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火のないところにホウセンカ 後書き


どうも作者のA.T.JANPIです。 この度は標題の作品をご覧頂きありがとうございます。後書きということで相変わらずネタバレ全開で参りますので、未読の方はこちらから↓
(今回からNoteに直接投稿もしています!)

前作後書き

前前作後書き


○きっかけ


 前作では自分廻りを反映した話だったので、次の短編ではやんわり世相を取り入れた話にしようとぼんやり考えていました。長引くコロナ禍に戦争、相次ぐ災害と、歴史が動きまくっている近年ですが、共通している事項として「情報の錯綜」がありました。ネット上では新しい情報が放出されるごとに、事の真偽を見極める必要がありました。ただ、中には善意やただの勘違いでデマを流す人もいたり…と常にカオスを極めている。そんな様子を客観的に見た話でも描いてみようかと思って構想をし始めました。
 最初はタイトルを「火のないところに煙は立たない」というお決まりの諺を連想し、「最近のは発火というより放火なんだよなあ…」と考えて、放火に音感が近い「ホウセンカ」を連想し、「なんか面白い響きだなコレ」というノリで話を考えることに。
 「ホウセンカ」が出てきたところで「どんな花だっけ」と調べましたところ、

・漢字で書くと鳳仙花
・中国経由で日本に伝わった花
・赤や紫の花
・触れただけで種が広範囲に弾け飛ぶ性質
・花言葉は『短気』『燃えるような愛』『私に触れないで』

お〜これは思いつきにしては話の趣旨となかなか親和性の高そうな花だな!とそのまま採用。火のテーマと赤い色、「燃えるような愛」の花言葉から燃え盛る炎の花のイメージで膨らませていきました。その後鳳仙花の「仙」の字に着目。中国系の花ということで流れで中華風の、仙人あたりが出てくる話に持っていくことにしました。ただ、ホウセンカは弾け飛ぶ(≒情報を拡散する)側なのでどちらかというと敵サイド。なので同じく仙の字を持つメジャーな花「水仙」のモチーフを主人公に据えることにしました。なんなら水墨画風に表現したら面白いかもしれない!墨だし炎だし赤い花出てくるなら赤い色も入れようか!という具合にアイディアを詰め込んでいきました。


そんな感じでできた初期イメージボード



 毎度ながら着想の道筋を言語化すると意味がわからなくなります。

○世界観


 上述の通り中華風の世界観で、仙人がいるような遠い昔、仙人が住んでるような自然豊かでやや岩がちな山を想定しています。あくまで“風”ファンタジーなので、特に時代考証もせずざっくりしています。複数の時代の中華服が出てくる辺り、そこは緩くお考えください。
 霊山は「気」(≒霊力)が豊富で、水や双道士を始めとする仙に連なる者たちの登竜門として有名です。仙人は人々の助けになり、人々もまた仙人たちの力を信奉しています。霊山の麓では、人々は農村で質素に暮らし、山を超えたところの隣国で公益をして生計を立てています。山の険しさゆえ、行き交う人間は麓町民かたまに来る公益の行商くらい。霧の出る湖に舟を渡したり、平地で家畜を放牧したり、静謐な生活をイメージしています。
 なので、ひとたび事件が起きれば(下手すれば隣国を巻き込んで)大ごとになりやすい環境ともいえます。

○キャラクター


ネームドキャラクターは4人(実質3人)です。普通の人間はいません。

・水(スイ)

水 水墨画風イラスト

 本作主人公の女仙。少なくとも1000年はこの時点で生きてそうな感じで考えています。この容姿(所謂のじゃロリ)なのは、仙人になった時点でロリだったのか、仙人になった結果としてロリになったのか、気まぐれに姿が変えられるのかは教えてくれなそうです。空中浮遊して動くことを想定していたので、全体的にヒラヒラした服・髪型にデザインしています。色合いは髪と服で水仙のイメージです。リラックスしてる時は焦茶色の虹彩ですが、仙人モードの時は赤くなります。

