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経済成長の基本軸を揺るがす労働市場の悪化(3) = 子供を持ち家族を支える働き盛りの女性を救え =

                      2020年12月 18日

 これまで日本の成長を支えてきた女性に雇用不安が集中していることを確認してきたが、ここでは離職させられ非労働力人口に追いやられた人達を男女別年齢区分で眺め、政府の対策が如何に肝心なところが抜けた「画竜点睛を欠く」ものであるかを明確にしたい。

〇 65歳以上、15~24歳、そして45~55歳の労働市場退出目立つ

 それでは失業保険給付も受けられず労働市場から退出した人達について、男女別、年齢区分別に眺めてみよう。

 図1、表1は男女別、年齢別の非労働人口の推移を四半期ベース前年比増減で示したものである。20年Q4の数値は10月単月のものである。

年齢別非労働力[2924]

図1. 非労働力人口の推移(四半期、前年比増減、万人)

表1. 男女計 : 非労働力人口の推移(四半期、前年比増減、万人)

非労働力人口(年齢)(男女計)[2926]

 男女計の非労働人口は4-6月期に前年比44万人増と急増し、7-9月期以降は22万人増と増加幅は半減したが、以前高い水準で増加を続けている。

 表1を合わせて参照しながら男女計の推移を年齢別に眺めると、65歳以上が1-3月期に既に増加を示し4-6月期、7-9月期と年齢区分でみて最大の増加幅を記録している。

 これに続くのは15~24歳、35~44歳であるが、7-9月期の前年比増加幅は65歳以上も含め4-6月期の半分以下の増加幅となっている。

 この動きと異なるのは45~54歳で4-6月期の前年比1万人増から7-9月期は同9万人増へと急増し、35~44歳の同5万人を上回ってきている。25~34歳も7-9月期には4万人増とプラス、すなわち労働市場からの退出が増加している。逆に眺めると、55~64歳のみが4-6月期以降も前年比で減少、労働市場への参入を続けている。

 10月について眺めると、15~24歳が前年比で17万人増と7-9月期の3倍以上増加、65歳以上がほぼ横ばいの10万人増、そして45~54歳14万人増と年齢区分のうち3世代の労働市場退出が増えている。半面、35~44歳が7-9月期の前年比5万人増から11万人減へと変化し、この世代の労働市場復帰が目立つ。

〇 女性に集中する離職者

表2,表3はそれぞれ男性、女性の年齢別非労働力人口の推移である。

表2. 男性 : 非労働力人口の推移(四半期、前年比増減、万人)

非労働力人口(年齢)(男性)[2919]

表3. 女性 : 非労働力人口の推移(四半期、前年比増減、万人)

非労働力人口(年齢)(女性)[2925]

 図1や表1にあるように、男女合計の非労働力人口は4-6月期に前年比44万人増の後22万人増で推移している。これを男女別に眺めると、男性の非労働力人口が4-6月期前年比16万人増となった後、7-9月期2万人減、10月には前年と同水準となるなど非労働力人口の増加が止まっている。

 すなわち、非労働力人口の増加、離職者の増加は女性で起こっているということである。これは取りも直さず労働力人口の減少が女性を中心に起こっているということである。

〇 男性:学生アルバイトの離職高まる一方、早期退職の動きも観察される

 図1と表2で男性の非労働力人口の推移を年齢別に眺めると、急増した今年4-6月期においては65歳以上の男性が前年比で10万人離職者が急増、また15~24歳から35~44歳までの世代でも離職者が増加している。逆に見れば、中堅以上の現役世代は前年比で減少を続けている。

 7-9月期では35~44歳と65歳以上の世代が前年比で2万人の増加を示した以外は各世代で前年比減少を示している。唯一55~64歳の世代のみが引き続き前年より減少を続けている。

 10月について眺めると、15~24歳の世代が前年より8万人増と最大の上昇をしめしており、学生アルバイトの離職者が急増していることを示唆している。65歳以上は前年比で減少に転じ、55~64歳が引き続き減少する中、45~54歳の世代が前年比で増加に転じたことは早期退職が進展してきているのかもしれない。

〇 女性:働き盛りで家庭や子供を持つ女性の離職が多い

 それでは離職し労働市場から退出している人達の大半を占める女性について図1と表3で眺めてみよう。

 前年比で28万人増を示した4-6月期は、25~34歳を除いてすべての世代で離職者が前年より増加している。とくに65歳以上(同14万人増)と15~24歳(同11万人増)の世代が大きく、35~44歳(同7万人増)が続く。

 7-9月期には25~34歳の世代も離職者が前年比で増加に転じた。結果、若年層の14~24歳から45~54歳までの世代全てで離職者が増加している。65歳以上の世代は離職者の増加が続いている。その中で唯一55~64歳の世代は前年比で8万人の減少となり、すなわち労働市場へ復帰している。

