剖のおさらいからしていきましょう。

◯解剖

画像1

・棘上筋
・棘下筋
・肩甲下筋
・小円筋
→上記の筋肉を中心とし関節窩に上腕骨頭を引きつける事(求心位)が重要
●棘上筋
起始:棘上窩
停止:上腕骨大結節上面(superior facet)
神経支配:肩甲上神経

画像3

●棘下筋
起始:棘下窩
停止:上腕骨大結節中面(middle facet)
神経支配:肩甲上神経

画像4

●肩甲下筋
起始:肩甲下窩
停止:上腕骨小結節
神経支配:肩甲下神経

画像5

●小円筋
起始:肩甲骨外側縁
停止:上腕骨大結節下面(inferior facet)
神経支配:腋窩神経

画像6

肩関節のどのような運動を行うときも回旋筋腱板を中心として大腿骨の骨頭を肩甲骨関節窩に引き付けることで求心位を保ち安定性に寄与します。求心位が保てずにアウターマッスルのみで運動を行うことで肩関節の障害にも繋がります。そこで大切になってくるのがフォースカップルです。運動は安定性が担保できた上で行うことが大切です。その安定性を担保するために大切な機能となります。

ここからフォースカップルについてお話しします。

◯フォースカップルとは

肩関節の外転を例に三角筋の外転作用のみでは肩関節の外転は行えません。大切になってくるのが運動支点になります。関節窩に対して骨頭が密着する力を意味します。

以下は一例となります。

棘上筋の役割:求心位を保ち、肩関節における運動支点の形成。
三角筋の役割:回転モーメントによる運動
フォースカップル:2つ以上の筋が協同して1つの運動を遂行する機能の事

●三角筋と棘上筋

そもそもフォースカップルとは2つ以上の筋が強同して1つの運動を遂行する機能をいいます。棘上筋は大結節の上面を内上方へ向かって引きつけます。この際の分力のほとんどは、骨頭を関節窩に向かって引きつける求心力となる。棘上筋における外転作用は停止部が骨頭中心に極めて近いため、実際の外転モーメントはそれほどおきくありません。

画像7

そして三角筋は肩峰に起始し、内・外転軸から離れた三角筋粗面に張力を作用させる。三角筋は強力な回転モーメントを作用させる役割を持っていますが外転運動のための支点形成ができない。運動支点とは、関節窩に対して骨頭が密着する力であり、これを”求心力”といいます。この支点形成を行なっているのが棘上筋です。

棘上筋による支点形成と三角筋による強力な回転モーメントが作用して初めて円滑な外転運動を行うことができます

やはり上記の内容を踏まえると肩関節の動作でどのように運動が遂行されているか?代償動作の有無などを踏まえて動作を捉えることが大切ですね。求心位を保ちながら動作を行うことが大切になります。


◯上腕二頭筋長頭の役割

書籍などでよく回旋筋腱板と一緒に肩関節の動的安定性に機能していると言われるのが上腕二頭筋長頭です。私も気になって上腕二頭筋も少し調べてみました。

画像2

上腕二頭筋長頭は上腕骨頭のstabillizerであり、骨頭の上下方向のみならず前後方向の安定性に寄与している事が示唆された。
Kumar VP, et at : The role of the long head of biceps brachii in the stabilization of the head of the humerus. から引用
上腕二頭筋の筋活動として外旋位においては長頭、短頭共に活動量が多い。長頭に限っては内旋位でも外旋位と変わらない活動量を示す事が明らかとなった。長頭は走行からは想像できないが伸展動作でも活動が認められた。つまり長頭は常に骨頭を下方へ圧迫するように活動している。
肩関節障害 肩の運動学*
立 花 孝**から引用

上腕二頭筋長頭は上腕骨の結節間溝を通り上方から上腕骨頭を安定させている印象でしたが、内旋位、外旋位共に活動量が多いということ。

物を持ち上げるときに短頭だけであれば上腕骨は強力に上方へ突き上げられるが、それを長頭が同じ力で制御している結果的には二つの腱によって骨頭の安定化機構として機能している。短頭も大切ですね。

