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街道にて 後書き

どうも作者のA.T.JANPIです。
 この度は標題の作品をご覧頂きありがとうございます。
後書きということで相変わらずネタバレ全開で参りますので、未読の方はこちらから↓

 この1年間で漫画の短編が既に4作目なので、「後書き多いな」と思われてるかもしれませんが、これはリハビリ期間のようなものなので悪しからず。よろしければ過去作とその後書きも読んでってくださいね!!!!!

前作後書き

前前作後書き


〇きっかけ


 この作品を描き始めたのは5月頭頃なのですが、そのほんの1ヵ月半前まで構想の一欠片もありませんでした。この短い間に何が起こったかと言いますと、まあ作者のリアルライフイベントですね。当作品、作者に時々発生します「リアル事情によって突発的にアイディアが発生してその時の激情に任せて短期間で描く」系の作品です。
 具体的に何があったかと言いますと、後述しますが3つありまして、作者の転職・身内との関係性の変化・ペットの死(これは厳密に言えば執筆中に起きた出来事ではありますが)ですね。自分でも思いますが短期間に色々起きすぎです。この3つを強引にまとめれば「出会いと別れ」です。過去作にも「この作者明らかに就活でなんかやらかしただろ」って推察できそうな短編(これも一時の激情に任せた系作品)も描いてますが、特に就活はホント…良くも悪くも全部自分の感情グッチャグチャになるんですよね…。

※当該作が気になる人はこちら

 この一時の激情に任せた系作品が生まれる理由としては、日記のような単に「記録」としての意味合い、そして執筆時の作者の感情を整理する意味合いの2つがあります(つまりかなりの確率で悲しい出来事がベースとなります)。特に後者について、日常生活において立場が近しく、助言を与えてくれる存在は貴重なもので、辛い時にそれが都合よく近くにいるとも限りません。なので、イマジナリーフレンドあるいは作者の投影存在を作品を通して作り出し、「辛い気持ちを自分だけのものにしない」ために筆を取らずにはいられなくなるのです。

 この欄にはこれ以上書くことはありません。
 Web上に後書きを書き始めて以来最もあっさりしていますね。

〇世界観


 本作の重要なファクターである「馬」について説明します。現実世界の「馬」よりも遥かに意味合いが広い言葉になっており、生物無生物・動物の種類・素材・大きさ・形状問わず乗り物全般に使われています。登場人物の会話も、馬の世界観が前提の言葉運びをさせていますので、そこに注目してみても面白いかもしれません。
 単なる移動のためだけでなく、旅人や遊牧者も皆「馬」を持ち、馬用の舗装路、中でも大きな街道には人と馬がごった返しています。必然的に街道周りで経済活動が盛んに展開され、この世界の景観を形成しています。宿泊施設である「駅(うまや)」は、馬主や騎手など馬を連れた人のみ(自分の馬でなくとも可)が使うことができ、餌や水の支給、馬場や馬医など馬のケアも充実しています。
 本作をよく見てもらえると、動物系だけでもケフセの牛に近い馬や、キリンのような馬、ウサギのような馬、ヤギのような馬、無生物だと木馬や巨大な鉄馬など多種多様です。馬の種類には地域性や職業性が表れやすいので、珍しい馬などに目新しさは覚えることこそあるものの、これらが街道を走っていること自体は誰も驚きません。そして大きい馬ほど大きい人員を抱えられるため、大きい馬の上(中)では会社などの組織・共同体が形成されることもしばしばあります。つまり、「馬」は時に単なる乗り物という意味を超え、「所属」を象徴するものでもあります。よって馬に「乗る」「降りる」行為は物理的な動作以上の意味をも持ちます。今作は、馬と所属が直結する二人が駅で出会ったというシチュエーションです。
 ちなみに、作者投影系の話でなぜここまで風景描写を頑張ったかと言われれば、現実で起きたことを現実世界そのままで描写しようとするとあまりに絵面が生々しいからです。このような心象風景となった背景には、馬に多少の縁があるのも一因ですが、なんといいますか…馬や動物の乗り物という要素について、時勢(2021年)的にウマ娘やモルカーが流行ったことの影響がなかったとは…言い切れません(笑)


〇キャラクター


 今回はネームドはシンプルに2人です。シンプルに登場人物が増えるほどシンプルに内容が長くなることを学んできましたので。
 馬を連れている世界観を描く上で、最初に思い浮かんだのがモンゴルの遊牧民だったため、彼らの衣装はモンゴルの民族装束のデールを参考にしました。背景だけでも大変でしたが毎回描く服飾も積もり積もって大変でした。

・ケフセ

ケフセ2

 今作の主人公です。遊牧民で年齢は18〜25程度だと思います。牧地を巡って世界を旅しているため、年齢の割に知識豊富で、好奇心旺盛な性格。4人家族の長男。写真や回想からもわかるように、年老いた父と病に倒れた母、馬を乗り換えた(≒嫁いだ)妹がいます。ちなみに写真の妹は拡大するとこんな顔していました。名付けるなら「クラーファ」。髪・目・ペイントの色は兄と同じです。

