JPEXの電力価格をみてみる

ここ数日電力の価格が高まっており、JEPXでの電力取引価格は連日過去最高値を更新しているらしい。コロナになってからというもの、ダウ・東証・ビットコインに続き電力まで大忙しだ。(とはいうものの電力価格の高騰はコロナ相場のような過剰流動性により引き起こされたものでは無く、純粋に冬季の電力需要増加と供給のための燃料高騰が原因。)

電力の価格は夏季冬季に自然に需要が高まり、需給が逼迫すると急騰により価格に"スパイク"が度々生じることは以前も耳にしたことがあり少し気になっていた。日本の電力取引所であるJEPXサイトの下記ページを見てみると電力価格の過去データが利用可能であったため、実際にこれ見てみることにした。



取引形態

とりあえず取引形態について最初に簡単に紹介する。
詳細が知りたい人は以下のページの"取引規定"や"取引手数料"のPDFを参照のこと。(これからする自分の記述が間違っていたら教えてください。)

(1) 取引可能な商品

第3条 本取引所に,電気等の実物取引を行うための次の各号の市場を置く。

によればJEPXではスポット取引、先渡取引、ベースロード取引、時間前取引、間接送電権取引、掲示板取引の6つの取引ができるらしい。
電力取引では「ある日付のある30分間で利用する電力」について取引を行う。24hが48分割されており、それぞれの時間で利用する電力が1つの商品として取引されている模様。スポットでは翌日日付について、先渡しでは翌日以降の日付についての取引がされており、こちらがメインの取引。時間前取引では電力の受け渡しの直前まで取引が可能で、電力の過不足分をここで調整する。今回は喫緊の需給状況により大きな影響を受けそうな時間前取引を見てみることにした。

(2) マッチング方式

時間前取引はザラ場方式で行われる。すなわち売り買い両サイドの入札を集めて時間優先・価格優先の原則のもとにこれらをマッチさせる。入札受付の時間は以下の記述によれば恐らく前日17時から受渡時刻-1Hの間。つまり最初のタームほど取引可能時間は短くなる。

第63条 受け渡しの30分間を1商品と呼び,商品毎の取引の期間は,その商品の属する日の前日の午後5時を開始時刻とし,受渡の時間帯の1時間前の時刻を終了時刻とする。

(3) 取引単位

呼値は1KWhに対し行われ取引は50kWhから可能。電力の感覚はイマイチわからないが、スマホの電池が1000~5000mAhとかだった気がするのでスマホがn万台くらい充電できそう。

第66条 時間前取引の呼値,呼値の単位,取引単位および受渡単位は次のとおりとする。
    呼値: 1キロワット時
    呼値の単位: 0.01円
    取引単位: 50キロワット時
    受渡単位: 50キロワット時

(4) 手数料

時間前取引売買手数料 0.10 円/kWh(税抜)

(5) 決済時刻

電力とお金の受渡はその電気を受け渡す30分間に行う。忙しそう。ちなみに土日も取引可能な模様。

第62条 本取引所が仲介を行う時間前取引では,取引の当事者が本取引所の定めるところにより,数時間後以降のある30分間に受け渡す電気の売買を行い,本取引所の定める方法により,当該受渡時間における電気の受け渡し,および対価の授受が行われなければならない。


データ

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時間前取引について利用可能なデータは上記。毎日更新されている。
特にdescriptionはないものの、ある"年月日"はそれぞれ"時刻コード"(1~48)を持っており、各行(=年月日, 時刻コードの組)が1商品に対応するはず。OHLCVについては取引可能な時間帯である前日17時から当該商品のterm-1Hまでの期間で計算しているはず。以下の数字は期間2017.04.01 - 2021.01.09のデータで計算したもの。

(1) 出来高

各30minタームについての約定量時系列。
不均一でたまにバチ上がりする時がある。前情報通り8月近辺に生じやすい。
出来高は典型的にはあるタームについて数百万円程度、24hで1億円程度。