水 設定画
水 初期ラフ。髪型はほぼそのまま、服だけもう少し仙女風ヒラヒラに変更。

 昔はもっと仙人がいましたが、諸々の理由で今霊山に住んでいる唯一の仙人です。空中浮遊や予知、千里眼といった、大抵思い浮かぶ超能力は使えます。名前の由来は上述通りの水仙ですので、水仙が常に周囲に広がっているほか、「水」の名の通りに水を操る強い力を持っています。いつもは山のどこかで漂っていたり、弟子たちの様子を見たりしながら、悠々とした生活を送っています。人々に祀りあげられて造られた専用の噴水のような泉に、来客時は出現するようにしています。ほぼ山の守り神のような立ち位置です。霊山の大自然を愛し、人間のことはまあ好きですが基本的に不干渉な傾向があります。山燃やすのは許せませんが、自然現象で死ぬ人間を助ける気はありません。そのせいか、双道士よりもホウセンカに対しての方が優しいです。ラストはホウセンカすら自然に含めて愛でていますので。
 こんな人を超越した、神にも等しい存在が主人公なので、本作は完全に彼女の神視点の話になります。ホウセンカに対してすら相性抜きにしても圧倒的なので、鎮静化に苦戦することはまあ想定していませんでした。町民たちは杞憂でしたね。なんせ事象発生から顛末に至るまで千里眼で何もかも見えているものですから。その超常の態度が常人から見て嫌味ったらしく見えないよう、性格は天真爛漫さ、子供っぽさも持ち合わせているような描写にしています。
 今作の主人公ではありますが、物語を進めるのは双道士に任せ、きっかけだけを与えて最後に全部締める役です。今回初めての試みとして、各種投稿サイトで見開き機能を使いたいという作品外側の思惑もあり、水墨画風の画面が映えるような構図を心がけました。最初は霊山をバックに世界観を説明し、次に水を吸い上げ、水仙の形に具現化して戦うアクション、最後は優しく花びらを舞わせる神秘的な絵というふうに。全部違う表情、違うポーズです。彼女の様々な側面を楽しんでくだだい。

・双道士

双道士 水墨画風イラスト

 本作は神視点の水が客観的に見て問題解決する、という話なのですが、例えばこれがモブ町民が問題を持ってきて、思わせぶりな態度でギリギリまで手を出さないとなると「本気出せや!」と読者に思わせてしまう恐れがありましたので、読者視点に近く、水にも町民にもアプローチのしやすい役柄として修業中の道士を配置することにしました。当初は一人も考えていましたが、より半人前さが出るように双子にしました。アシンメトリーなデザインをシンメトリーに配置するという形でポージングやコマ配置を検討しています。
片方が放った言葉を単に反芻したり、あまり意味を変えずに連ねたりと、ちょっと抜けてる感、マリオネット感が演出できてるでしょうか。半人前のままいつまでも成長しないためか、水には半ば呆れられて正しく名前を呼んでもらえていません(丁と半とか、右と左とか、勘と合とか適当に)。ちなみに作者は親しみを込めて(二人まとめて)道士ちゃんと呼んでいます。
 半人前という設定なのでまだ仙人には至れておらず、定命かつ不安定、注意力散漫です。しかし麓の民に比べるとしっかりと人間離れしており、髪の色素は鮮やかに変色し、多少なら仙術も操れるレベルに達しています。麓の火事にあまり時間を掛けずに駆けつけたり(間に合いませんでしたが)、町中を高速で駆け回って避難を呼びかけたりしています。霊山の水の泉とは別の場所に、彼女らの修験場かつ住処の廟に滞在していて、普段はそこで過ごしています。彼女らは水の使いとしても機能しており、水が行くほどでもない麓の問題はできるだけ解決するようにしていて、町民からの信頼は実はそこそこに高いです。ただし集中力がないので、町に出向く度に遊んで修業がおざなりになり怒られるのが常です。作中の水の説明の通り、彼女らの中途半端なところが全面的に悪さをしたのが話の冒頭となります。

双道士 設定画
青イメージの水、赤イメージのホウセンカなので、どちらでもない緑に
双道士 衣装案
(初期は笠でネーム描いていましたが、ホウセンカと被るのでボツに)

 二人して霊山で水に助けられた経験があり、水に弟子入りそして心酔しており、水を過剰なくらい褒めます。仙人になりたいというよりは、彼女に近づきたいというのが本音かもしれません。なので後日、再び人間の姿を得たホウセンカには道士らしからぬ猛烈な嫉妬をするでしょう。ただホウセンカを「綺麗な赤い花」と称しているあたり、なんだかんだホウセンカと再会してもやっていけそうな気がします。