 10月について眺めると、25~34歳、35~44歳の世代が前年比で減少、労働市場に復帰している。離職が増加しているのは、15~24歳、45~54歳、そして65歳以上である。55~64歳は10月も前年比マイナスで労働市場への参入が続いており、労働市場では欠かせない世代という姿を示している。

 離職増加が継続している世代は3世代で、65歳以上の世代、15~24歳の若年世代に加え、働き盛りで家計や子供を持つ女性が多い45~54歳世代である。この世代の人達は男性も女性も経済活動の主軸を担っている世代であるが、この世代に大きな圧力がかかっている。

〇 「就職氷河期」を経験した多くの人達が存在する中、女性就業者が急増

 今回のレポート(1)とレポート(2)でもご説明してきたことだが、日本の労働市場を再度眺めて頂きたい。

 図2はレポート(1)でお示しした労働力人口と非労働力人口で構成される経済人口の推移である。13年以降労働力人口(就業者+失業者)の増加の裏側で非労働力人口が減少を示している。

経済人口(図)[2920]

図2. 経済人口の推移(四半期、前年比増減、万人)

 すなわち、労働力人口の増加は、15歳以上の経済人口が増加しない状況の下で、労働市場から退出していた人達を労働市場へと送り出すことで起こっていたということである。経済人口は17年以降減少傾向を強めてきているため、労働力人口と非労働力人口の関係が一段と強まってきている。

 この動きを確認した上で、レポート(2)でお示しした図3の就業者の推移を眺めて頂ければ、非労働力人口から労働力人口である就業者として送り出された大半は女性であるということが明確な事実であると確認できるだろう。

就業者[2923]

図3. 就業者の推移(季節調整済み、07年1月以降累積、万人)

 別の視点から眺めれば、「就職氷河期」を経験してきた35歳以上の人達、とくに男性が就業者として拡大していないということである。「就職氷河期」を経験した人達は人口減、少子・高齢社会の進展の下で、経済成長の基本軸であるにも関わらず、政府はこの基本軸の揺るぎに対して明確な政策を施してきていない。

 財政赤字、医療費急増を叫ぶ政府が施す施策が「失われた30年」を生み出してきたという「画竜点睛を欠く」施策が継続してきた証左の一つである。このような状況の下で、13年以降女性の労働市場への参入が急増してきたのである。但し、今回、東京都は今年8月から来年3月末まで「就職氷河期世代 Reチャレンジ」と銘打って事業を展開している。

〇 所得確保のため急増した「女性の社会進出」

 13年以降の女性就業者の急増は単なる「女性の社会進出」ではない。就職氷河期」を経験した多くの人達の所得確保がその根底にある。

 図4は雇用者所得(名目)を雇用者数と一人当たり雇用者所得に分けて、それらの推移を示したものである。雇用者、すなわち女性を主軸とした雇用者の増加で雇用者所得が増加している。但し、一人当たり雇用者所得の伸びは前年比1%前後で推移しており、サービス業での女性パートやアルバイトなど非正規社員が主たる雇用増であることが分かる。

雇用者所得[2922]

図4. 雇用者所得の推移(四半期、前年比増加寄与度、%)

 このように一人当たり所得が低い中で、年金や介護保険料の支払いが加わり、さらに14年、19年と消費税率が引き上げられ、家計の実質可処分所得を圧迫し続けている。これらの家計圧迫が女性を労働市場へと送り出してきたのである。

〇 成長低迷、所得格差と財政赤字を再拡大させる「画竜点睛を欠く」施策

 これまで眺めてきたように「就職氷河期」を経験し、家計所得を賄うために労働市場に参入してきた女性がリーマンショック後の日本を支えてきたが、そこに新型コロナ・ウイルス感染拡大による社会経済活動の停滞が襲っている。

 起きていることはこれまでの経済不況ではなく、疫病により引き起こされたものであり、国民の感染拡大沈静化とPCR検査、医師・看護師を含めた医療体制の充実が第一で、次に社会経済活動停滞による失業者や労働市場から退出させられた人たちの救済である。

 そのためにもこれらの分野への直接的な支援金給付が急務であり、政策浸透状況の検証を基に迅速さが必須である。

 人口減、少子・高齢社会が進展する中、彼らは所得を生み出し、年金・介護保険などを賄い、消費税も負担する経済成長基盤の基本軸であることを理解し、その実態を確認すべきである。

 政府が打ち出す経済支援や政策、税制改正にはこの経済成長基盤の基本軸を強化する視点が全く欠けている。まさに「画竜点睛を欠く」ものである。「選択と集中」すべき視点が間違えている。

 「画竜点睛を欠く」政府政策を打ち出しても、成長基盤の基本軸の揺らぎは新型コロナ・ウイルス終息後においても、経済回復、拡大に大きな足かせとなるだけでなく、所得格差拡大、財政赤字拡大を増幅させる可能性が非常に高い。次の「失われた30年」を生み出さない視点と実行力が急務である。

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