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約定量のseasonalityを見る。
month, weekでは24h約定量の平均を集計。intradayでは30minターム毎の約定量の平均を集計。
・春秋 < 冬 < 夏 (夏の電力消費が大きいのは周知である)
・土日 < 平日 (土日は工場や会社が閉まっているからか)
・17時前後のタームが活発に取引される. (過不足が起こりやすい時間帯かもしれない)
辺りがわかる。

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(2) 価格

各タームのクローズの時系列が以下。大体10円前後だがたまに数10円~100円台にまで爆上がりする。最近200円台をつけた模様。

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クローズで測った1日内のターム別最大価格比は1000倍以上に達する日もある。
1割程度の日で10倍以上のターム別スプレッドが生じる。

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下はターム00:00のopen priceから測った、各termの平均価格。
商いが活発な17時近辺に向けて高い値がつきがち。termによるスプレッドは数円にものぼり、典型的な価格が10円程度だったことを踏まえるとこれはかなり大きい。

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戦略: お昼に買って夕方売る

先ほど見たterm毎の価格の推移を見るとお昼の電気は不人気な一方で夕方17時の電気は人気で高い価格がつきがちだったので、単純に毎日term12.30の電気を買って保管しておき17:30termで売り渡すと儲かりそうに思える。

執行価格は平均価格として、取引手数料0.1[円/kWh] x 2と購入時の消費税10[%]を控除済の1往復あたりのリターンを計算した。以下リターンの分布と要約。

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なんと平均+80%, 中央値+40%となる。1379回往復して125回しか負けず、シグナルノイズ比(mean/std)は0.45。分布は歪んでいるものの正の方向に厚く理想的。

エントリサイズを最小単位(=50kWh...最大でも1万円に満たない)に固定して2017.04から継続すると30万円ほど儲かる計算になる。典型的なエントリサイズが300円なので3年半で1000倍だ。

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考えられるその他のコスト

誰でも考えそうな簡単な戦略の割にあまりにリターンが良すぎるので何か他の要因でリターンが相殺されるのではないかと思った。適当に考えたものを挙げてみた。

・充電/放電によるロス
購入した電池を売却まで持っておくためには電池に貯めておく必要があるし、売却時には電池から取り出さなくてはならない。この時充電・放電のために電気が目減りする。家庭用の電池の性能では大体以下らしい。

充電する際に約5%のエネルギーロス、放電する際にも約5%のエネルギーロスが生じる http://太陽光発電メリットデメリット.biz/solar/battery/1801.html

・送電によるロス
売却時には50kWhの電気を相手に送らなくてはならないが、送電時に目減りしてしまう。これを負担するのはおそらく供給側だろう。

2000年以降、日本の送電ロスは概ね 5%弱とされている
https://jilays.com/word/送電ロス/

上記から、
・購入時に電池に充電する際に5%
・購入から売却までに自然放電1%
・売却のための放電に5%
・送電で5%
の電気が消失するとしてさらにコストを加える。12:30と17:30の間くらいのterm15:00の平均価格でこれらを換算してコストとして加味するとリターンは以下になる。

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コストを加味してもリターンは平均で50%以上もあるし、シグナルノイズ比は0.3で相当良い。

・bid offer スプレッド
しかしながらもっともさもありなんなのはbid offerスプレッドコスト。板情報が利用できないため確かなことはなにもいえないが、少なくともオファーを出せる市場参加者はかなり限られると想像され、相応にスプレッドもワイドになるだろう。

上記のように加味できていないコストがあるか、もしくはこの取引はなんらかの理由で実行不可能なのだろうと思っている。
もしそうでないなら、田舎の余った農地にソーラーパネル+蓄電池を導入した方などは検討してみていただきたい。そしてもし実際に試して儲かるようだったら私だけにこっそり教えて欲しい。よろしくお願いします。



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