クラーファ


 ケフセの連れている「馬」は角を持った大型の4足歩行哺乳類型動物(4人程度乗馬可能)で、現実世界だと大きくしたオリックスが近いです。

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※ちなみにオリックスはこういう生き物(作者撮影)

 普段は街から離れたステップ(草原)を、馬で移動して過ごしています。今回はこの馬が大怪我をしたために、馬医に見せる目的で1頭連れて街道入りしましたが、通常であればもっと多くの家財を積み、今作に出てきた以外の家畜馬も連れているイメージです。作中、他の馬と家財は誰かに預けていると考えられます。街に入ることは必要最低限の買い物や今回のような緊急事態を除けばほぼないため、彼はまだ街の馬を見慣れておらず、鉄の馬や大型木馬も今作で初めて見ます。
 彼が主人公とはいえヒッテの話が主軸で進んでいるので比較的目立ちませんが、彼は作者の「身内との関係性の変化」を投影したキャラクターになっています。ヒッテが馬を降りたのに対して「まだ鉄の馬に残ってる騎手は何を思っているのか」ということを思索しているのは、他でもない自分自身が降りられた立場に少し戸惑っていたからでもあります。また、何故馬が怪我をしたのか、何故馬の食欲がないのかなどの馬の描写もその伏線のつもりで描いています。要はヒッテは「馬から降りた人」で、ケフセはそれに対応する「馬から降りられた人」だったということです。馬の怪我というアクシデントに見舞われつつも、対照的な立場のヒッテと出会ったことで自分もゆっくりと感情を整理していたのですね。関係性の変化や自分の立場の転換から来る感情の起伏を手綱で表現することを思いついてから、ケフセは明確に遊牧民の設定になったと記憶しています。
 最後、ヒッテに手を振ることを教えますが、大手を振る動作は遠目でも確認できるサインなので、広大な大地を歩む実に遊牧民らしい発想ではないでしょうか。ほんの1か月程度の出来事かもしれませんが、二人はまた手を振りあえる良い関係を築けたと思います。

 

・ヒッテ

ヒッテ2

 今作の準主人公です。街で生まれ育った年齢20〜28前後の女性です(ケフセよりやや歳上のイメージ)。後述しますがエンジニアの一種なので、その筋の専門知識を持ち、実体験こそないものの遊牧民の生活のことなども文献で読んで知っている博識かつ勤勉、そして本音を隠さない正直な性格です。特に旅や風景鑑賞に関心が強く、その兼ね合いもあって人生のどこかのタイミングで鉄の馬に乗り込み、一騎手として働いていましたが、仕事に不満があったことから馬を乗り換えることが決まっており、次の馬が来るまで(≒鉄の馬が彼女の目指す道から完全み違えるまで)駅で時間を過ごしています。職業は鉄の馬の騎手でありながら、鉄の馬の整備士でもあり、広義に捉えれば彼女も馬医です(ただし鉄の馬限定の)。彼女がいつも手にしている紙は鉄の馬の図面で、交通の影響の少ない夜にたびたび高所でメンテナンスや航行スケジュールの調整を行っています。鉄の馬ほど大きいと、街道だけではなく空路にも影響があるので調整が大変そうです。今作では鞍(≒席、デスクに似た概念)から降りて次の馬に乗り換えるまでの彼女の心情の変化が話の大筋となっています。
 「きっかけ」の章に書いたので察せる方もいらっしゃるかと思いますが、「作者の転職」を色濃く投影したキャラクターです。泣いていたのは、彼女の馬を降りる理由は仕事そのものにあるのであって、人間関係には波及していませんし、「初めて自分で乗った馬を降りた」という自分の負い目を感じている部分もあるため、直前になって無性に寂しくなってしまったのです。
 木馬に乗り換えた後も大きな定規はそのまま持ち歩いているので、彼女は関連した業種に進むようです。彼女が進みたい方向へ進めるとよいですね。
 ちなみに鉄の馬に乗らずに駅の宿泊室内で仕事をするのは、会社から距離を置くという意味合いもありますが、テレワーク要素も多分に含んでいたりします(※実体験)