・ホウセンカ

ホウセンカ 水墨画風イラスト

 本作の敵役で、ネームドの中では唯一の(容姿が)男性のキャラクターですね。細かいこと言うとまあただの花なんで厳密には両性具有というところでしょうが、人間体はあくまで表層かつ願いを受けた結果として出力されたものなので、いくらでも変わる可能性は秘めています。また、ただの花なので発声器官がなく一切喋りません。人間のような複雑な感情は持たないものの、痛覚と快不快は明確にあり、傷付くと反撃(反射)行動を取ります。人間体は長袍(チャンパオ)のような体のラインが際立つ服を纏い、中国式の剣を携え笠を被った剣客という雰囲気でデザインしました。ちょっと笠が日本の刺客っぽい気もしますが気に入っています。
 顔立ちと色合いが少し双道士に似ています(こっちを先にデザインしたという話ではあるのですが)。眉はなく、笠で顔に影が落ちているかと思いきや黒ずんだ模様です。笠を外すと仮面被ってるみたいな状態になります。発声しないため口は基本的に開けませんが、驚いたり水を補給する時のみ開きます。レアです。(植物なんで半身浴でも水吸いますけど)
 笠からはみ出ている茎は髪の一部かつホウセンカの茎と葉そのもので、体が地面に接触していると地下に潜って生息域を広げます。あまり表現できませんでしたが、彼が歩くと足元でワサワサとホウセンカの花が咲いていくんです。…いや表現できてたらそれはそれで野盗に似合わずメルヘンすぎるかも。

ホウセンカ 設定画
ホウセンカ 初期ラフ1
ホウセンカ 初期ラフ2
ラフが多いことからも、彼は気合が入っているのがわかります(笑)

 最初は道端に咲く一輪のホウセンカだったのですが、双道士を経て山の霊力の影響を強く受け、「野盗であれ」と願われた人間体が表出しました。以降は噂が霊力を強化し、目撃者のいない事件現場に種を弾き飛ばして生息範囲を広げ、色々な悪事をなすりつけられる度に巨大なホウセンカの群体に変化していっています。町民たちが「山が燃えている」と表現したのは、ただの比喩というわけではなく、実際に広範囲にホウセンカの赤い花が及んだ結果です。人間体の部分は霊力によるものなので実体があるようでなく、自分の群体が及ぶ範囲であれば自由にリスポーンしたり、姿を消したりすることができますが、人間に「そうあれ」と願われている存在故に、自分でその形を変化させることはできません。なので「火のように赤い」と言われた瞬間に火を纏えるようになり、「鳥みたい」と言われた瞬間に初めて飛べるようになりました。そしてホウセンカの誤解が解けて最後はただの花の種に戻りました。要するに彼、作中で悪いことは何もしていません。最初の事件は落石事故っぽさがある描写なのと、その次の事件では獣の爪にやられたっぽい遺体であるのがポイントです。
 そこから導かれる割と胸糞悪い事実として、自然災害や獣害を除いた麓の人間や行商人を襲った事件には全てホウセンカとは別に人間の犯人がしっかりおり、それらは全員見逃されています。本来なら双道士が解決すべき問題ですが彼女らは再修業しなければなりませんので、水がこれから育て直した彼を使って真犯人らを捕まえ、正しい火の起こし方、つまり真実を広めに行くわけです。現実と同じで、ただ道端で咲いてただけの花の風評被害を立て直すのにコストが見合わな過ぎますね。

○後日談「水あるところにホウセンカ」

水、ホウセンカを栽培する。

使い魔的な存在として復活したホウセンカ。本体が植物なのはそのままですが、水の影響を受け、纏う属性が火から水に変化しています。

水、双道士そっちのけでホウセンカを溺愛する。

作中では何もしてないホウセンカですが、割と色々できるホウセンカに進化。しかも観葉できる。

双道士、なかよし。

タイミングよく花が咲いただけなのかどうなのか。
同じ行動をとることが多い双道士ですが、片方がツッコミになることもあります。

 別サイトのコメントで頂いたのですが、この世界の別の話(この4人の続編でも、別の仙人の話でも)も楽しそうです。そのコメントで、このオマケを描いてみました。いかがでしょうか。それぞれキャラ立っていますので、すぐに思い浮かびました。描くの楽しかったです。

○まとめ

「火のないところにホウセンカ」いかがでしたか。
 表現と内容をリンクさせた試み、作者としてはとても楽しめました。次回作以降も、アイディア、キャラクター、ストーリー、色々組み合わせて可能性を広げていきたいと思います。
それでは皆さんお元気で。また次の短編で会いましょう。ではでは。
A.T.JANPI

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