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【前編】直木賞候補作を全部読んでみた。

好きなアイドルが直木賞候補作家になった。凄すぎて情報公開された朝は騒ぎ倒したし、一日中ニコニコが止まらなかった。自担が書き続けてきた努力と真摯さが伝わるべき人に伝わったのが嬉しい。そして何より、ワイドショーで「光栄です」と語るとびきりの笑顔が素敵だった。

自担だからという理由で直木賞受賞を願うのもなんだか違う気がして、この大イベントを目一杯楽しむために全候補作を読んでみることにしました。普段は読まないジャンルもありますが、流石は直木賞候補作!どれ読んでも面白くて最高でした。

前半では以下の3作についてです!(全部一気に出そうと思ってたんだけど、下書きが消えてたよ。泣いた。卒論で同じことやらないように気をつけようね、未来の私。)

八月の銀の雪 伊与原新 (新潮社)

装幀が真っ白で美しい。雪の結晶が銀の箔押しでデザインされていて上品です。ジャニオタはビジュアルに弱い。

本作は5篇からなる短編集です。生きるのが得意じゃない主人公の背中をさするような優しい物語。鍵になるのは自然科学。伊与原さんの前職は地球惑星科学分野の研究者だといいます。

「簡単にいうと採ってきた鉱物や岩石のデータを解析することで地球の歴史を解明していくという研究分野」(「ルカの箱舟」出版インタビュー より)

地球と対話し続けてきた作者だからこそ、こんなにも自然科学を優しいまなざしで捉えられるのだな、と合点がいきます。

背表紙を閉じると温かな気持ちがじんわりと胸に広がります。どこか懐かしいのは、子供の頃に買ってもらっていた「ちいさなかがくのとも」という定期購読の絵本を思い出すからでしょうか。

特に好きだったのが、表題作の「八月の銀の雪」就活がうまくいかない生きづらい主人公を今後の自分に重ねてしまう…朝井リョウの何者・何様を読んでからというもの、就活で精神やられるのを覚悟してる私には、めちゃめちゃしんどい前半でした。でも後半では、少しだけ顔を上げます。コツコツゆっくり丁寧に、自分の芯を大きくしていくのが一番大事。真面目に頑張ろう。

モチーフとなる自然科学の現象たちについての解説もわかりやすくてロマンチックです。巻末の参考文献も圧巻でした。

なんと!期間限定で表題作が丸々読めちゃいます。 太っ腹すぎますね…

冬の、夜の長い日に読むのにぴったりです。文章全体から伝わってくる繊細さに、ほっこり癒されます。

(独特の雰囲気が好きすぎて月まで3キロも買おうとしています。早く読みたい〜!)

汚れた手をそこで拭かない 芦沢央(文藝春秋) 

終盤で気づいてゾワッとするお金と嘘をテーマにしたイヤミスが五編。

この状況からは逃げられない…、と気づいた時にはあとの祭りで、嘘に嘘を重ねて必死に取り繕っても最後にはバレてしまう。過ちを犯したらすぐに自分の罪を認めるのが最悪の状況を招かないための唯一の手段。人間って怖いし、愚かだし、知らなくていい事まで知ろうとするのってどうしてなんですかね…わかってはいるつもりなんですけどね…

私は「埋め合わせ」が特に好きでした。次点で「忘却」でしょうか。

「埋め合わせ」ではページを捲るごとに、早く謝りなよ〜!もう〜!と主人公に呆れますが、実際この立場に立つと言い訳やごまかしの方法を必死に考えてしまうのかもしれない。嘘を貫き通す胆力もないし、謝ろうと覚悟を決めても脳が勝手に言い訳を生成してしまう時は誰にでもあるかも… 謝るしかないですけどね、結局。

言い訳を考えてる時の脳内は物凄く早く回転しているような気がしませんか?(気がするだけでいつもより処理速度はガタ落ちしてる。)浮かんでは消え、回らない頭で必死に思考を巡らせる、そのスピード感と焦燥感の描写が本当に見事で、私の体温まで上がりそうでした。耳が熱い!

主人公がついた嘘が風船みたいに膨らんで、どんどん主人公自身を追い詰めてしまう。いつバレるのか手汗が止まらないヒヤヒヤ感が堪りません。最後には五木田のニタニタした顔が目に浮かんで、してやられた…と悔しくなります。うっぜーーーーー!でも悪いのは主人公だからなんにも言えない…

二転三転と目まぐるしく変わる推察や状況に主人公と共に混乱してしまう。作者の掌の上で転がされっぱなしですが、スリリングで面白かったです。

インビジブル 坂上泉 (文藝春秋)

時代背景についていける自信がなかったので、読破できるか心配でしたが、杞憂でしかありませんでした。

読ませるパワーが凄すぎます。内容は激重だし、骨太な作りで考えるべき内容も、目を背けてはならない問題もしっかりと記されています。それでも、旧帝卒のエリート守屋と、大阪の叩き上げ中卒警官である新城のバディが繰り広げる、テンポの良い会話のおかげでズンズン読み進められます。はじめはいがみ合っていた凸凹バディ。ですが、次第に相手を認めていき、足りないところを補い合いながら真実へと突き進む姿は、ジャンプ並みに王道でアツいです。キャラ立ちの仕方は少年漫画なのに、テーマは「戦前から潜む闇」というギャップが読みやすさ、及びエンタメ性を高めている最大要因だと思います。

文章から思い浮かぶ情景にはセピア色のフィルターがかかっており、ガヤガヤザワザワどぎつい大阪弁が聞こえてきますし、土埃の煙たさとしめった匂いがしてきそう。なんかもう、文全体が汗臭くて熱をもっています。昭和29年の大阪のリアルなんて知る由もありませんが、リアリティは半端ないです。

画の作り込みにとことん拘って映像化されてほしいです。コッテコテの大阪弁もそのままで。二夜連続放送のスペシャルドラマ「インビジブル」が見たい!!

後半ではオルタネート、心淋し川、アンダードッグスです。1月20日の選考会及び受賞作の発表まであと2週間。楽しみで仕方ない!!

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