〇小ネタ

・鉄の馬

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 「電車みたい」と感想を頂いたことがありますがモチーフはモロ電車です。「厩」や「馬舎」ではなく「駅」って漢字をわざわざ使ってるのもそういうことです。現実と違う点は幾つかありますが、足と耳が生えてること(何故かこの世界の無生物馬は生物馬を真似た意匠を付けがちです。かわいいですね)、ほぼほぼ空を飛んでいること、レールがないこと、会社ごと運んでいる点ですね。空想世界とはいえ鉄ほどの密度の素材でこれだけの巨体が軽々歩いているのも変な話なので(?)もしかしたら「鉄の馬」と言いつつ実はジュラルミン的な素材だと思います。そのあたりは現実と同じですね。
 描写はしていませんが、ヒッテが「お客様」と発言した通り、文字通りの「駅」で騎手以外の客や貨物を乗せ、乗馬料を取って街や街間を運搬しています。小回りは動物馬や小型馬(※自転車や自動車)の方が良いですが、大量の貨物や人員を一気に長距離運べるという利点はこの世界でも変わりません。レールこそありませんが、あれだけ大きな馬が通れる道となると限られているため、かなり長いスパンで決まったルートを走っており、本作に登場した以外にも鉄の馬は走っています。

 ところで、ケフセは鉄の馬に明かりが灯っている様子を見て「こんな遅くまで乗ってる人がいる」ことを純粋に感嘆していますが、これがどうすごいことなのかどうか、ヒッテが降りている理由などからお察しください。


・駅と簡易駅
 実は本作で出てくる架空の文字は全てある法則で簡単に読めるようになっているのですが、それで看板などを読むと、1ページ目の街道に沢山出てくる建物はほぼ全て「簡易駅」という施設です。最寄りの駅もっと近かったろ!!とは思うかもしれませんが、簡易駅は文字通り簡易な駅でして、安価な代わりに部屋は手狭で、馬医の常駐なし、人単体で宿泊可能、そもそも馬を駐めるスペースがあまりなく小型の馬しか受け入れていないなど、駅とは毛色の異なる施設です。施設充実度としてはビジネスホテルやカプセルホテルが近いです。今作のケフセが簡易駅に泊まるならそれは、家族と犬連れていきなりビジネスホテル泊まろうとするようなもんです。ケフセの馬は家族用で結構大きいので受け入れ不可でしょう。
 実際ケフセが泊まった駅は部屋こそ低級の相部屋しか空きがなかったものの、馬医は常駐し、餌や水の支給もあり、広大な馬場を持ち、馬のための寝屋も確保されています。仮に部屋が空いていなくても、ケフセは最悪馬場の一部を借りて自分のゲルを立てて寝泊まりすることもできたわけです(ケフセはどこでも寝られるスキル持ち)。おまけに小高い崖上に立地し湖も見えて景色よし。ケフセ達にとっては至れり尽くせりです。馬場の広さに対して部屋の空きがなかったのは、持っている馬が動物でないパターンや、ヒッテのように馬を持っていなくても騎手なら入れるという人単体で泊まれる裏技的手段を行使しているパターンがあるため、圧迫しやすいのでしょう。

・高所作業

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二人とも!!!!!!屋根上で歩くなら!!!!!!安全帯!!!!付けろ!!!!!死ぬぞ!!!!!!できればハーネス!!!!


・鳥

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 馬がテーマなのであまり深掘りしませんでしたが、ヒッテ(と鉄の馬の騎手)の伝令鳥など「鳥」もこの世界の大きな移動物カテゴリーです。馬と同様「空を飛ぶ(乗り)もの」を総称して「鳥」と呼称します。この世界では、動物だと飛ぶ鳥類や蝙蝠、無生物だと風船も気球も飛行船の類も「鳥」です。ちなみにダチョウのような飛ばない鳥は「馬」です。鉄の馬はギリギリ地に足付けて4足歩行しているので「馬」ですが、ペガサスのように飛行ができれば「馬」でも「鳥」でもあります。海中海上の移動物の場合は考えてないですが…「魚」?
 「馬」が街道に集うように、「鳥」は空路に集います。本当はもっと「鳥」を描いてもよかったかもしれません(※力尽きました)。人が掴まれるような大鷲などがいるかもと考えるとロマン溢れてきますね。

・馬の餞(はなむけ)

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 日本の古典で有名ですね。最後ケフセがヒッテに教えたおまじないです。文字通り目的地に鼻を向けることから来ているようです。この字「餞」は「餞別」の最初の文字と言えばわかりやすいでしょうか。ラストシーンは、何かケフセからヒッテに贈り物をしようと考えたのですが、馬に絡めて最終的にこの形に落ち着きました。
 おまじないの効能については作者が独自に考えたものですが、経験から道を見出すことは普遍的なことに思えますし、現実でもそう大きく変わらないのではないでしょうか。夢や死の間際見るものといえば、そう、走「馬」灯です。


〇まとめ

 「街道にて」いかがでしたか。20ページの短い話を久々に描きましたが、書きだしてみると語りたいことは沢山あるものですね。今作はもともと言葉であまり語らないような構成にしようと考えていたので、どっぷり世界観に浸かっていただければ幸いです。連続で投稿するのは最後とか前作で言っていた気もしますが、リアルってやはり感情を最も動かしてきます。次はさすがに続き物を描こうかな…と思います。

それでは皆さんお元気で。また次の短編で会いましょう。ではでは。

A.T.JANPI


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