◯肩甲上腕リズムについて

1934年にCodmanが上肢挙上に付随して肩甲骨が回旋する連動現象を肩甲上腕リズムと名付け、1944年にInmanによってこのリズムの研究が成された。上腕骨の動きに対して肩甲骨の動きが2:1という一定の割合で動いているという皆様もご存知の通りの内容です。

●肩関節の動きは肩甲上腕関節だけではない

肩関節の動きはイメージは肩甲上腕関節での動きをイメージされると思いますが、前回のnoteでも取り上げた通り肩関節には関節が6つあるので複合的に動くことで肩関節の動きが成立しています。ここでは肩甲上腕リズムをメインにどのように肩関節が動いているのかを少しだけ解説します。以下のような研究結果があります。

肩関節の外転動作と屈曲動作において肩関節上方回旋角度に相違を認めなかった。しかし、鎖骨傾斜角に関しては肩関節屈曲に比べ、肩関節外転動作の方が鎖骨傾斜角が増加した。
特集 研究から考える理学療法技術 肩甲上腕リズムの臨床を考える
The Quantitative and Qualitative Evaluation of the Scapulo-humeral Rhythm
福島 秀晃 三浦 雄一郎 から引用

肩関節の屈曲では肩鎖関節を軸とした肩甲骨上方回旋が相対的に優位となり肩関節の外転では胸鎖関節を軸とした肩甲骨上方回旋が相対的に優位になる

屈曲と外転で運動軸にも違いがあり、屈曲では肩鎖関節を軸とした上方回旋外転では肩甲骨内を軸とした肩甲骨の上方回旋となります。

●座位での肩関節運動における肩甲帯周囲筋活動

この論文では肩関節の外転・屈曲でどのような筋活動があるのかを筋肉を絞って行った研究があります。(僧帽筋上部・中部・下部・前鋸筋)

・肩関節屈曲初期より前鋸筋、僧帽筋下部が優位に活動する。
・外転初期より僧帽筋中部線維が優位に活動し、外転中期において僧帽筋下部線維が優位に活動する。
・肩関節屈曲・外転間において僧帽筋上部線維の筋活動には優位差を認めなかった。
特集 研究から考える理学療法技術 肩甲上腕リズムの臨床を考える
The Quantitative and Qualitative Evaluation of the Scapulo-humeral Rhythm
福島 秀晃 三浦 雄一郎 から引用

私のイメージですがやはり僧帽筋は中部や下部を使うことが大切になります。しかし、背中(僧帽筋中部や下部など)をうまく使えない人は僧帽筋上部に依存し、頚部や肩部にストレスがかかっている人が多いなという印象です。

もちろんここに記した筋肉のみが大切なわけではありません。肩甲上腕関節を求心位や、陰圧を保つための肩甲上腕靭帯や回線筋腱板など肩関節には様々な要素が必要になります。

前回と今回で肩関節を静的安定機構と動的安定機構に分けてまとめましたが、この内容が全てではなく他にも大切な要素がたくさんあります。私も勉強中です。今後も肩関節について投稿していこうと思いますのでよろしくお願いします。

◯参考文献、参考資料

・Kumar VP, et at : The role of the long head of biceps brachii in the stabilization of the head of the humerus. 

・肩関節障害 肩の運動学*
立 花 孝**

・特集 研究から考える理学療法技術 肩甲上腕リズムの臨床を考える
The Quantitative and Qualitative Evaluation of the Scapulo-humeral Rhythm
福島 秀晃 三浦 雄一郎 から引用

・分冊 解剖学 アトラス 運動器I 平田幸男 文光堂

・林 典雄の運動器疾患の機能解剖学に基づく評価と解釈 上肢編 林典雄運動と医学の出版社


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?