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『世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞなくなる』皇太后宮大夫俊成

《意味》
あぁ、世間から逃れる道はないのだなぁ。思い詰めて入ったこの山奥でも悲しげに鹿が鳴いている。


救いと希望を求めて入った山。しかしそこも、悲しみから逃れることはできない場所だった。
絶望が深く響く一首です。


この歌の作者・皇太后宮大夫俊成こと藤原俊成は、小倉百人一首撰者・藤原定家の父です。歌道の大御所であり、千載和歌集をまとめ、和歌の新しい理念「幽玄」を確立するなど、日本の和歌の歴史の中でなくてはならない存在と言えると思います。


享年91歳というかなりの長寿としても知られており、この長生きに関しては「平家物語」の中にエピソードがあります。

平清盛の弟である平忠度が、合戦の最中に歌の師匠であった俊成のもとを訪ね、「世の中が落ち着いてまた勅撰和歌集が作られることがあり、その時にもし私の歌でお眼鏡にかなうものがありましたら一首入れていただきたい。そうしたら私はあの世から先生をお守りいたします。」と言い残します。
敗色が濃くなっていた源平合戦のさなかの弟子の願い、俊成は心打たれ、のちに「勅命集」に敗者となり命を落とし、名を残すことは憚られた忠度の歌を詠み人知らずとして選びました。そのおかげで俊成は91歳まで長く生きられたのだ、というものです。

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